前編
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なんとも落ち着かない。
この感じは何だ?
私は一体何を考えている。
私はただ、自由に生きたいだけだ。
それなりの生活をし、しかるべきものも手に入れ、誰にも邪魔されずに。
私はここで素晴らしいものを手に入れたのだ。
私の音楽を、歌を。
私の翼を!
暗闇の中泣いていた彼女を見つけたとき、私は彼女に共感した。孤独な心をわかちあった。
彼女は私を師と慕い、私も彼女を大切な人として接し声を与えた。
そう、愛を与えてきた!
いつも考えるのは彼女のことばかり。
私の愛しい子。私の天使。
クリスティーヌ・ダーエ......
だが、あの女と出会ってから何かがおかしい。
自分でも信じられない位にあの女のことを考えている。
##NAME1##──少し気の強い、ただの調律係。多少の音楽的センスは持ってはいるが、それだけだ。
本当にそれだけ、それだけなんだ!
だが、なんだろう。
##NAME1##と共にいると、不思議と心が落ち着く。何故だか、他愛もない話もしたくなるのだ。
私はどうかしてしまったのだろうか。
オペラ座の怪人ともあろう男が、ただの女との約束を一生懸命守っているなんて。
ここへ住み着いた当時の私が見たら呆れるだけでは済まされないだろうな。
別に見返りを求めているわけではない。
彼女の中に見付けた自分と同じものに惹かれた...ただそれだけだ。
似ているのに違う彼女を、知りたいと思っただけだ。
「...マスター?」
あぁ、私を呼ぶのは愛しいクリスティーヌ。
そう、私にはこの子がいる。
他のものなんていらないではないか。
「マスター、天使様。どうかされましたか?」
蝋燭の光に不気味に照された壁に向かいながら、クリスティーヌはそう言った。
あたかも、そこに誰かがいるかのように。
「いや、何でもないよ。クリスティーヌ...」
私はその壁の裏側から、彼女の質問に答えた。
彼女からは私は見えないだろうが、私からは彼女は良く見える。
白いカーディガンを羽織った彼女がそこにいる。
「本当ですか、天使様?」
大きな瞳が蝋燭に照らされ、美しく光っている。
「何故そう思うのかね?」
いつもは控えめなクリスティーヌだが、今日は何か興味を惹くものがあったのか、いつもより積極的だ。
「いえ、ただ...今日の天使様はいつもと違う感じがして。あ、気を悪くなさらないで下さい!私の勝手な思い込みかもしれません、お許しください...」
「怒ってなどいないよ、クリスティーヌ...先を続けなさい」
怒られるものだと思ったのか、身を小さくした彼女に優しく声をかける。
「何か、嬉しいことがありましたか?」
意外な質問だった。
目に見えない相手に対して、そんな質問をしてくるとは。
「それはまた何故だね?クリスティーヌ」
「天使様のお声が、その...そう聞こえるんです。それで、それを聞いている私もなんだか嬉しい気持ちになるような気がして...」
優しく微笑みながらそう言ったクリスティーヌ。
まるで私が見えているかのように、彼女の大きな瞳がこちらを見上げていた。
嬉しいこと...
クリスティーヌに歌を教えることは私にとっては特別な時間だ。だが、別に今日はいつもと違うことはしていないし、彼女も普通に私のレッスンを受けている。
では、ここへ来る前はどうだろうか。
いや、今日は特に変わったことはしていない。
いつものように耳が痛くなるようなカルロッタの歌を聞き、いつものように支配人に手紙を書いた。
そして、あいつに会った。
あいつと話をした。いつものように。
「あ、申し訳ありません!また勝手な考えを...」
私からの反応が無くなったのに心配したのか、持っていた楽譜を胸に抱きながらクリスティーヌは身構えた。
「......顔をあげなさい、クリスティーヌ。あまり深くを見ようと思っては駄目だ。今は歌うことに専念しなさい」
「は、はい...わかりました、天使様」
やはり私はどうかしている。
こんな目の前の少女にまで見透かされてしまうとは...。
そして私はそれを否定できない!
そう、嬉しいんだ。
##NAME1##と共にいることが。
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なんとも落ち着かない。
この感じは何だ?
