「他人のことばかり悩んでるなんて余裕だな。そんなんだと俺にレギュラーを奪われるぜ」

「……ありがとうございます」

「ハァ？」

「心配してくれるんですよね、私のこと」


瑞貴は優しく微笑むが、どこか悲しげだと気づいた不動はチッと舌打ちする。


「バカ女はバカらしくバカやってればいいんだよ」

「バカバカ言わないでください！　っていうか、いい加減マトモに呼んでください！」

「フンッ」

「無視ですか!?」

（……なんだ。怒るぐらいの元気はあるじゃないか）


それがわかった不動は人知れずコッソリと安堵するのだった。



☆☆☆☆☆


夕食も終わって星を見に散歩へ出ようとした瑞貴は玄関へと向かうが……。


「――あの……大丈夫ですか修也さん。フクは心配で……」

（えっ？）


聞こえてきた声に瑞貴は足を止めて曲がり角に身を潜めると、玄関の外で豪炎寺が女性と一緒にいた。アニメで見たことのある瑞貴は彼女が豪炎寺家の家政婦・フクだということに気づく。


「フクさん、知ってたのか？」

「はい……。旦那様は、以前はよく修也さんの試合を応援にいらしていました。亡くなられた奥様とご一緒に。旦那様と奥様は『この子にはサッカーの才能がある』と、それはそれは喜んでいらっしゃいました」


豪炎寺のサッカーの才能は幼い頃からあった。ストライカーとして得点を決める姿を、豪炎寺の父・豪炎寺勝也も豪炎寺の母も嬉しそうに見ていた。


「でも……奥様が亡くなられてから旦那様は人が変わられたようになってしまって……。その上サッカーを見に行こうとした夕香ちゃんが、あんな事故にあって、尚更……」


一年前に起こった豪炎寺の妹・豪炎寺夕香の事故。それは影山零治の策略だと知っている者は響木や瑞貴や円堂などの一部だけだ。


「旦那様は修也さんを憎んでいるのではありません。修也さんに立派なお医者さんになってほしいのです」

「わかってるよ」

「私は旦那様と修也さんがこのままでいるのが辛くて……。修也さんは、旦那様のことを……」

「父さんのことは気にしてない。俺はサッカーをやりたいだけだったんだ。――昨日までは」

「えっ」

「でも、決めたんだ」


豪炎寺は今日の虎丸との自主練で、連携必殺技が確実に完成に近づいていることに気づいた。それと同時に決意もした。