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2章『結局のところすべては自分次第。』


 外に出れば湿度の高い熱気が俺を迎えた。
 空は灰色でいつ雨が降ってもおかしくはない天気だが予定通り体育館ではなく校庭で授業をすることになったので、一安心。
 だが、6月でこれなのだと思うと、この先が思いやられそうで嫌になる。
 鷲尾とともに校庭に行けばまだ先生は来ておらず、伊藤と叶野と湖越はこちらに気付いた様子はなく話している。
 ……先ほど鷲尾に頼み、伊藤と叶野に仕返しをしようと言うことになって適当に立てた計画だが、今なら成功しそうだと思ったのでたった今しようと鷲尾に言うと呆れた顔をされつつも、頷いてくれた。
 他のクラスメイトは俺らに気が付いているのもちらほらいるが、人差し指を口に当てて静かにするようにとジェスチャーをすると、少し意外そうな顔しつつもその通りに静かにしてくれたことを感謝する。
 鷲尾は『子どもみたいなことを……』と内心思っていたことを知らずに俺はこっそりと叶野の真後ろに立つ。湖越も俺らに気付きつつも周りの空気を察したようで黙ってくれた。
 俺は伊藤の、鷲尾は叶野の真後ろに立って
「せーの」鷲尾に合図をして、
「うおっ!?」
「ギャアッ!?」
「……あっ」
 俺は伊藤に膝裏に自分の膝で突いて、鷲尾は叶野のわき腹を力いっぱい掴んだ。
 伊藤は油断していたのか、驚いてそのまま地面に膝をついてしまい、叶野はとんでもなく驚いたようで飛び跳ねて慌てて後ろを見た。
 まさか膝が地面につくともそんなに飛び跳ねると思っていなかったのでこっちも逆に驚いてしまった。何故か周りからは『おー!』と感心した声が上がった。

「品のない叫びだな、叶野」
「え、なんで?一ノ瀬くんにされるのは分かっちゃうんだけど、なんで鷲尾くん?」
「お前一ノ瀬になにしたんだよ……」
「ちょっとわき腹掴んだ!」
「いや、どんな流れで掴んだんだよ」
「その一ノ瀬に仕返しの協力を頼まれたからな。」

 誰かと思って後ろを見ればこんな悪戯をするのとは無縁そうな鷲尾がいたことに叶野は驚いていたようだった。
 3人の会話周りもクスクス笑いながらも、視線はこちらに向いている理由は分かっている。
 膝をついたまま動かない伊藤とまさか膝をつくとは思わなかったうえ動かない伊藤にどう声をかけるか迷っている俺のことが気になっているんだろう。
 近くの3人の平和な会話を聞きながらどうするべきなのか考えて

「……悪い」

 気まずくて目を合わせずとりあえず謝りながら手を伸ばした。
「いや、まぁ平気だから、そんな落ち込むなよ。」
 少し笑いの混じった声音で伊藤はそう言った。顔は見れていないが多分苦笑しているんだろう。
 手に重みが乗って伊藤が俺の手を借りて立ち上がろうとしているのが分かったのですぐに引っ張ろうと思ったのだが、一瞬俺の反応が遅かったみたいで俺が伊藤を引っ張って立ち上がるのを手伝おうとした思惑とは、裏腹に俺が伊藤に引っ張られてしまう形になってしまいバランスを崩した。
 直結に言うと伊藤が俺の下敷きになった。

「いって!」
「うっ……」

 反射的に目を閉じてすぐにドスン、という音とともに額や胸とか腹に衝撃が走り呻く。
 俺は呻くぐらいで済んだが、たぶん伊藤はかなり痛かったのではないか、とすぐに考えが行きついて目を開けて手を地面について伊藤の顔を見た。
 予想した通り、伊藤が俺の下敷きになってさっきは膝が付いていただけだったのに仰向けに寝っ転がる形になってしまい後ろ半身は砂で汚れてしまっただろう。
 ……さっきのことにほんの少しだけ仕返しをするだけのつもりだったのだが、何故こんな大きなことになってしまっているんだろ、手を伸ばさないほうが良かった、色々後悔した。
 驚いたのか目を見開いた伊藤と至近距離で目が合う。……近すぎるんだと今気が付いた。

 すぐに起き上がらないと、と思ったが腰が何かで抑えられいるようで動けない。なにがあるのかと腰あたりを見ると薄々察していたが伊藤の手が俺の腰を掴んでいた。多分俺を庇ってくれたんだと思う。
 さっきまで意識していなくて気が付かなかったが、今伊藤に触られていると思うと落ち着かない。さっき叶野に触られたときとはまた違うむずむずするような変な感じがする。
 離れようとして離れられなくて一言離してほしいそう言えばすぐにでも伊藤の手は離れるんだろうけれどこのとき俺も頭のなかが混乱しているようで言葉が出なくて至近距離でしばらく見つめ合う形になってしまった。
 心臓の音が良く聞こえた。それは俺自身のものなのか下にいる伊藤のものなのかは分からなかったが、先ほどよりも自分の体温が上がっている気がした。
 居心地が悪いはずなのに居心地が良いと言うなんとも矛盾した感情が生まれた。

「うっわ、2人とも大丈夫!?」

 そんな状態が続いたのは1分ぐらいだろうか?そんなに時間は経っていないみたいだった。異変に気付いてくれた叶野が俺らのほうに駆け寄った。
 ハッとなって叶野のほうを見た。伊藤も今の状況を飲み込んだのか抑えていた手を慌てて離されたのはよかったが、離された際腰を手が掠め、ぞわっとして身体を思わず震わせてしまった。変な声は出さなかったと思う、だけど少し呻いたのは伊藤には聞こえてしまっただろうか……。
 結局叶野が俺を、がたいの良い湖越が伊藤を起こしてくれた。まだ腰に触れられた感触が残っている気がして変な感じがする。
 違和感はぬぐえないが今は伊藤の後ろ半身についてしまった砂を払うことに専念した。

「……本当に、悪かった」
「あー…いや、俺がいたずらしなきゃよかったんだ。」
「うむ、叶野が一番悪い。」
「えっ!いやさっきのは伊藤くんも同罪だからねっ!?」
「お前ら本当にどういうことなんだよ……」

 事情を知らない湖越が呆れたように突っ込みを入れたところで先生がやって来て、妙な空気のまま授業が始まってしまった。……あとで本気で謝ろう。
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