08 小さな海
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そもそも骨董屋というものをよく知らないが、このお店がちょっと変わってるって事はなんとなくわかる。普通に高そうな楽器やアベルとは違うタイプの人形が置いてあるが、ジャンルがばらばらな特に珍しくはない本や怪しげな魔除けグッズの数々など変な物も置いてあるのだ。
その中では割とまともだと思われるボトルシップ。それを眺めるのが、最近の楽しみだ。
「本当これ、すごいですよね。結構細かいとこまで作ってあって、ちっちゃくて可愛い。」
「へぇー、君こういうのが好きなんだ?」
「はい!ミニチュアって可愛いし、なんだか小さな海がボトルに入っているみたいで、素敵だと思います。」
お店の棚の整理を済ませた後に、カウンターでいい歳して人形を可愛がっている危ない人、じゃなかった御国さんに話を振ってみる。
「今君失礼なこと考えてたでしょ。」
「え、なんでわかったんですか?」
「あのね、否定くらいしてくれてもいいんだよ?まあ全部顔に出てるんだけどね。」
「顔に?そうですかね?まあアベルよりは表情豊かかもしれないですけど……」
ボトルの中の船を見ていた視線を、ボトルに薄っすら反射する自分の顔に移す。曲がったガラスに映る顔は少しヘンテコだ。
「は、当たり前でしょ?アベルは人形なんだから表情動くわけないじゃん、頭大丈夫?」
「……」
さっきまでその人形と楽しくお喋りしてたのはどこの誰だよ。
「で、ボトルシップが気に入ったのかい?」
「ああ。はい、そうなんです。」
御国さんに言われて、ズレかけていた話が戻る。
「すごいですよね、これ。確か細かいパーツを中で組み立てるんでしたっけ。」
「そうそう。ボトルを半分に切って船を入れてくっつけるなんちゃってなやつもあるけど、うちの店のはちゃんと中で組み立てたやつだよ。」
「話では聞いたことありますけど、実際にこの注ぎ口から組み立てるとことか、想像出来ないです。こういうの作れる人って、手先が器用なんだろうなぁ。」
それを聞いた御国さんは何故かニヤニヤしながら続きを促してくる。私の話がそんなに可笑しかっただろうか?
まあこの人の言動をいちいち気にしてても仕方ないか。
「あとこれって集中力必要そうですよね。私には完成は無理そう。」
「まあ胡桃ちゃんは堪え性ないタイプだもんね。」
「えー。私がダメなんじゃなくて、作れる人が凄いんですよ。」
「作れる人が?」
「はい」
御国さんはしばらく無言で私をじっと見てくる。
「な、なんですか?私何も変なこと言ってないと思いますけど……」
「……」
「御国さん?」
「……ぶっ、ふははは!だってよジェジェ、そこにいるんだろ?」
御国さんがお店の奥の"staff only"と書かれたドアを開くと、隅っこでジェジェさんが体育座りをして頭を抱えていた。
「?どうかしたんですか、ジェジェさん。」
何故ジェジェさんが頭を抱えていたのかわかったのは、そのすぐ後。御国さんからこのボトルシップの作者が誰かを聞いてからだ。