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2章 後編


「……なに、どうしたの。」
「梶井いるか!?」
「……知らないよ。」
「そうか、サンキュ!……それならどこだ、あいつ……屋上にいるか……?」


教室を出た湖越を追いかけるが、すでに隣のA組の教室前にいてたぶんA組の誰かと話しているのが見えた。
今なら追い付くかと思って走って湖越のもとへ向かうけれど、その『誰か』と話し終えてしまったようでまた走って行ってしまった。……俺から逃げたわけではないとは思うが、何故かショックな気持ちになる。

「あっれーイッチじゃん!そんな走ってどしたのー?」

湖越を追いかけるべくそのままA組前を通り過ぎようとするけれど、多分湖越と話していたであろう『誰か』に話しかけられる。
俺のことを『イッチ』なんて呼ぶのはただひとりで、その『誰か』を顔を見ずとも分かった。

「……吉田、か。」
「やっほー!」

オレンジ色の髪に負けないほどの邪気のない明るい笑顔で手を振ってくれる吉田に少し気が抜けて走るスピードを弱めその足を止める。

「湖越を追いかけてるんだが、何か聞かれたか?」
「んーのぶちゃんどこーって聞かれたけど、おれ知らないって答えちゃったー。」

のぶちゃん……一瞬誰のことを言われたか分からなかったが『梶井信人』の名前を思い出して、下の名前からとっているのだろうと察した。

「梶井と仲良いのか?」
「んー仲良くしたいとおもってる!だけどあんまり教室に来てくれないのよー」

ニックネームを付けるほどその梶井と言う人間と吉田は仲良いのかと思ったが、そうなりたいと言う願望を口に出すのを見るとあまり話していないようだ。だけど、ちゃんと梶井とはなし自体はしたことはあるみたいだ。

「そうなのか。良かったら今度梶井のこと、教えてほしい。」
「いいよー!」
「ありがとうな。ちなみに湖越はどこ行ったか分かるか?」

話を聞く限り、ちゃんと梶井と話したことがある人とは会っていない(小室はカウントしていない)から梶井と同じクラスでかつ簡単に梶井をニックネームで呼べるような吉田なら少なくとも俺やクラスメイトよりも梶井のことを知っていそうだ。
笑顔で頷いてくれた吉田にホッとする。そのまま湖越はどこに行ったか心当たりがあるか聞いてみる。吉田と話していてすっかり見失ってしまった。

「うーん知らないって言った後すぐいなくなっちゃったからなぁ~…、あっでもなんか『屋上』とかなんとかいってたかなー?」

考えこんでいたからあきらめて自力で探そうと思ったが、思い出したようにそう言ってくれた。これで隈なく探すと言う選択肢は無くなった。確証は無さそうだったが、何もないよりも断然良い。

「そっか、ありがとうな。じゃあまた。」
「うん!またお勉強おしえてねぇ!」
「了解。」

素直でどこまでも闇がない明るい笑顔に見送られて、階段へと走った。
俺は、湖越と吉田が話しているところを見ていなかったから、俺の知ってる吉田の態度が湖越の前では違うことにも

「……のぶちゃん、だいじょうぶかなぁ。」

俺が去った後、梶井の名前が聞こえてざわめくA組の教室を前に、梶井のことを心底心配している吉田に気が付くことは無かった。
直後、宛先不明の小室のことが書かれていたメールが学校中に届いていたが、携帯を教室に忘れていた俺がそのメールに気付くのは放課後になってのことだった。
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