円堂守がリベロになり、立向居勇気がＧＫになった。立向居は円堂から究極奥義のムゲン・ザ・ハンドを託され、円堂はダイヤモンドダスト戦で出た必殺技のメガトンヘッドを見事習得した。

すると鬼道有人が「もう一つ、必殺技を覚えてもらう」と円堂に言い、その鍵がある帝国学園へ雷門イレブンは向かった。

元帝国学園サッカー部の鬼道や土門飛鳥にとっても、雷門中サッカー部の者にとっても久しぶりである。


「帝国学園……」

「相変わらずスゴい迫力だね……」

「あまりいい思い出がないっス……――あっ！」


円堂や井上瑞貴に続いて壁山塀吾郎がつい本音を漏らすと、すぐそばにいた鬼道に気づき慌てて訂正する。


「き、鬼道さん！　いい今のは、そそそその……」

「気にするな」


鬼道はそう言って先頭で中に入り、他のみんなも鬼道に続いて中に入った。

転校してからずいぶん経つとはいえ鬼道のおかげで迷わず室内グラウンドに着く。一部がその広さに驚き、一部は懐かしく感じる中、鬼道はゴールポストに手をついた。


（ポストには俺のシュートの跡…グラウンドには俺が流した汗が染み込んでいる……。円堂に鉄塔広場があるように、俺の原点はこの帝国学園のフィールド……。だが、感傷に浸りに来たわけではない）


気持ちを切り替えた鬼道は、すぐに行動に移した。


「私にとって、ここはいい思い出なんだ」

「なんで？」

「地区予選決勝の舞台ということもあるけど、新しく生まれ変わった帝国学園サッカー部と初めてサッカーしたのは、私たち雷門中サッカー部でしょ？　だからそれが嬉しかったんだ」

「へへっ。そうだな」

「円堂、瑞貴」


思い出話に花を咲かせている円堂と瑞貴は、鬼道の声に気づいて振り向く。


「デスゾーンをやるぞ」

「えっ。だけど――」

「デスゾーンだ」


原作で土門が円堂大介の必殺技がいいんじゃないかと言ってから答えたのに、それとは違って瑞貴が何か言う前に鬼道は遮った。


「やろうぜ、瑞貴！　鬼道には、何か考えがあるんだよ」

「それだったら、私より同じ帝国学園から来た飛鳥のほうが――」

「デスゾーンだ」

「……わかったよ」


絶対有無を言わさない口調に、瑞貴はガックシと肩を落として降参した。


「でもやるからには絶対に完成させるから！」


拳を手の平に当てて意気込む瑞貴も了承し、それを確認した鬼道は頷いた。


（帝国で生み出された技を習得するには、帝国が相応しい……。それに、ここへ来た理由はもう一つある）


すると瑞貴がポンッと鬼道の肩を叩いた。


「大丈夫だよ。みんなわかってくれてる」

「！」


鬼道は考えを見透かされた感じだった。それに瑞貴は「くれる」じゃなくて「くれてる」と確信して言っている。誰かから聞いたのか、自分の予想なのか、どっちにしろ鬼道は少しだけ心が軽くなった。

他のみんなも一緒にユニフォームに着替え、練習前のストレッチやランニングを始める。そんな中、ベンチにいる吹雪士郎にアフロディが気づいた。


「どうして彼は練習しないんだい？」


東京に帰って仲間になったアフロディは吹雪の事情を知らない、だからこそ吹雪がずっと練習に参加しないことに疑問を感じたのだろう。

これは吹雪の問題でもあるが雷門イレブンの問題でもある。目線で確認してきた円堂に瑞貴は頷くと、円堂は「実は――」とアフロディに話した。


「えっ。心の中に二つの人格があるせいでサッカーができなくなった……？」

「でもあいつは残るって決めた。サッカーが好きだから、どんなことがあってもサッカーを続けたいって思ってるんだ。だから俺たちは待つことにした。吹雪が自分の力で復活することを信じて」

「そう。……来てよかった」


最後のアフロディの呟きは誰にも聞こえなかった。僕なら再生への手助けができるかもしれない、とアフロディは思った。