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1章『それぞれの想い。』


「じゃあここはやったか?」
「……やった」
「ふむ、ならば一ノ瀬はとっくにこの学校でやっている範囲はとっくに終えていると言うことになるな。今僕が指しているのは塾でやっている内容だ。」
「一ノ瀬くん、まじか……道理で授業で指された問題を全部当てちゃうわけだねっ」
「顔も良くて頭も良いとかすげえな。少女漫画に出てくる奴みてえ」
「残念なことにむさいことこの上ない男子校だから、そう言う青春は期待できなさそうだけどね!」
「透って彼女いるのか?」
「……いたことない」

 伊藤の質問に答えれば何故かクラス中から視線は集まるし、叶野と湖越も雑談を辞めて凝視される。
 質問をした本人と言えば伊藤は「そうだろうな」と何故か納得したように頷く。鷲尾は特に気にしたようすもなくこの問題はどう解く?とすごくマイペースである。
 今の今まで視線に晒されると驚いたし恐怖すらも覚えていたが、あまりに伊藤は気にはしておらず、鷲尾に至ってはもはや自分の世界に入っている。
 2人に感化されたのかそうではないのかわからないけれど……。
 ……まぁ、いちいち驚いていたり恐怖することも疲れてしまって、少しどうでもよくなってきた。
 鷲尾の出された問題に思ったことを伝えれば、なるほど、と納得したように頷いてさらさらとノートになにかを書いていく。

「なんで伊藤くん納得している雰囲気なの……」
「だって透だしな」
「理由になっているのか?それ」

 時刻は昼休み。
 伊藤とは確かに昼を一緒に食べようと約束したからともに昼食をとるのは分かる。
 何故か叶野湖越鷲尾と昼食をともにしているのかは正直よくわからない。
 叶野と鷲尾は話しかけてきたかと思えばいつのまにかパンやら弁当を頬張り始め、鷲尾は少し遅れて俺に質問をしている。
 決して嫌ではないのだが、どうしてこうなったのかはよくわからなかった。
 俺と進んで一緒にいようとするのは伊藤ぐらいだと思っていたのだが、案外物好きは多いのかもしれない。

 鷲尾は……叶野と違ってよくわからないが。湖越は何となく叶野が行くから、て言う雰囲気で来ている感じはするが。
 こうして人の輪に入れてくれるのは、記憶喪失以降初めてのことだ。
 叶野が気を使うタイプなのかもしれない、お調子者な人気者を演じているが、さりげなく俺に話しかけたり、クラスメイトがあまり伊藤に話しかけないなか叶野は普通に話しかけているし。
 伊藤も特にこの3人に対して警戒をしていないところを見ると、害はきっとない、むしろ優しい人間なんだろうと勝手に思っている。

 昨日スーパーで適当に買ったちくわパンを頬張る。
「それってうまいのか?」
「……結構」
 そう言えばちくわパン、を籠に入れたとき伊藤は確か不思議そうな顔をしていた。気になっていたらしい。
 ちくわの中にツナマヨが入っていて結構おいしいと思っている。俺も初めて食べたが、ちくわパンと言うフレーズが気になったからつい買ってしまった。
「一口くれよ」
「……ん」
 持っていたちくわパンを伊藤に渡してそのまま普通に食べられた。
 普通に口を付けてしまったほうを食べてしまったが、これは普通なんだろうか?友人と呼べる人間がいなかったのでよくわからない。
「んー……返す」
「それどうだ?俺も気になってたんだよな」
「俺はあまり好きじゃねえな……」
 微妙な顔をした伊藤がちくわパンを返された、どうやら伊藤の口には合わなかったようだ。
 返された少し減ったパンをそのまま食べてしまっていいものだろうか。
 でも伊藤は普通に食べていたし特に周りが突っ込みをいれていないのを見ると俺が神経質なだけかもしれない、特に嫌悪感もないし……いっか。
 少しだけ悩んで、結局残ったパンを咀嚼した。
 何となく後ろめたい気持ちになったのは、なぜだろうか。
 伊藤たちの雑談に耳を傾けつつ、鷲尾に聞かれたことに答えたりした。
 食べ終えて、買ったペットボトルのお茶を飲んで、ふとトイレに行きたくなった。
 トイレはもう場所が分かっている。
 時間を確認してみた、まだ昼休みは半分もあるし、余裕で戻ってこれる。

「……トイレ」
「おー行ってらっしゃい。」
「そう言えば、次理科室なんだよね。」
「次は五十嵐か……悪くはない先生だが五月蠅いんだよな……」
「まぁにぎやかだよね。」

 理科室……移動か。
 そこまで広くはない校舎なのでくまなく探せばすぐ見つけられるだろうが、やっぱり誰かと言った方が効率がいい。このままトイレからすぐ戻れば流れでみんなと行けばいい。
 それより、五十嵐先生って……朝話した人……と同じ人だよな?明らかに体育教師って言う風貌だったが、以外にも理科担当だったようだ。
 体育会系ではなく理数系だったらしい、少し意外かもしれない。
 活気のある教室から出てトイレへと俺は向かった。
 昼にもなれば、いつもとは違うらしい伊藤のことも見慣れたみたいで随分と視線は減った。それに伴って俺への視線も無くなった。
 教室に馴染んでいる自分が、何か、不思議な感じがした。今まで人と関わることがほぼ無く生きてきたから、こうしているのは初めてだった。
 前の学校ほど埃一つ落ちていないようなところではなくて、金持ちもいなくてきっと一般的な高校であって各段特別な学校ではないんだろうけれど、神丘学園よりも水咲高校のほうが、うん、きっと俺にとっていい学校だ。
 前の学校よりもみんな伸び伸びとしている。良いところだ。
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