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1章『それぞれの想い。』



 連休明けで夜更かしになれた身体に鞭打って登校する。
 登校途中最寄り駅で誠一郎と会いそのまま一緒に高校に登校した。
 眠いなーとか昨日のテレビ見た?とかそんな取り留めのない話をしていると、ついに高校についてしまった。
 この休み明け特有のこのだるさ何とかならないかな……。
 そんなことを思いながら校門をくぐると何やら騒がしい。
 男子校だからそれなりにはしゃいでいる奴も確かにいるけど、それにしても騒々しい。
 誠一郎と顔を合わせて首を傾げる。こんなに騒がしいの梶井くんと伊藤くんの件以来だ……またなにか起こったんだろうか。
 梶井くんがなにか起こした可能性に隣にいる湖越も身構えている。
 何もなければいいけど、そう思いながらなにやら話し込んでいる数グループの中から自分のクラスの奴らを見つけて、声をかけた。

「おはよー」
「何か騒がしいが、なんかあったのか?」
「あ、叶野に湖越!お前ら見た?」
「たぶん見てないかな、なにをみたの?」
「あの伊藤がさ、見たことのないこの学校の制服を着ていた美形と歩いててさ!そんときすごい笑顔で話しながら登校していたんだよ!!あの伊藤が、だぜ?俺らのクラスの!!」
「え、そうなの?」

 俺はこの学校では比較的伊藤くんと話す方ではあるだろうけど、そんなすごい笑顔を見たことはない。
 いつも不機嫌そう、と言うか面倒くさそうと言うかつまらなそうと言うか、なんというか。あまり人を寄せ付けないようにしているから。
 とにかく蔓延の笑み、と言うものは見たことが無い。
 けど、まぁ伊藤くんも人間なんだし別にここまで騒がなくても……。そんな珍獣を見るようにしなくてもいいと思うんだけど……。
 それより伊藤くんと歩いていた美形のほうが気になるかな、いつの間に伊藤くんとそんなに仲良くなれたのかのほうが気になる。

「伊藤が笑うってそんな騒ぐことか?……と言うかその美形は誰なんだ?」
「そうだけどよー…あの伊藤だぜ?」
「たぶん転校生じゃね?ゴールデンウイーク前少し噂あったし?」

 誠一郎も俺と同じようなことを思っていたらしくて、聞いてみたけどそっちはふわっとした返答しか返ってこない。
 どれだけ伊藤くんのインパクト強いんだろう。
 確かに見た目も目立つし、先月伊藤くんの存在に慣れる前に彼を中心とした事件は起こっていたけれど、どちらかと言えば彼は巻き込まれた方なのだからそこまで露骨に避けなくても……と内心思いながら、なにも言えない自分に苛立ちを覚える。
 俺に出来るのは自分は彼に偏見無く接することぐらいしかできないのはもどかしい。……出来ない、と言う風にしているのは自分の保身のため、と言うのも情けない。
 ……そんな伊藤くんはすでに連休前にはほとんど学校に来ていなかったことを思い出す。
 それもそうだろう、きっととんでもなく彼にとって学校はつまらないものだっただろう、初日に話しかけたときだってつまらなそうな顔しかしなかったし自己紹介だって簡潔なものだ。
 正直俺も、連休明けたらもう中退するのでは、と思っていた。
 あの事件があっても無くても伊藤くんはどこか距離を置かれていた、それに加えてのあの事件でさらに周りは彼を遠ざけていた。
 彼自身何とかする気もない、と言うよりもこちらに関心がなくてクラスの輪に入る気はさらさらないように見えた。

 そんな彼が、すごい笑顔で学校に来たと言う。

「……伊藤よかったな」
「……そうだね」

 興奮しているクラスメイトにそれなりに返して俺と誠一郎は教室に向かう。
 周りはいつもどおり騒がしいので俺らが普通に話していても特にこちらを気にする人はいないだろう。
 俺が伊藤くんを気にしていることを知っている誠一郎は俺に声をかけてくれた。
 ……誠一郎は知っている、なんとかしたくても、もう前のように脇目も振らずに誰かを庇うことが出来ない臆病な俺のことを。
 知っていてなお、責めずにいてくれる誠一郎が有難くもあり、自分が情けない生き物だなと痛感もする。

「梶井くんは、どうなっているんだろうね」
「……さあな」

 伊藤くんと同じようにあまり学校に顔を出さない、そして事件の首謀者の彼の名を出すと誠一郎は俯いた。
 ……誠一郎は俺のせいで梶井くんと話せずにいるのだ。申し訳ない、と思いつつ俺にはどうすることは出来ない。
 暗くなりつつある空気をかえようとまた伊藤くんと一緒に歩いていたという謎の美形のことに話を戻した。

