第一章 完結
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≪平和は微睡みの中に≫
~ささやかな祈り~
カプセルコーポレーションの中庭は動物達の楽園だ。
適度な気温に、建物の中とは思えない広さと植物の多さ。
小さな小鳥から、巨大な恐竜までがこの中で暮らしている。
そんな自慢の中庭で、ブルマはレギとヤムチャの組み手をぼ~っと眺めていた。
ブルマの目から見ても分かるくらい大振りなヤムチャの蹴りを、レギはその懐に入りながらかわし同時に手のひらを突き出した。
──どん!
「うおっ!?」
「はい、12回目」
懲りないわね、と言いたげなブルマのカウントにヤムチャは苦笑した。
「いちいち数えるなよブルマ」
「だって退屈なんだもん。ヤムチャやられっぱなしで」
「…悪かったな」
ムスッと言ったヤムチャが再び宙を舞った。
ヤムチャを投げ飛ばしたレギはいたずらっぽく笑った。
「はい、13回目♪」
「レギ~!」
「油断大敵!」
「学習能力無いわよヤムチャ」
本当に退屈でちょっと不機嫌になってるブルマのどこまでも冷たい言葉に、ヤムチャは苦笑するしかなかったのだった。
「父さん、マシンの調子どう?」
ラボに顔を出したブルマに、ブリーフ博士は油に汚れた顔で嬉しそうに笑った。
「ああ、レギちゃんにメンテ頼んでから快調快調。むしろ前よりよくなってるよ」
「そう…」
「どうかしたか?」
どことなく浮かない声で返事をした娘に、ブリーフ博士は機械をいじる手を休める。
何を考えているかは大体察しがついていた。
「いい子だよあの子は」
「え?」
その言葉に、一瞬何を言われたのか分からなかったブルマは父を見た。
タバコを取り出し火をつけたブリーフ博士は、一服して言葉を続けた。
「一体どこで技術を学んだかは分からないが、手伝ってくれてとても助かってる。ママも、お茶の話し相手ができて喜んでいるし」
「うん…」
「気になるなら聞いてみたらいいだろう」
「……聞けないのよ…。聞いたらなんか、あの子どっか行っちゃいそうで…」
ケロッと言った父に、ブルマは椅子にまたがって顔を曇らせた。
悟空と会う前、レギがどこで何をしていたのか、どうして、機械やコンピューターに詳しいのか…。
ブリーフ博士はくわえたタバコを吹かしながら実にのほほんと言った。
「まぁ確かに、神秘的なところはあるよねぇ」
「ホントのん気よね父さん…」
自分の父親ながら、そのマイペースさに改めて呆れてしまうのだった。
窓から中庭へ午後の日差しが差し込む。
ブルマは中庭に訪れレギを探していた。
父に負けず劣らずの呑気な母に、
『ブルマさん、お茶の用意できたからレギちゃん呼んできてくれないかしら?多分恐竜ちゃん達のお世話で中庭にいるはずだから。
今日はまた美味しいケーキ屋さん見つけたのよ~!どれがいいか分からないからとりあえずねぇ(以下略)』
「…居候だからってそこまで気を遣ってくれなくてもいいのにねぇ…」
中庭の手入れや動物達の世話。ラボでの父の手伝い、時々ヤムチャの組み手相手…。
その他でもブルマの知らない所でも結構家の手伝いとかをしていることを父や母から聞いていて。
…でも、レギらしいな…、と思いながら進んでいくと、中庭の真ん中に彼女はいた。
その光景を見て、ブルマは思わず吹き出しそうになった。
「ありゃま…」
日だまりに寄せ集まって昼寝に興じている動物達に混じって、まるで埋もれるようにレギもそこにいた。
恐竜までが側でうずくまり穏やかな寝息をたてて…。
大きな音を立てないようにそろそろと近付いて顔を覗き込めば、気持ち良さそうに無防備に眠りこけていた。
――『いい子だよあの子は』――
父の言葉が浮かんだ。
「…そうよね、あんたが何だっていいんだわ」
「…ん…ブルマ…?」
「起きたレギ?ママがお茶にしようって」
「ふぁ~い…」
笑って言えば欠伸混じりな返事が返ってきて自然と笑顔がこぼれた。
…何だって、構わない…。
「あんたいい加減その腕とかの重り外したら?大会終わったんだし」
「急に外すと変な感じするからさ、それに黙ってても修行になるし」
「あはは!さすが孫君の師匠だわね!」
「師匠、かね~?」
首を傾げるレギに並んで歩きながら、ブルマの中でさっきまであった不安や迷いは消えていた。
そう、何だって構わないんだ。
レギはレギだし、こんな穏やかな時間が流れてる。
「孫君も修行馬鹿だもの」
「『も』ってことは、その馬鹿にあたしも入ってるのかなブルマさん?」
「さあ、どうかしら?」
冗談を言い合って、笑い合う。
「でも、綺麗よね、その赤い腕輪」
「本当?ありがと!」
嬉しそうにニカッと笑った。
ずっとこんな日々が続けばいいなんて、願う余地もなく。
当たり前に過ぎていく、そんな毎日。
それでも、なんとなく願ってしまうのだ。
――『…どうかこのまま、この時が続きますように…』――
…と。
→あとがき