「決めた……？」

「ああ。今日、決意したんだ……。そのとき、やっと決意できたんだ……」


自分はやっぱりサッカーが好きだ。好きだが同時に時間がないことにも気づいた。


「フクさん。いつも洗濯ありがとう」

「修也さん……」


豪炎寺は荷物を受け取り、フクは最後まで良い表情をできずにそのまま帰った。


「修也が…いなくなる……」

「瑞貴？」

「みぎゃ！」


呆然としていたため突然声をかけられて肩を跳ねると、隣に豪炎寺がいた。誤魔化そうとしたが、その場にいたことや様子で豪炎寺は気づく。


「……聞いてたのか」

「あっ……うん……。ごめんね、立ち聞きするつもりはなかったんだけど……」

「構わない。俺もあそこで話していたのが悪かった」


豪炎寺はそのまま瑞貴の横を通り過ぎようとしたが、それを許さないというように瑞貴は豪炎寺のジャージの裾をつかむ。もちろん豪炎寺も止まって振り向く。


「どうした？」

「修也、サッカーをやめるの？」

「……ああ」


悲しそうに顔をうつむける豪炎寺。その答えだけで瑞貴はショックを受ける。


「少し、出ようか」


豪炎寺と瑞貴は外に出るとグラウンドのベンチに座る。宿舎からは離れているので近くにいない限り会話を聞かれることはない。


「前から父さんにサッカーをやめて医者になるように言われたんだ。医者は人の命を救うのが仕事だからと」

「でもサッカーだって、人に希望を与えるスポーツだよ」

「そうだな。俺も同じことを言った。だけど父さんは『所詮は遊び、サッカーは人の命までは救えない』って……」

「っ」


それは正論だ。サッカーは一時の希望を与えることができてもそれだけだ。医者のように人を治すことはできない。


「俺には父さんが持つ医者としてのＤＮＡを継いでいる……。だから俺の最良の道はサッカー選手ではなく、医者になることなんだとも言われた」

「……私は修也じゃないし、修也の家庭事情に踏み込むことはできない。――だけどこれは言える」

「えっ？」

「いくらお父さんが医者で修也がその子供だからって、ＤＮＡだけで人の最良の道が決まることは絶対とは言えない！　有人だって血が繋がってなくても鬼道財閥の跡取りとして立派にやっているし、代表になったみんなだって全員が親族にサッカー選手がいるわけじゃないでしょ？」


もちろん才能も関係あるかもしれないが、努力がなければここまで駆け上がって来れないだろう。豪炎寺だって毎日練習をがんばっているからこそ、イナズマジャパンでもエースストライカーとして活躍しているのだ。