第三章 前編 (編集中)
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「…き、来た!!来ました!!!」
レギに背中を掴まれたまま高速移動していたため、悟飯は自然と後方を見る形になっていた。
追手が来ないわけもなく、自分達がその場を離れてからいくらもしないで巨大な気が猛然と追ってくる気配に、レギは肩越しにそれを確認し、少しばかり驚いた。
「っ!…ドドリアだけか……?」
てっきりフリーザも追ってくるものだと思っていただけに、レギは一人拍子抜けしてしまった。
「悟飯、自分で飛べる?」
「え……は、はい!」
唐突に言われ、それでも返事をした悟飯にレギは速度は緩めず手を離した。
それから、飛びながらそのままその手を後方へかざす。
「『帳』」
──パキン…!
展開した帳をそのままに飛び続けると、やがて後方で帳に追い付いたドドリアがぶつかる音がして、レギは静かに空中で止まった。
ドドリアとは大分離れたとはいえ、まだ視認出来る距離である。このままでは逃げきれていないのに何故止まるのかと悟飯もクリリンも不思議に思ってレギを見ていると、彼女はまた飛んでもないことを言い出すのだった。
「二人はその子達を連れて逃げろ。やつはあたしが食い止める」
「レ、レギさん…!?」
「そ、そんなこと出来るわけないだろ!お前っ……その腕だってあいつにやられたんじゃないか⁉一人じゃ無理だ!!」
クリリンが言うのももっともで、その手傷を負わせた張本人がすぐそこまで迫ってきているのに、レギはどこか冷静だった。
「ザーボンと一緒ならキツかったけど、やつ一人くらいならなんとかなる。……早く、その子達を安全な所に」
「あ……」
確かに、目の前で仲間を殺されたナメック星人の子供達のことを考えれば、すぐにでも落ち着ける所へ避難するのが先決だが、それでもレギをこのまま置いて行くわけにもいかない……。
葛藤するクリリンに、不意にふっと影が差した。
「「!?……っ」」
「……クリリン、悟飯。あんなこと言ったのに、助けに来てくれてありがとう」
レギが、動く左腕だけでぎこちなく悟飯とクリリンをまとめて抱き締めたのは、一瞬だけ。
すぐに離れて、背を向けた。
「行って。もう帳が破られる」
「…………」
確かに、遠く離れているとはいえドドリアが帳を破ろうとしている音はここにまで響いてきていた。
たぶん、このまま一緒にいても、自分達は足手まといだ。ナメック星人の子供を抱えたままでは、まともに応戦も援護も出来ない。
だから、クリリンにはもうこうするしかなかった。
……たぶんレギは…と、思いが過り今はそれどころじゃないと頭(カブリ)を振る。
「……わ、分かった。でもレギ、絶対死ぬんじゃねえぞ!……行くぞ悟飯!!」
どうしても、戻ってくるよな、とは聞けなかった。
「あ…む、無茶しないでねレギさん!!」
既に背を向けたレギの二人への返答は左腕を挙げただけのものだったが、クリリンはそれを確認してから再び飛び出す。
悟飯もそれに習い、後方のレギを気にしながらもクリリンについて行った。
二人の気がしっかり遠ざかったのを確認して、レギは帳を解除せず元来た方向へと進んだ。
(……子供達を助けるのは、あのじいさんの頼みだからね。でも)
広く展開した帳の出口を探しながら、それでも力ずくで破ろうと半狂乱になって暴れるドドリアの所まで来て、レギは止まった。
ドドリアも、そんなレギに一旦は暴れるのを止めて怒りの形相でねめつけてくる。
荒い鼻息が、帳越しでも聞こえてくるかのようだった。
ーー『ツフルのお方、その力に堕ちてはなりませんぞ』ーー
あの時のナメック星人の長老ムーリの言葉が脳裏を掠める。
『その力』の部分にレギは心当たりがなかったが、
(……悪いけど、あたしはもう待てないよ)
黒い感情が、夕立に押し寄せる雷雲のように、ドロドロとレギの中に広がっていった。場違いにも、止めどなく押し寄せるその感情には、心地好さと僅かばかりの懐かしさを感じていた。
「『解』」
前方へ手をかざし帳を解除すれば、ちょうど再度帳を破ろうと腕を振り下ろしたのと重なって、ドドリアは盛大に空振りしもんどりうった。
それも相まって完全に頭に血が上ったドドリアの血走った目が、レギの周りを見るようにギョロギョロと動いた。
クリリン達の姿を探しているようだった。
しかし、そうやってすぐに飛びかかってこないのは、怒り狂った状態の頭でも辛うじて残った理性が上司の命令を遂行するべく働いているからだろう。
(……単細胞なりに、忠義を尽くす脳みそは持ってたか。律儀なことで……)
「ちぃっ!くそが!!おいガキ共は!?ありゃあてめえの仲間か!!?」
「さあね?でも心配いらないよ。お前はここで死ぬんだから」
「ぁあ⁉言うようになったじゃねぇか!このくそったれのサイヤ人ごときがよお!!」
罵倒に、しかしレギは嘲笑を込めて皮肉を返す。
「ああ、そのサイヤ人だけどさあ、確か、あの時惑星ミートに行ったのはお前の部隊だったよな。他にも変態集団を使って『計画』を進めていたらしいけど……。みみっちいやり方して、フリーザ『様』は余程サイヤ人が恐ろしかったんだと見える」
「…な、何が言いてえんだてめぇ……!!」
完全に見下したその言い方にドドリアがいぶかしむも、レギは笑顔を引っ込めて、極寒の温度で吐き捨てた。
「お前ら、『くそダセェ』って事だよ」
その瞬間、ブチッとドドリアの神経が切れる音がした。
「ぶっ殺してやるクソアマああ!!!」
挑発に、ドドリアが飛びかかる。
その分かり易すぎる動きに、余計な力は必要なかった。
レギは後方へ倒れるようにそれを躱すと、仰向けになった状態で、左腕を突き上げた。
「『ツミハ』」
──ッドン!!
