第二章 (編集中)
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「…………こんなものかな」
人里から大分離れた森の中で、地面に掘った穴を見ながら、レギは一息吐く。
そこは、レギが乗ってきたポッドが不時着した場所の付近だった。
「他に場所ないし、分かりやすいし、文句言うなよ馬鹿兄貴」
返事は当然返ってこない。
それでも、レギは独り言のようにラディッツへ語り続けた。
「全く、本当に馬鹿だねあんたも。隕石の衝突なんて……少し考えれば分かるだろうが…」
いや、と、すぐに否定の念が湧く。
あの状況だ。恐らくそんな暇も余裕も与えられなかったはずだ。
「……………………………………デコハゲ!」
一抹の恨みを込めて、その額を一つ叩(ハタ)く。
それから、ラディッツの体をそっと穴へ入れてやり土を被せた。
ポタポタと、落ちる雫に土の色が点々と変わるのも構わず、レギはラディッツが見えなくなるまでしっかりと土をかけてやった。
――『…………レギ』
「⁉……いっ」
ラディッツの埋葬が済んで、どれくらい経ったか。
ラディッツを埋めた側で座り込んでいたレギは、頭に響いた声に現実に引き戻された。
「…っ……ぐ…ぅ………っ…‼」
前触れなく呼ばれたことで体が反応した際に忘れていた戦いのダメージがぶり返し、再度襲った激痛に悶絶する。
「……………え…えっと……か、カリン様……?」
なんとか呼吸を整えて返事をすれば、呼び掛けてきた時と同じ控えめな様子で、仙猫のカリンの言葉が続いた。
――『落ち着いてからで良いからカリン塔へ来なさい』
何故呼ばれているのか分からないが、レギには特に断る理由はなかった。
「分かった。今行く」
──シュンッ
「ぎえっ⁉お、おまっ……」
一瞬にしてカリン塔へ着けば、その突然な登場にヤジロベーがひっくり返った。
目を白黒させてレギへ文句を言おうとするヤジロベーを、カリンは静かに杖で黙らせ前へ進み出た。
「レギ。お主、神様の所へ行くつもりじゃろう」
「うん」
「ならその前に、これを食べなさい」
差し出されたのは、仙豆だった。
その効果はレギもよく知っている。
前回の大会で、瀕死の重傷を負った悟空でさえ一瞬で全快させた回復力を持つ。カリンがそれを進めてくるのも、レギには理解できたが、受け取る事は出来なかった。
「いや、いいよ。このまま行く。地球を巻き込んだのに、そんな貴重なものもらえない」
レギの返事を聞いて、カリンは思いっきり溜め息を吐いた。
その『やはりな』という反応にレギは申し訳なくなったが、受け取るわけにはいかないのだ。
一年後の戦いには、恐らく悟空の仲間達も動く。
その時に、必ず必要になるはずだからだ。
「…………ヤジロベー、やれい」
──がしっ
「は…?」
カリンの号令に、ヤジロベーが驚く程のスピードで動いた。
レギの背後へ回ると、その頭と顎を鷲掴みにする。
「な、なに……⁉」
突然の事に、今度はレギが目を白黒させる。
「そう言うと思っておったがな。お主、あのラディッツという男に受けたダメージが相当に重かろう」
ろくな抵抗が出来ない状態のレギの、その胸部を杖で指す。
そこはさっきも呼ばれた拍子に激痛が走った所だ。
「肋骨が折れて、肺も潰れておるな。そのまま放置すれば死ぬぞ」
「…………」
押し黙るレギに、カリンは幾分声音を緩めて続けた。
「……レギ、お主は言っていたじゃろう。悟空のことを『ここ(地球)で育った孫悟空』だと。地球でもう随分長いこと過ごしてきたお主のことも、もう立派な地球人じゃとわしは思っておる」
「………………」
その言葉はレギにとっては思いがけないもので、目を皿の様に見開いてカリンを見つめた。
地球を危険にさらした自分を、受け入れてくれている事実に。
言葉がなかった。
「今更、遠慮することなど何もないんじゃよ」
「……………………あー、でもあたし、ほとんどポッドで寝てたん「ええいつべこべ言わんで食えええい!!!」あがっ⁉」
その余計な一言に、もうカリンは有無を言わせず小さな手をレギの口へ突っ込み無理矢理仙豆を食べさせた。
飲み込めば、苛んでいた体の痛みは嘘のように消え失せた。
「………………遠慮、なく…か」
未だに拘束されたままでぽつりと呟いて、レギは自分の頭と顎を掴んでいるヤジロベーの手を取った。
「ん?……っおわ⁉」
「よっこいしょー」
──ダァンッッ
1本背負いの要領で投げ飛ばされたヤジロベーは腰を強かに床へ打ち付けることとなった。
「……て、てめーカリン‼話が違うじゃねぇか!!?」
しかし、起き上がったヤジロベーは投げ飛ばした本人にではなく、何故かカリンに掴み掛かる。やはり存外にタフな男であるが、どうやら何かカリンと事前に打ち合わせをしていたようだ。
「あいつ今抵抗できないから安全だって言ったじゃねぇか‼オレに抑え込む役をやらせやがって‼」
「怪我が治った後の事までは知らんもん」
ぷいっ、とそっぽを向くカリン。更に何か言ってやろうとギリギリ歯噛みするヤジロベーに、レギは思わず笑ってしまった。
