後編
私が舞台裏に現れると、今までガヤガヤと賑わっていたオペラ座の人々が一瞬にして静かになった。
当然だ。
死んだと噂されていた人間が急に現れたのだから。
でも私はそんなことなど気にせずに、オケピットへと足を進める。
途中、クリスティーヌとメグの横を通り過ぎた時、クリスティーヌが何かを言おうとしたのをメグが止めていた。
私の足音だけが、ホールに響き渡った。
「...マエストロ、もう一度チャンスを頂けませんか?」
指揮台に立つ指揮者のムッシュー、レイエにそう言った。
ざわざわとまわりが騒ぎだすのも無理もない。
目の前の彼も、相当困った表情をしているのだから。
「何ヵ月も屋根裏に隠り、都合が良すぎるとは思います」
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