帝国のスパイ!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
☆☆☆☆☆
翌朝――。昨日の会話で展開を察した瑞貴はいつもより早めに学校に向かう。そのせいか、登校中の生徒はほとんどいない。瑞貴はそんなことも気にせず部室へ一直線に向かい、シャーペンを床に置き、ロッカーの陰に隠れる。
しばらく経つと大勢の生徒が登校する時間帯になることを時計で確認すると、部室の扉が開き、瑞貴は息を潜めた。その人物は――土門だった。土門は棚にある記録などがあるファイルを一つ取る。
「イナビカリ修練場個人能力データ……これだ」
土門はデータのページを取ろうとするが、途中でやめて本棚に戻した。瑞貴はその様子に少し微笑んでロッカーの陰から静かに出る。
「あ・す・か」
「っ!」
瑞貴が区切って名前を呼ぶと、土門はビクッと肩を震わして振り返る。
「瑞貴ちゃん……!」
「データは送らなくていいの?」
瑞貴がそう言うと土門は物凄く驚いた顔をする。
「なんで知って――」
「ストップ」
知ってる、と言いかけた土門の唇を瑞貴は人差し指で抑える。何も言うなというように。
「ありがと、飛鳥」
「……!」
瑞貴は嬉しそうに、だがどことなく悲しそうに笑う。土門はその表情を見て瞳を揺らすと、そっと指が離れた。
「じゃ、私はこれを取りに来ただけだから」
床に落ちていたシャーペンを拾った瑞貴は「じゃね」と言って土門を振り向かずに手を振りながら部室を去った。
「瑞貴ちゃん……なんで……」
土門はしばらく瑞貴が去った部室の扉を見つめていた。
☆☆☆☆☆
「「ファイト!」」
「「「「「ファイト!!」」」」」
「「ファイト!」」
「「「「「ファイト!!」」」」」
部活の時間になり、瑞貴と円堂を先頭にしてウォーミングアップとして部員全員で走り込みをしている。すると土門が途中で抜けて行った。
(確かこのあと、鬼道と会うんだよね……)
瑞貴は土門の様子を気にしつつ走りこみを続ける。土門と鬼道、そして――春奈を。
「どうした? 瑞貴」
「あっ、なんでもないよ。ファイト!」
「?」
隣にいた円堂がいち早く瑞貴の様子に気づいたが、瑞貴は何事もないように走り続ける。
休憩時間になり水分を補給する雷門中サッカー部。瑞貴はどこからかやってきた春奈の様子がおかしいことに気づいた。
「春奈ちゃん」
「先輩……?」
瑞貴は春奈の耳元に顔を近づくと小声で言う。
「何かあった?」
「!」
その言葉に春奈の目が大きく開き体が震え始める。瑞貴は春奈の背中をポンポンと落ち着かせるように叩いた。
「聞かないほうがいいかな?」
春奈は首を振ると瑞貴のユニフォームの裾をギュッと握る。
「……聞いてもらえますか?」
瑞貴は返事をする代わりに春奈の頭を撫でた。春奈が手を離すと円堂にしばらく練習を抜けると話すと、瑞貴の表情を見て了承する。
瑞貴は礼を言って春奈の手を引き、人が来ない場所に来て地面に腰をかけると春奈も一緒に腰をかけた。最初は無言だったが春奈がポツリと呟く。
「私には兄がいます。帝国学園サッカー部のキャプテン、鬼道有人です」
ポツリポツリと春奈は話し出すと、瑞貴はだって耳を傾けた。
……幼い頃両親を飛行機事故で亡くし、たった一人の兄と施設に入った。鬼道・六歳、春奈・五歳でそれぞれ別々の家に引き取られて、それから一切連絡を取らなかった。いや、取れなかった。
そしてさっき会ったとき、彼に『会っちゃいけない』と言われたのだ。