◆出発◆
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「人間だ…」
降りてきたのは、初老の男。一人だけだった。
緊張した面持ちで魔物の家を見上げた
「私は、この近くの町で保安官をしておる、ラオと申す!」
大きな声で名乗った。
メリハリのある声が家中に響く。
「実は、魔物の方に是非力をお借りしたいことがある!どなたか話を聞いて下さる偉いお方はおられるかー!?」
「なんだあいつは?なあ、ミー…」
怪訝に思って隣にいるミルナギを振り返った。
が、そこにはもうその姿はなく、
「っまさか!?」
ベルゼブブは慌てて下を見た。
「一人でここに来るとは大した度胸ね」
「あなたがここのリーダーか?」
「まさか。一番偉いのは大魔王サタン様だ。だがお前などには会わない。私はサラマンダーのミルナギ。要件なら私が聞く」
「…なんと、ではあなたがあの『黒壁』の…!?」
「『黒壁』でも『悪魔の盾』でも好きに呼べばいい」
声も表情も無感情に言ったミルナギに、ラオと名乗った男はその登場が予想外だったのか目を丸くした。
「ミー!!」
「ベル」
ミルナギの隣にベルゼブブが降り立った。
「急に一人で行くなよ!」
「話聞くだけだよ」
「…いや、出来れば助力を願いたい…!」
ラオの言葉に、まだ何か言いたそうだったベルゼブブも一応話を聞くことにした。
「単刀直入に申し上げる。是非『幻の泉』を探し出す旅を手伝って欲しい」
「「幻の泉??」」
聞き慣れない言葉にベルゼブブとミルナギの声が重なった。
「な、なんだそれ?」
「私がこの砂漠のどこかに必ずあると信じている泉だ」
「この砂漠に泉が…?」
困惑するミルナギの横で、ベルゼブブも鼻で笑った。
「へっ、バカ言うな、聞いたこともないぜ。根拠はあるのか?」
「ウォーター・フィンチという小鳥をご存じかな?」
「ウォーター・フィンチ?」
「この鳥は、メダカのような淡水性の小魚を食し、繁殖期になると必ず砂漠の北にある岩の巣に向かう」
「…知ってるかシーフ?」
後ろを見れば大勢の野次馬が集まっていて(あれだけ大声が聞こえれば)その中のシーフに訊ねた。
「うむ、確かにいましたな。しかし、それが泉とどう…」
「私は昨日、ウォーター・フィンチが飛んでいるのを見た」
「……」
「昨日だけではない。毎年この時期になると飛んでいた。このことは、やってきた方角である砂漠の南のどこかに、必ず小魚のいるような泉が存在すると言うことだ」
「…ほう」
「私の町だけでなく、国中が水不足にあえいでいる。それは諸君も同じであろう」
「ここから砂漠の南への旅となれば、常に危険が伴う。人間だけでは半分も進めないね」
ミルナギの言葉にラオが強く頷いた。
「だから、あなた方魔物の中で腕の立つ者に同行していただきたく参ったのだ」
シーフが口を開いた。
「…仮に、奇跡的に泉を見つけたとして、その水を、人間と魔物とで分け合うのかな?」
「勿論だ。希望ならあなた達がその泉に住んで貰っても構わない。我々は定期的に水さえ手に入れられればそれでいい」
「…それは、あなたの考え?それとも、国王の使者?」
と訊ねたのはミルナギ。
相変わらず無感情な表情で、まっすぐに見てくる琥珀色の目を、ラオはまっすぐ受け止めた。
「私だけの計画だ。あんな私利私欲だけに走るどうしようもない王だからこそ、我々の手で見つけなければならないのだ」
それを聞いて、ミルナギの強い視線がほんの少し和らいだようにラオには見えた。
.