「音村くん、８ビートとか２ビートとか言ってたでしょ？　どういう意味かはわからなかったけど、彼が指示を出して普段通りの動きでいたら、カットされたりかわされたりすることに気づいたんだ。だから、試しに必殺技を使ってみたの」

「なるほどな。読めたリズムの指示を出し、その途端に違うリズムを取ったら相手も対応できない」

「うん。ごめんね、半信半疑だったから」

「それは俺も同じだ。少しずつタイミングをズラしていくぞ！」

｢｢｢｢｢ああ/うん！｣｣｣｣｣


円堂のゴールキックから試合再開。円堂から鬼道に渡り、続いて瑞貴もリカもＭＦ陣も一緒に上がっていった。すると鬼道の前に渡具知がディフェンスに入る。


「一之瀬！」

「トゥクトゥクトゥクトゥク……16ビート！」


音村の指示で渡具知がスライディングを仕掛ける。


（来た！　タイミングを……！）


鬼道は一瞬ドリブルのタイミングをズラすと、うまく渡具知をかわして一之瀬にパスする。


《繋がったー！　雷門、パスが繋がった――っ！》

｢｢｢やった！｣｣｣

「ナイス鬼道！」


作戦が成功してマネージャーや円堂は喜ぶ。


「８ビート！」


今度は一之瀬の前に赤嶺がディフェンスに入る。


（よし！　タイミングを…！）


一之瀬も一瞬タイミングをズラしてドリブルをすると、赤嶺をかわすことができた。


「行かせん！」

「それ！　バタフライドリームだ！」


宜保が立ち塞がった途端、一之瀬はバックパスをするとリカと塔子が上がっていた。


「塔子！」

「うん！」

｢｢バタフライドリーム！｣｣

「ちゃぶだいがえし！」


リカと塔子のバタフライドリームに対し、首里巌はちゃぶだいがえしを発動させるが、それを砕いてボールはそのままゴールに入った。


《ゴォ――ルッ!!　雷門先制！　ついに均衡が破られました！》

「決まったな！」

「ああ！」

｢｢ナイスシュート！｣｣

｢｢｢｢｢イエ――ッ!!｣｣｣｣｣


リカと塔子に円堂と瑞貴が声をかけると、大海原イレブンは点を取られたにも関わらずノリノリだった。

そしてホイッスルが鳴り、１対０の雷門リードで前半が終了した。相手のゲームメイクも破って先制点も取ったので、雷門イレブンは意気揚々とベンチに向かう。


「クッ……！」

（うまくリズムを外したつもりだろうけど、リズムがあるのは個人だけじゃないからね）


一度もカットできなくて悔しがる綱海に、プレーを読まれても動じない音村。まだまだひと波乱ありそうだ。


「みなさん、やりましたね！　先制点ですよ！」

「ああ。でも、大海原もやるよな、さすがフットボールフロンティア地区予選決勝に行っただけのことはあるぜ！」

「期待以上の相手ですね」


円堂や目金感心する中、土門と瑞貴はみんなより息が上がっている立向居に気づいた。


「大丈夫か？」

「えっ。あ、はい！」

「元はＭＦとはいえ今はＧＫだから、体力温存の仕方が変わってると思うよ。欠流に変わってもらう？」

「いえ、大丈夫です！」


口では平気のように言ってるが、それは瞳子も気になっているようで、視線が立向居に向けられる。

ふと瑞貴は大海原のベンチを見る。そこには顎に手を当てて真剣な顔をしている綱海と、大海原監督を中心に音村を除いた選手が集まってホッとした顔になってる。


（確か、ドリブルの取り方を聞いてるんだっけ）


綱海は飛んでくるボールは取れるが、まだドリブルでのボールは取ることができない。


（仲間になったら、一緒に練習したいな）


自分のドリブル練習も兼ねて、と思った瑞貴はドリンクをひと口飲んで振り返ると、至近距離で怖い顔をしたリカがいる。危うくドリンクを吹き出すとこだった。


「ど、どうしたの!?」

「ハニー……うち言うたよな？　浮気はアカンって！」

「へっ？」


ビシィッと指差して言うリカに、瑞貴は思わず目をパチクリした。