「伊藤くんと一緒にいたって言う、そのひとってどのぐらいの美形なんだろうね?と言うかどんなタイプなんだろう」
「隣のクラスの吉田ぐらい明るい奴とか?それともあえて鷲尾ぐらいの堅物なやつだったりしてな」
「あー吉田くんみたいなタイプなら納得かも!良い子だしね」
「うるさいぐらいの奴だけどな」

 何とか話を逸らして謎の美形はどんなタイプなのか勝手に予想した。

 そうこうしているうちに自分のクラスに着いた。
 約10日ぶりぐらいの教室の匂いがなんとなく懐かしい気持ちにさせた。
 誠一郎は通路側の前の席で、俺は窓際の後ろの席なのでここで別れとなる。
 クラスの人に挨拶をそこそこに俺も自分の席に向かう。
 俺の席は窓際の後ろから二番目。一番後ろ……俺の後ろの席が伊藤くんだった。
 最近欠席率が高かった席には、伊藤くんがそこにいた。
 周りから話しかけられはしないけど、まるでそこに眠っているライオンがいるように刺激しないようにでも、好奇心が隠せない視線を集められている。
 そんな視線を気にした様子がなく窓の外を眺めている。
 注目の的となっているのに、全くと言っていいほど気にしていない伊藤くんの姿勢ってすごいな、と内心苦笑しながら
「おはよう、伊藤くん。久しぶり」
 と、普段通り話しかけた。
 正直周りからの視線で俺の方が胃が痛い。笑顔が引き攣っているかもしれないけど、そこは見て見ぬフリをしていただけると助かる。

「はよ、叶野。」

 周りから乱暴者とか不良とか言われている彼だけど、意外と話しかけても無視されることは記憶のなかではない。
 ちゃんと話しかけられたらこっちを見てくれるしね。ただあまり話を繋げる気は彼にはないようだから、踏み込んだ話はすることはあまりない。
 強がっているようにも見えないので、きっとそう言う気質なんだろうと俺は勝手に解釈しているけど、……もしかしたら俺が内心ビビっているとわかっていたら、どうしよう。
 きっと気付いていないだろうと、弱気になりそうなのを気付かないようにして今日はもう少し踏み込んでみる。

「なんか今日誰かと一緒に来たんだってね?伊藤くんがすごい良い笑顔だった、てみんな言ってたよ」

 なんでもない日常会話、言い聞かせながらあえてそう聞いてみた。
 ……やっぱり、気になるもんね……周りからの視線がさらに増した気がする。みんな気になっていたもんね……それなら自分から話しかければいいのに。
 内心少しだけ呆れた。
 そんな俺の内心は知らない目の前の伊藤くんは
「……そんなに俺、顔出てたか?」
 普段あまり変えない表情を驚きに変えてそんなことを聞いてきた。
「えーと……俺は周りに聞いただけだからわからないけど……でも噂になっているぐらいだから多分顔に出ていたと思うよ?」
「まじか」
 そうか、と伊藤くんは自分の頬をむにっと触った。
 伊藤くんと話しかけて以降初めて伊藤くんから反応という反応が出た。
「自分が気付かないぐらい表情出ていたんだから、よっぽど楽しいんだね。その人といるの。」
「……まぁ、な」
 うわーまじかーと言わんばかりに机に突っ伏してしまった伊藤くんが少し面白くてからかい半分で言ってみれば、伊藤くんは突っ伏しながらも小声で肯定した。
 ピアスとか開けていそうなのに、意外にも穴一つない耳が赤く染まっているのが見えて、俺は安心した。
 いくら強面で不良っぽい見た目をしていても、伊藤くんも俺と同じ普通の高校生なんだなって。
 照れている伊藤くんが面白くて、つい笑ってしまっている俺だったが、特になにも言われなかったし、予想以上に伊藤くんはそこらへんにいるような普通の男子高生だ。
 俺は伊藤くんにそこまで身構える必要はなかったんだと内心反省した。
 さらに伊藤くんと一緒に歩いていたという彼が気になったけど、それはまた紹介してもらおうかな。

「多分その子、伊藤くんの隣の席だよね。連休前から転校生の噂はあったし」
「そうなのか!」
「え、うん」

 あっこの笑顔か、と納得した。
 満開の笑顔だ。いつもの眉間の皺も仏頂面はどこにいったかと言わんばかりの穏やかな笑顔だ。さっきまでの伊藤くんはどこに行ったのか、と思うレベルだ。
 確かに噂になるなぁ……。ああ、クラスメイトも驚いてこちらを見ている。伊藤くんは相変わらず気にした様子もなく、俺の肯定に「そうか、そうか」と嬉し気だ。
 いつもの不愛想さと無口さが嘘のような彼にこの顔をさせられた彼がとんでもなく気になってきた。
 やっぱり吉田くんみたいに裏表のない底抜けに明るい人なのかな?
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