一之瀬はヒロトのチャージを突破し、虎丸をかわして吹雪士郎に迎え撃ち、壁山塀吾郎のディフェンスを破る。その表情は鬼気迫る勢いだ。


（あの事故が……）

『――あんときの事故の影響で、一之瀬はまた手術を受けなきゃならないんだ。しかも、手術の成功は50％。治ってもサッカーさえできるかどうか……』


一之瀬は数年前の事故の影響が再発し、一刻も早く手術を受けないといけない。だが一之瀬は瑞貴と円堂と全力の試合をしたい。秋は試合前に偶然一之瀬と土門の会話を聞いて知ったのだ。


（あの事故の苦しみを一生懸命乗り越えたのに…また一之瀬くんからサッカーを……そんなの……！）

「マーク！　こっちだ！」

「ＯＫ！　カズヤ！」


マークが前線にいる一之瀬にパスを出した。受け取った一之瀬にすかさずヒロトが前に出るが俊敏な動きでかわし、飛鷹征矢にはうしろにいるマークにボールを回した。

マークがセンタリングを上げるとディランが飛び込み、吹雪が追いかけて飛ぶもディランはヘディングシュートを繰り出す。


「任せろ！」


円堂がパンチングで弾き飛ばし、サイドラインを渡ると思いきや一之瀬が追いついてゴール前に戻し、ミケーレ＝ジャックスが追いついてシュートを撃つ。


「そうはいくか！」


ミケーレのシュートを円堂は横っ飛びして止めた。


《これは円堂がキャッチー！　しかし一之瀬、縦横無尽の活躍です!!》

《さすがはフィールドの魔術師……多彩で華麗な動きを見せてくれますね》

「惜しかったな、カズヤ」

「だが、いい形で攻撃できている。この勢いを止めずにいこう！」

「ああ。みんな、どんどん攻めるぞ！」

｢｢｢オウッ！｣｣｣


ディランもマークもミケーレも声を上げる中、一之瀬は円堂に顔を向け、逆に円堂も一之瀬を見る。


「やっぱりスゴいぜ、一之瀬……」


次いで一之瀬は瑞貴を見る。その視線に気づいた瑞貴も顔を向けた。


（瑞貴……君への気持ちは今も変わらない。だけど、この試合は絶対に勝つ！）

（一哉への答えは決まっている……。この試合にどれほどの思いを懸けているのかもわかるけど、一人の選手として負けたくない！）


一連の流れを見守っていた木暮夕弥も立向居勇気も目金欠流も、一之瀬のプレーに驚いていた。


「あいつら、メチャクチャ強いよ」

「ああ。ほんの少しの隙も逃さず、ゴールに襲い掛かって来る！」

「やはり一之瀬くんの力ですね……。彼を封じることが勝利への鍵でしょう」

「どうやって？」

「それは……分析中です……」

「なんだ、わかんないのか」

「…………」


木暮に鋭いツッコミを入れられ、目金は意気消沈するように顔をうつむける。だけどその中で、不動明王は真剣な表情でジッとフィールドを見つめていた。


（一之瀬くんが、あんなに激しいプレーをするなんて……！）

『本気の勝負をしたいんだ。円堂と……瑞貴と！』

（ホントにこれが、最後の試合なの……!?）


秋は幼馴染だからこそ一之瀬のプレーの変化に気づいている。ユニコーンがナイツオブクイーンと戦ったときもそうだったが、病気のことを知るとその理由がわかった。

円堂からボールを回された瑞貴がドリブルして行くと、マークとディランが立ち塞がる。


「ミズキ！　やっと君と戦えるな！」

「ミーたちギンギンに待っていたんだ！」

「私も、マークとディランとサッカーができるなんて嬉しいよ！」


マークとディランのディフェンスを瑞貴は巧みなボール捌きで奪わせない。そして二人に隙ができるのを見逃さず、瑞貴はボールごと高く飛んだ。


｢｢しまった！｣｣

「修也！」


瑞貴が前線へパスを出し、豪炎寺はそのままユニコーン陣内へ切り込んでいく。