「笑うなよ‼元々はくだらねぇ意地貼ってるお前が悪いんだ‼食って楽になれるならさっさと食えば良いのによ‼」
もはや八つ当たり気味に噛み付いてくるヤジロベーがレギには一層可笑しくて、笑いながら、それでも二人にしっかり向き合って、
「うん、ありがとう」
「……っち、人を投げ飛ばす前に言えよな!」
礼を言えば、ヤジロベーは腕を組んで先程のカリンの様にそっぽを向いてしまった。
……礼を言ってから投げ飛ばすのは良いのかと、また余計なことを言ってしまいそうでレギは必死に自制心を奮い立たせていた。
仙豆を断ったことを『くだらない』と一蹴してくれたヤジロベーの言葉を無下には出来ない。……最も本人は全く自覚なく本気でそう思っての発言だろうけども。
「ありがとうカリン様」
「うむ、そろそろ神様もあの世から戻られるじゃろう。神殿へ行きなさい」
「うん」
「それとな、」
神殿へ向かおうとしたレギを呼び止めて、三度杖でヤジロベーを指した。
「こやつも神様の所で修行をさせるつもりじゃ。大して戦力にはならんが、何かの役には立つじゃろう」
「げえ⁉き、聞いてねえぞそんなの!」
「まだ言っておらんかったからな。今言ったじゃろ」
「しかも戦力にならないって、誰に向かって言ってんだ⁉」
「お主しかおらんじゃろうが!ここで日々ぐうたらしとるだけのくせに。悔しかったら人一倍修行に励んで成果を見せてみよ!」
「…あー、じゃあ、あたし神様の所行くねー…」
「下界への買い出しとかもさせてんじゃねぇか!しかも毎度毎度このカリン塔を登り降りしてよ‼孫みたいにオレにも雲寄越せ!」
「お主が乗れる筋斗雲などないわい。それに、良い修行になっとるじゃろうが」
「不本意だー‼」
「お世話になりましたー……」
このやり取りに疑視感を覚えながらも、レギはそっとカリン塔を後にした。
「ん~ポポが作るアップルパイ最高~~」
「レギ、地球大変な時、そんな呑気にしてていいか?」
「うん、わがまま聞いてくれてありがとうポポ」
人の話を聞いているのかいないのか、アップルパイを口に運ぶ手を止めようとしない。
レギのその、本当に美味しくて止められないのか、それとも本当に呑気を構えているだけなのか。
どちらなのか計りかねてポポが不安そうに眺めていると、不意によく知る気配が戻ってきた。
「なぁぁあにをやっとるんだお前は」
「神様」
「おかえんなふぁい」
「食うのを止めろ」
短い指摘にレギは口の中の物を飲み込んでフォークを置いた。
「待ってたんだよ神様」
「何?」
急に真面目な顔になったレギが真っ直ぐに神を見つめた。
「あの部屋を使わせて欲しいの。これからの修行のためにも、きっと必要になる」
「あの部屋…」
「“時空の間”」
その部屋の名前を聞いて神の表情が変わる。
“時空の間”。それはこの神殿にある特別な部屋の一つだ。
「どうするつもりだ…あの部屋は望んだ時間を再生するだけで過去に戻れるわけではない。孫悟空の死を阻止しようとしても…」
「違う」
少し強めな声が神の言葉を止めた。
レギは自分の頭を小突く。
「あたしの記憶の中でも最低最悪の連中をあそこに置くから、クリリン達がここに来て一年後に来る奴らを迎え撃つための修行をするなら、修行の前に使って欲しい。サイヤ人ってのがどういう種族なのかを身体に叩き込むために。
生半可な修行じゃ、無駄死にする。これについて来れないんだったら戦いには参加するな、って」
「レギお前…」
「ま、言えた口じゃないけどね…」
彼女にしては珍しく歯切れ悪く、俯いてしまった顔から表情を読み取ることは出来なかった。
「…じゃ、あたし行くわ」
「は……」
唐突な発言に神もポポもぽかんとしてレギを見た。
それはもう、いつもの彼女だった。
「ここにいても始まらないし、行く所もあるし」
「ど、どこに行くというのだ?」
レギはいつか聖地カリンでウパ達に見せたようにぴ!と、今度は下を指さした。
「あの世?」
「…は?な、何を言っとるんだ。第一死んでもいないお前が行けるわけが」
「大丈夫。なんとなく行き方は分かってるんだ」
「分かってる…?」
ますます意味が分からないという顔をする神とポポに笑顔を向けて。
「じゃ」
あまりにもあっさりと、レギは神達の前から、そして、地球からその存在を消した。
「レギ、本当にいなくなった…」
「………ポポよ」
レギが消えた所を見つめたまま神が呟いた。
ポポは神とは違いまだそのことに気付いていない。
分からない、と言った方が正しいのかも知れない。
これは、自分が神という存在だからこそ、その結論に行き着いたのだから。
だがそれでも、本来なら絶対に有り得ないことに、白昼夢でも見ているような虚ろな声で独り言のように神は続けた。
「…私は、いや…私達は今の今まで、とんでもない人物と会っていたのかも知れんぞ…」
そして、その神の気付きは、後にあの世で確信へと繋がるのだった。
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※『時空の間』…アニメオリジナルで登場してた部屋です。名前見つけれなかったので勝手につけました。