1章『それぞれの想い。』
本当に、透は確かに表面上は変わったけど、本質は全くと言っていいほど変わっていない。
意見を言うのが苦手になっているくせして、結局意志を曲げるのは出来ねえ奴なんだよなぁ。
あのまま俺を放っておけば、そのまま俺の行動に驚いて固まってくれれば、一ノ瀬は何の害はなかったはずなのに。
俺はもう岬と五十嵐ぐらいしか俺のことを生徒として扱ってくれないんだから気にしなくていいのにな。
ああでも、あのまま牛島を殴っていれば次こそ退学は免れなかったかもなぁ。
それは、困る。
透に止めてもらってよかったのかもしれない。退学すること自体はどうでもいいが、また透に遠ざかってしまうところだった。
久々に会えたんだから、出来る限り傍にいたかったから良かった。
だがまた俺は透に守られてしまった。
帰って来たら守るってそういったのに。また守られてしまった。
今度こそ守りたいんだ。
たとえ、俺のことを忘れてしまっていても、世界の誰もが透の敵になっていても何だっていい。
となりにいてくれれば、それでいいんだ。透が俺を嫌だと言うのなら、俺もいろいろ考えていたのに。
記憶のない透は俺がとなりにいることを良しとしている。
今はそれだけでいいや。
俺は馬鹿だから、難しいことはわかんねえ。とりあえずはそれで良い。
馬鹿な俺でもわかる、透の記憶が無いことできっとそのうち悩み苦しむ日も来るんだってことは。
だが、それは今ではない。
いつかは来るだろうが、そんな俺の葛藤なんか今じゃなくていい。
今はまた隣にいる透に喜びを感じていたい。それだけでいい。
そのうち来る日は当分来ないでほしいな、と思った。