第一章 完結
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吹きかけられた耳を抑えて振り返ったピッコロに、朗らかに微笑んでみせたのはレギだった。
一体いつのまにここへ来ていたのか、気配など全く感じなかった。
「…こんな所にあったのか」
懐かしそうに宇宙船に手を伸ばすレギ。
それから、ピッコロを見た。
「お前があたしを起こしてくれてたんだね」
「……」
「そんな恐い顔しないでよ。さっきのはほんの挨拶代わりだからさ」
『あんな挨拶があってたまるか!!』という思いはこの際飲み込んでおく。
ピッコロはこの場に来て得た確信をぶつける。
「貴様は、この星の人間ではないな」
「バレた?」
「それは宇宙船だろう」
「ご明察」
「どこから来た」
「ずっとずっと遠い所から」
質問に躊躇うこと無くさくさく答えるレギは、ぴ!と空を指した。
ピッコロは顔を歪めた。
「通りでな。始めからおかしなやつだとは思っていたぜ」
「よく言われる」
怒りもせずに笑って言ったレギに本当に変な奴だと思った。
「なぜここにいる?」
「ずっとこれ(宇宙船)を探してたんだ」
「ふん、自分の星にでも帰るのか」
皮肉ったピッコロの言葉に、レギの笑顔が固まった。
その時、微かにピッコロに聞こえてきた声。
――…帰る場所なんか
とっくの昔になくなってる…――
諦めたような、悲しそうな声で、思わずレギを見つめた。
それからどちらからともなく黙り込んで、短いような、とてつもなく長いような沈黙が流れた。
「……………帰る、か…そうだなぁ、帰るか~」
「………は?」
唐突に沈黙は破られ、ピッコロは現実に引き戻された。
レギはくるりときびすを返してピッコロに背を向けると呑気にぐ~っと伸びをして。
「じゃ、あたし帰る」
「何しに来たんだ貴様」
さすがに突っ込まずにはいられなかった。
あきれ返るピッコロにレギは宇宙船を指差す。
「それの確認。もっとも、もう動きそうにもないけどね」
そう言う声には、期待とか可能性とかは微塵も含まれていなかった。一目見ただけで、修理の余地もないと全て分かっていたようだった。
確かに、扉は壊れて機体にはサビも目立つ。
とても動きそうには見えない。…まぁ、扉を壊したのは先代の自分だが…。
「お前はさ、この辺りで修行するの?」
「そんなこと貴様に教える必要はない」
「本当に可愛くないな、まぁいいや、じゃあね」
今度こそ本当にピッコロに背を向けて帰ろうとした時、
「…待て」
──ビンッ!!グギ…ッ
「ぎゃっ!?」
レギはいきなり後ろ髪を掴まれて容赦なく引きずり戻された。バランスも崩して尻餅を着く。
「…な、何するんじゃい!?」
レギが噛み付けば、ハッとしたようにピッコロは手を離した。
それからピッコロは何を言うでもなくて、引き留めてきた意図が分からずレギは首を傾げる。
「……何?」
「……き、貴様との勝負は、まだ着いていないだろう…!」
「ああ~…」
絞り出すように言ったピッコロの言葉に、妙に納得がいってポンと手を打ち鳴らす。
確かに、天下一武道会では神の邪魔が入って出来なかったことだ。
レギはよっこらせ、と年寄り臭く立ち上がると不適な笑みを見せた。
「なんなら、今からやるか?」
「……!!」
──ゾク……ッ
その瞬間、ピッコロは動けなくなった。
冷や汗が吹き出して、それでも、その黒い瞳から目を逸らすことも出来なくて…。
殺気とは違う。圧倒的な気迫。
でもそれは、体の自由を奪うには十分だった。
自分の胸程の身長しかない小柄な体からは信じられないほど、途方もない力の差を突きつけられた気がして。
ピッコロは本能的に感じた。
…勝てない…。今の自分では到底…。
「…なんてね。冗談だよ」
…フ、とレギは視線を緩めた。
「今ここでやり合ったら大変なことになるもんね。
じゃ、またねピッコロ!」
さっきまでのがウソのように穏やかに言って、今度こそレギは空へ舞い上がった。
「寂しかったらいつでも呼べよう~」
「っ呼ぶか!!!!とっとと失せろ!!」
「うおっと!今本気で撃ったな!?」
「やはり今ここで決着をつけてやる!!!」
「森をめちゃくちゃにしたくないからお断りー!!」
空高く舞い上がって、レギはそのまま見えなくなった。
「…なんだったんだあいつは…」
レギのいなくなった空を見上げて吐き捨てたピッコロは、自分の手を見つめた。
どうしてあの時引き留めたのか、自分にもよく分からなくて。
無意識のうちに伸ばした手が、いなくなろうとしたレギの髪を掴んでいた。
「……おかしなやつだ…」
呟いて去ろうとした時だった。
「ピッコロー!!!」
「っ!」
声に振り扇げば、そこにレギがいた。
「まだ言ってなかったよね!あの時、お前が起こしてくれてなかったらあたしは死んでたかもしれない。だから、ありがとう!!」
「っ……」
それだけを言いに来たレギはすぐにその場を去って行き、もう戻っては来なかった。
それでも、ピッコロはしばらくの間金縛りにあったように空を見つめたまま。
『ありがとう』
生まれて初めて贈られた言葉の意味は、まだ彼には分からない。
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