「ぐっは…!?」
喉元に多重掌波を食らいドドリアの体制が崩れたところで、レギは空中に帳を展開し足場を作り一気にそれを駆け上がると、鋭く前転。
ドドリアの脳天へ目掛け回転が加えられた踵を振り下ろし地面へ叩き落とした。
「ぐ…!!…っがあ!?」
ドドリアは起き上がろうとしたが目の前にレギが降り立つ。そのレギが不適に笑ったのを見た直後、今度は地面を割らんばかりの勢いで頭を踏みつけられた。
「うっ……ぐぅぅ…!!」
レギの足を掴んで退かそうとするがびくともしない。それどころか、踏まれる力が増していきドドリアの頭がミシミシと骨の軋む嫌な音を上げていた。
さっきまで、ナメック星人の村でザーボンやフリーザと一緒にいた時にはなんとも思っていなかった。
あの時はいとも簡単に捩じ伏せることが出来た。腕だって、小枝のようにへし折れたのに…。今はまるで手も足も出ず、逆に自分が無様に地面に這いつくばっている現状に、ドドリアは頭が追い付かなかった。
(な、なんだコイツ……さっきと全然動きが違うじゃねぇか……!)
「今のは右腕の礼だ。そして、これからが惑星ミートで殺されたみんなの恨みだ」
また、ギシッと骨が軋んだ。それが、その気になれば踏み潰すことなど簡単に出来る。自分を、殺せる。
そう認識してしまってから、ドドリアはようやくレギの異常さに気付いた。
殺される。自分は勝てない。
もう全身全霊でこの場から逃げ出したいと言う恐怖心と、フリーザからの絶対の命令が混在した頭が思考を麻痺させたが、続いたレギ言葉に、ドドリアの精神が限界を振り切る。
「あの日死んでいったみんながどんな思いだったか、しっかり味わわせてやる。…漏れなく受け取れクソやろう」
「ひっ………う、うああああっ!!!」
その瞬間の、レギからの途方もなく押し寄せる殺気にとうとう耐えられなくなったドドリアは、踏みつけられている状態から無理やり抜け出し脇目も振らずに逃げ出した。
「フ、フリーザ様あーーー!!」
「…情けない奴」
レギは慌てることなく、背を向けて遠ざかっていくドドリアへ軽蔑を込めて吐き捨て、
微笑んだ。
「まぁ、逃がさないけどね」
左腕を軽く振るい手の先に小さく斬気を生み出す。
「『斬刀鞭』」
──ギュバッ!!
ナイフ程の長さのそれをアンダースローの要領で振り上げるとそれは一気に伸び上がり、上空にいたドドリアの左腕を切り落としていた。
「っぎゃあああ!!!?」
「…トーマ」
斬刀鞭は収めずレギもふわりと浮かび上空へ移動する。
「うああっ、や、止めろ…!」
もう既に戦う意志もなくし怯えるドドリアに、レギは容赦なく斬刀鞭を振るった。
「セリパ…トテッポ、パンブーキン…」
名前を呼んで、一撃ずつ加えていく。途中、ドドリアに飛ぶ力もなくなると、斬気で案山子のように空中に固定し落ちることも許さず。
「…も、もうやめでぐれぇぇ…!!」
「ああ、これが最後だ」
逃げることもできず懇願するドドリアに冷たく言い放ち、レギは斬刀鞭を横一文字に振るう。
斬気も解除され、四肢と首を失って落ちていく肉塊を無感情に見つめた。
「………あんたは生きて戻ったけど、思いは同じだろ」
随分と、遠い記憶にレギの目は下を向いてはいたが、もうドドリアの骸もナメック星の大地も見てはいなかった。
「なあ?……バーダック」
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