フユッペの秘密
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夕方になっても病院の一室で冬花は目を覚まさない。それどころかうなされているので、ずっとそばで付き添っていた円堂と瑞貴はとても心配している。
「冬花ちゃん……」
瑞貴は昨日と同じように頭を撫でると、冬花の表情が少し和らいだ。
「あっ、フユッペの表情が……!」
「この間ね、私が頭を撫でると安心するって言ったの。気休めにしかならなくても、早く元気になってほしい、いつもの笑顔を見せてほしいんだ……」
「瑞貴……」
和らぐ表情の冬花に対して憂(ウレ)いがある顔をする瑞貴に、円堂は眉を下げて見つめていると……。
ガラッ。
「「久遠監督……」」
「…………」
病室に入って来たのは瑞貴たちの連絡を受けた久遠。それに瑞貴が撫でる手を止めると冬花が再びうなされる。
「っつ……うっ……」
「冬花!」
「瑞貴、フユッペが!」
「冬花ちゃん!」
「うぅっ……」
「!」
冬花の様子に気づいた久遠と円堂が言うと瑞貴はもう一度頭を撫でる。少しずつ落ち着いてきた冬花の様子に、久遠は驚くと次いで悲しそうに眉をしかめた。
「……やはり、お前を連れてくるべきではなかった」
「でも、事故には巻き込まれなかったし、気を失っただけで――」
「事故を見たことが問題なのだ」
「えっ?」
「どういうことなんですか? 『事故を見たことが』って……」
瑞貴と円堂は久遠の言葉に引っかかった。今なら言えると思い円堂は冬花を見ながら言う。
「……俺、ずっと気になっていたんです。どうしてフユッペは、俺のことを覚えていないのかって。何年も前のことだけど稲妻町のことも全然覚えていないなんて……やっぱり変です。監督、知ってることを教えてください」
「…………」
「あっ」
久遠は言うべきかどうか迷っている。その視線が自分に向けられたことに瑞貴は気づいた。
「私、席を外しますね」
「いや、井上にも知ってほしい」
「監督……」
引き止めた久遠に瑞貴は驚いたが、冬花を撫でる手は動かしつつも話を聞く体制になったので、久遠はそれを確認して話し始める。
「冬花には、昔の記憶がない」
「「えっ」」
「いや、私が記憶を消したんだ」
「監督が!?」
「私は、本当の父親ではない。彼女の本当の名前は『小野冬花』だ」
「小野冬花……――っ、そうだった!」
久遠の口から伝えられた言葉に、円堂は冬花の本当の名前を思い出した。しかし瑞貴は原作で知ったとはいえ本来知らないと不自然なために尋ねる。
「守、小野冬花って……」
「フユッペの本当の名前だよ。俺は昔からいつも『フユッペ』って呼んでいたから覚えていなかったんだ……」
……久遠は桜咲中サッカー部を辞めて数年後に小学校の教師となった。ある日、久遠のクラスだった冬花に悲劇が起こった。交通事故で冬花は両親を失ったのだ。ショックのあまり食事もとれず、日に日にやつれ、放っておけば死の危険さえあった。
そこで医師が提案したのは『催眠療法』だった。悲しい過去を新たな記憶に変えることによって辛さを忘れさせ、生きる気持ちを取り戻させるために。冬花の命を救うにはそれしかなかった。
催眠療法から目が覚めた冬花は、自分の手を握っている久遠に気づいた。
『……だあれ?』
『冬花、お前のお父さんだ』
『お…とう…さん……?』
その日から冬花は『小野冬花』から『久遠冬花』になった。
真実を知った円堂は目を見開き、瑞貴は眉を下げて冬花を見つめる。
「そんなことが……!」
「それで冬花ちゃんは、守のことを覚えてなかったんだ……」
「だが、私は今も悩んでいる。私がしたことは正しかったのか、冬花の本当の人生を奪ってしまったのではないかと……」
久遠は瑞貴のおかげで表情が和らいでいる冬花を見て言葉を続ける。
「さっきのように、うなされるようになったのは、ここ最近だ。恐らく、消した記憶が甦ろうとしているのだろう。……円堂、お前は冬花が幸せなときに一緒にいた。お前といることで、その頃の記憶が呼び起こされているのかもしれない」
「だったら、記憶を戻してあげれば!」
「記憶が戻れば、冬花はあの辛い過去と向き合わなければならない。それに耐えられなければ、今度こそ……」
「「…………」」
その言葉の続きは言わずとも円堂と瑞貴に伝わった。