第二章 完結
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第十九話
≪動き出すそれぞれ≫
西の都の病院。
先のベジータとの戦いで、悟空は体中の骨が砕けて全治4ヶ月。
頭まで全身を包帯でぐるぐる巻きにされて集中治療カプセルに入っているが、そんな重傷な悟空以上に元気がないのはチチだった。
毎日のように見舞いには来てくれるが、ほとんど笑顔を見せてくれない。
悟空はその理由を、チチから聞いていた。
レギがいないことだ。
悟飯がピッコロにさらわれてからずっと不安な日々を過ごしていたチチの所へレギがやってきたこと。
自分は悟飯の事だけが心配で、顔を見るなりその頬を張り飛ばしてしまった。
でもそんなチチの怒りを受け止めて、レギは約束してくれた。
--『絶対に、チチの所に悟空も悟飯も帰ってこれるように、あたしが守るから』--
そして、結果的に悟空も悟飯もチチの元に帰ってきた。レギはしっかりその約束を守ってくれた。
だから、会ったら一番に謝りたかった。
そしたら、レギはきっと『全然気にしてないよ!』って笑ってくれる。
そう思っていたのに、そこに、レギはもういなかった。
悟飯達が戻ってきた代わりに、今度はレギが連れ去られてしまったのだ。
チチの落胆ぶりは自分にも責任があるだけに、見ていて悟空も辛かった。
「…チチ?」
「なんだべ悟空さ」
「オラ腹減っちまった!」
シシシと笑うと、チチは少しだけ苦笑した。
「……全く、口を開けばすぐそれだ。しょうがないだな悟空さは」
言って椅子に座り、お見舞いでもらったりんごを剥き始めた。
剥きながら、チチの目から涙が零れていった。
「…泣かねぇでくれチチ」
「…だ、だって…今、こうして悟空さにりんご剥いてやれんのも、レギさのおかげだと思ったら、止まんなくなっちまっただよ…!」
「そうだな…。オラもすげぇ感謝してる。心配すんなって!レギは強いんだ、きっと無事さ!悟飯達もナメック星に向かってんだし、なんとかなるさ!」
「………悟飯が」
明るく言う悟空とは反対に、チチは俯いたままぽつりと言った。いつしかりんごを剥く手は止まっていた。
「…あの子が、ピッコロを生き返らせるためにナメック星に行きたいって、あんなに強く言うなんて、おらたまげただよ…」
「……あぁ、そうだな…」
その事には、悟空も少しばかり驚いていた。
ずっと、母の言うことを素直に聞く子供だった。大人しくて、将来は立派な学者になりたいと幼いながらにしっかりとした夢まで持っていて、チチにとって自慢の息子だった。
それが、あの日突然ピッコロに連れ去られ、一年ぶりにようやく帰ってきた息子の姿を見て、チチは内心驚いていた。
離れ離れになっていた間に、悟飯は随分と逞しくなっていた。
ピッコロとレギとの修行も相当にキツかったのだろうに、ナメック星へ出発する日までの間、準備をしながら修行中の話を聞いてチチは更に驚かされた。
悟飯は、修行の間の事を『楽しかった』と言ったのだ。特にレギが加わってからは。
――『ボクの、サイヤ人と戦う覚悟を見るために本気でぶつかってくれたんです。ナメック星にドラゴンボールがあれば、レギさんを見付ける手がかりに繋がるかもしれない。だからお母さん、絶対に、ムダにはしないから…!』――
そう強く決意していた。一年前の悟飯に、こんな強い意思があっただろうか……。
「……本当に、『男子三日会わざれば…』ってこの事だべな。……三日どころじゃねぇけんども」
「ははは!でもほら、やっぱり悟飯には武道の才能があんだよ!だから帰ってきたらさあ、一緒に修行してもいいだろ?」
「っなあに言ってるだ!」
悟空の軽口に、さっきまでの落ち込みはどこへ行ったのか、チチは悟空の寝るカプセルに乗り上げる勢いで顔を寄せると、
「行きと帰り、往復で二ヶ月もかかるんだぞ!その間に随分遅れちまうだ!ただでさえ一年間全然勉強出来なかっただに、帰ってきたら修行なんてしてる暇はねえ、一気に取り戻すだよ!!」
「…………………」
それはなんだか久々に見る『これからはお勉強の時代よ!』の教育ママのチチそのものだった。
「いつものチチに戻ったな」
ニッ、と笑った悟空にチチも我に返る。
「な、なんのことだべ、おら別にいつも通りだよ…!」
そうして誤魔化すようにまたりんごを剥き始める。
しばらく、シャリシャリとりんごを剥く音が病室に響き、
「…オラもナメック星に行くんだけど、帰りの1ヶ月だったら悟飯と修行しても良いかな?」
悟空のその発言に、リンゴを剥く音がピタッと止んだ。
「……な、ナメック星に……い、行く……?」
「ああ」
「い、行くって……いつ、どうやって……なんで……⁉」
「やっぱオラも行ってみてぇし、その方がおめえも安心するかなって。宇宙には何があるか分かんねえしよ」
「だ、だ……だからって……」
突拍子のない悟空の発言に、チチはうまく言葉が出てこない。そんなチチにお構いなしに、悟空はまるで遠足の日程でも確認するように口調はどこまでも軽く続ける。
「出発すんのは、宇宙船を今ブルマの父ちゃんに作ってもらってるからそれが出来次第だな。あと、仙豆もないとダメだな。このまんまじゃ動けねぇしよ」
……ミシリ、と妙な音がして悟空はチチを見た。そこで、わなわなと震えているチチに、悟空はやっとその穏やかではない様子に気付く。
さっきの音の正体は、チチに握り締められていたナイフの柄が軋む音だった。
「チ、チチ……」
「……ま、またおらを置いて黙ってどっかに行くつもりだっただな悟空さ!」
「いっ!?だ、だから今言ったじゃねぇか!!」
「だどもおらを置いて行くことに変わりはねぇべ!?」
「だって物凄い修行しながら行くんだから仕方ねえだろ!」
「また修行……!あぁ全く!本っ当に仕方のねぇ!」
「Σまごっ!!?」
がぼっと、かなり乱暴に皮剥き途中のりんご(丸ごと)を悟空の口へ押し込んだ。
重体の入院患者にあんまりな仕打ちだが、そこは元武道家の嫁と、全身複雑骨折何のそののサイヤ人の夫の夫婦である。悟空は両手が使えなくとも器用に口の中のリンゴを咀嚼し始めた。
「待つのがおらの役目だ。だどもこれだけは約束してけれ」
チチはまっすぐに悟空を見た。
…押し込められたりんごをもごもごと一生懸命に噛んでいる真っ最中だったが。
「絶対に、もう死なねぇでけろ。レギさも、必ず取り戻して。おらからの、お願いだ」
「ああ、約束する」
「……もう全部食っちまっただか?」
「ああ、もう一個剥いてくれ!」
「仕方ないだな」
今度は本当に笑って、新しいりんごを手に取った。
きっとなんとかなる。
僅かにでもある可能に向かって、少なくとも今は前進しているのだからと、チチの心もようやく前向きになれた。
でも、この時はまだ誰も知らなかった。
悟空も、ブルマ達も、ベジータと行動を共にするレギ自身も。
ゆっくりと、でも確実に近付く『その時』に。
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