私は一体何を考えている。
私はただ、自由に生きたいだけだ。
それなりの生活をし、しかるべきものも手に入れ、誰にも邪魔されずに。
私はここで素晴らしいものを手に入れたのだ。
私の音楽を、歌を。
私の翼を!
暗闇の中泣いていた彼女を見つけたとき、私は彼女に共感した。孤独な心をわかちあった。
彼女は私を師と慕い、私も彼女を大切な人として接し声を与えた。
そう、愛を与えてきた!
いつも考えるのは彼女のことばかり。
私の愛しい子。私の天使。
クリスティーヌ・ダーエ......
だが、あの女と出会ってから何かがおかしい。
自分でも信じられない位にあの女のことを考えている。
##NAME1##──少し気の強い、ただの調律係。多少の音楽的センスは持ってはいるが、それだけだ。
本当にそれだけ、それだけなんだ!
だが、なんだろう。
##NAME1##と共にいると、不思議と心が落ち着く。何故だか、他愛もない話もしたくなるのだ。
私はどうかしてしまったのだろうか。
オペラ座の怪人ともあろう男が、ただの女との約束を一生懸命守っているなんて。
ここへ住み着いた当時の私が見たら呆れるだけでは済まされないだろうな。
別に見返りを求めているわけではない。
彼女の中に見付けた自分と同じものに惹かれた...ただそれだけだ。
似ているのに違う彼女を、知りたいと思っただけだ。
「...マスター?」
あぁ、私を呼ぶのは愛しいクリスティーヌ。
そう、私にはこの子がいる。
他のものなんていらないではないか。
「マスター、天使様。どうかされましたか?」
蝋燭の光に不気味に照された壁に向かいながら、クリスティーヌはそう言った。
あたかも、そこに誰かがいるかのように。
「いや、何でもないよ。クリスティーヌ...」
私はその壁の裏側から、彼女の質問に答えた。
彼女からは私は見えないだろうが、私からは彼女は良く見える。
白いカーディガンを羽織った彼女がそこにいる。
「本当ですか、天使様?」
大きな瞳が蝋燭に照らされ、美しく光っている。
「何故そう思うのかね?」
いつもは控えめなクリスティーヌだが、今日は何か興味を惹くものがあったのか、いつもより積極的だ。
「いえ、ただ...今日の天使様はいつもと違う感じがして。あ、気を悪くなさらないで下さい!私の勝手な思い込みかもしれません、お許しください...」
「怒ってなどいないよ、クリスティーヌ...先を続けなさい」
怒られるものだと思ったのか、身を小さくした彼女に優しく声をかける。
「何か、嬉しいことがありましたか?」
意外な質問だった。
目に見えない相手に対して、そんな質問をしてくるとは。
「それはまた何故だね?クリスティーヌ」
「天使様のお声が、その...そう聞こえるんです。それで、それを聞いている私もなんだか嬉しい気持ちになるような気がして...」
優しく微笑みながらそう言ったクリスティーヌ。
まるで私が見えているかのように、彼女の大きな瞳がこちらを見上げていた。
嬉しいこと...
クリスティーヌに歌を教えることは私にとっては特別な時間だ。だが、別に今日はいつもと違うことはしていないし、彼女も普通に私のレッスンを受けている。
では、ここへ来る前はどうだろうか。
いや、今日は特に変わったことはしていない。
いつものように耳が痛くなるようなカルロッタの歌を聞き、いつものように支配人に手紙を書いた。
そして、あいつに会った。
あいつと話をした。いつものように。
「あ、申し訳ありません!また勝手な考えを...」
私からの反応が無くなったのに心配したのか、持っていた楽譜を胸に抱きながらクリスティーヌは身構えた。
「......顔をあげなさい、クリスティーヌ。あまり深くを見ようと思っては駄目だ。今は歌うことに専念しなさい」
「は、はい...わかりました、天使様」
やはり私はどうかしている。
こんな目の前の少女にまで見透かされてしまうとは...。
そして私はそれを否定できない!
そう、嬉しいんだ。
##NAME1##と共にいることが。
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