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昼休み――。屋上で昼食をとったあと綾香は職員室に用事があると言って先に帰ったが、まだ時間があるので瑞貴は横になっていた。
「風が気持ちい~。空も青いしいい天気。こんな日には何かが起こったりして」
そんな冗談を呟きながら瑞貴は目を閉じて風を感じていると、不意に誰かの気配を感じた。綾香が戻って来たのだろうかと思って目を開けると――。
「……どちら様ですか?」
そこにいたのは青年だった。制服を着ていないところをみると生徒ではないし、かといって先生としても見たことがない。
「忘れちゃった? 今朝僕のバッジを見つけてくれたでしょ」
彼の上着の胸の辺りには確かに今朝自分が見つけた翼の形をしたバッジがある。さらに美青年だったので結構印象に残っていたから思い出すのも時間がかからなかった。
とりあえず瑞貴は体を起こして座ったまま青年と向き合う。
「ここは部外者立ち入り禁止ですよ。学校に用があるなら一度事務室に……」
「僕が用があるのは君だよ」
「私……? あの、失礼ですがあなたのお名前を聞かせくれますか?」
「僕の名前は……シンと呼んで」
「シン…さん?」
「『さん』はいらないよ。呼び捨てでいいから。敬語も使わないで」
「えっと、シン?」
「うん」
瑞貴が名前を呼ぶと青年――シンは満足そうに頷きながら微笑む。
「単刀直入に訊くけど、私になんの用?」
「……本当に直撃だね。――君にお礼がしたくってさ」
「お礼?」
瑞貴が首を傾げるとシンは「僕の大切なバッジを拾ってくれたから」と言った。別にお礼されるほどではないので瑞貴は首を振る。
「気にしなくていいよ。たまたま通りがかって見つけたから」
「でもこのバッジがなかったら、僕、神様の資格がなくなっちゃうから」
「……神様?」
「そう。僕は神様なんだ。最近暇で仕方なくてね、退屈しのぎにこの世界を見ていたらついバッジを落としちゃってさ、慌てて探しているときに君が拾ってくれたってわけ」
頭がおかしい、もしくは自分をからかっているんだと瑞貴は思った。瑞貴が男で『神様』と呼ばれると思い浮かぶのはキリストとかポセイドンとか少し年代が高い男だ。目の前にいるシンは自分と十近くは歳が離れていると思うので若すぎる。
「僕は幼くして神様になったんだ。天界では史上初の天才と言われるぐらいでね。人間で言うとまだ若いよ」
(なんで考えがわかったんだろう……。神様というくらいなら読心術が使えるのかな)
「うん。使えるよ」
「人の心を勝手に読まないで」
「ごめんごめん。でもこれで信じてくれた?」
瑞貴自身は二次元類のモノは信じているが、それも全ての答えを照らし合わせてから最終的に結論を辿り着けばの話だ。
しかし信じてもどうにもならないので瑞貴は一つ溜息をつく。
「本題に入るね。君が今大好きなアニメ――イナズマイレブンの世界に招待してあげる」
「……ハァ?」
瑞貴はあまりにも衝撃なことに呆気に取られてしまった。
だって当たり前だろう。いきなり現れて神とか言うし、おまけに親切にしてくれたからお礼にイナズマイレブンの世界に招待してあげるって。
(――トリップ?)
「そう、トリップ! 僕、君が気に入っちゃったからね。君もイナズマイレブンのみんなとプレーしたいでしょ?」
「人の心を読むな。そして私はあんたが気に入る要素なんて一つもない。しかもイナズマイレブンは二次元だから行けるわけないでしょ」
ズバズバと遠慮ナシに言ってくる瑞貴にシンは面白そうに笑いながら少し苦笑する。
「まあまあ、それは置いといて。君を気に入ったのは今までの経歴も見せてもらったから。なんたって僕、神様だからね。それを見たから君を気に入ってトリップさせてあげようと思ったの。ちなみにこれは運命だから逆らえない」
人の過去を勝手に見んなと瑞貴は内心強くそう思った。シンもそれがわかったのか口の端を引きつらせながら一歩後ずさる。
「さ、さあこの話はここまで! それと君に拒否権はないから。神の力を使えば君は負けるから。それに、この世界に未練はないだろう? 唯一のことは今朝の友達と、弟くんかな?」
瑞貴の親は幼い頃に亡くなり、唯一の弟はお気に入りの親戚に住んでいるので、瑞貴は親戚に援助されながら一人暮らしをしている。そのせいか家事も上達し、もはや腕はプロ並みだ。
「……彼女は私の大切な幼馴染で親友だからね。それに弟のことも気がかり」
急にこの世界から消えてしまえば二人はどういう反応をするだろう。悲しんでしまうなら絶対に嫌だ。
「大丈夫。君が向こうの世界に行けばこの世界にいる君の経歴は全て抹消される。そうしないと釣り合わないからね。向こうに行けば、今までなかった目標が見えるかもしれないよ」
「……わかった」
大人しく従おうとするとシンが頭を撫でてきた。突然のことに驚いて顔をあげるとシンが跪いて瑞貴を優しい目で見ている。
「僕が向こうの世界の生活も保障してあげる。物語のことも気にしなくていいから思いっきりやっておいで。君ならきっと、彼らとうまくやっていけるよ」
「彼ら……」
「何か他に願いごとはない? 一つだけなら叶えてあげる。戸籍や生活保障は安心していいからそれ以外で」
「……今はない」
「わかった。決まったら教えてね。――さあ、行こっか」
シンが瑞貴の頭から手を離すと突然足下から光が現れ、目を瞑っていても意味がないくらい強い光だった。
瑞貴はそれに包まれると足から体がどんどん消えていく。そして光が治まると屋上にはシン以外誰もいない。
「その世界なら君は幸せになれる。応援しているよ。――瑞貴」
青空を見上げながらシンはそう呟いた。