――綱海はＴシャツを着て雷門のスパイクを貸してもらい、壁山と交代で瑞貴のチームに入ることになった。これは鬼道の計らいである。瑞貴も綱海に簡単にルールを教えておいた。

円堂は両手を叩いて意気込み、ボールは綱海の足元にある。


「さあ、練習再開だ！」

「よし、いくぜ！　瑞貴、あそこに蹴り込みゃいいんだろ？」

「はい。ゴールに入ったら得点です」


瑞貴にも確認をとった綱海は、さっそくゴールに向かってシュートを撃つ。あっという間に塔子を抜き、円堂はなんとかパンチングで弾いた。


「なんてキック力だ……」

「スゲェ……スゴいじゃないか綱海！」

「へへっ、だろ？」


鼻の下を擦って得意気に笑う綱海。すると鬼道は瑞貴に話しかけた。


「瑞貴、あいつに必殺シュートを撃たせてみるか？」

「必殺シュートかぁ。ねぇ、だったらさ……」


鬼道の意図を察して瑞貴は提案を出す間、塔子が綱海の前に立っていた。


「自信ありそうじゃん」

「まっ。サーフィンに比べりゃ、サッカーなんてどうってことねぇよ」


綱海の言葉に塔子はカチンときた。サッカーを愛する者として当然だろう。


「サッカーだってそんな甘くないよ！」

「どうだかなぁ」


軽くあしらう綱海に塔子はムッとして両腕を組む。


「何そんなに見つめてるの？」


横からリカが入ると、塔子の視線の先に綱海がいたので、含みのある笑いをする。


「フ～ン」

「何？」

「ええってええって。塔子がその気になってくれたら、ハニーもあきらめるやろうし」

「何が……あっ！」


塔子は急いで鬼道と作戦を立てている瑞貴の元へ駆け寄る。


「瑞貴！」

「ど、どうしたの？　塔子ちゃん」

「吊り橋だかなんだか知らないけど、あんなサッカーをバカにする奴はやめとけ！」


瑞貴は一瞬なんのことかわからなかったが、原作を思い出して拳を手の平にポンッと当てる。


「大丈夫だよ。すぐに条介さんも、サッカーは一筋縄じゃいかないってわかるって」


塔子が言っていた本来の意味は違うが、瑞貴の言うことに塔子は微妙な顔をしてポジションに戻った。


「条介さん！」

「呼んだか？」

「シュートを撃ってください！」

「オウッ！　おりゃ……っと！」


瑞貴からのパスわ、綱海はダイレクトシュートを撃とうとしたが、思いっきり空振りして倒してしまった。


「クソー……ミスったぜ……」

「ホラね、甘くないだろ」


塔子は呆れたように言う。……うしろでリカがニヤニヤしているのは、気にしないでおこう。


「綱海！　もう一度だ！」

「オウッ！　いくぜ！」


今度は鬼道からのパスを綱海が蹴る前に一之瀬が奪った。シュート力はあるが基礎はなっていない。蹴るだけがサッカーじゃないのだ。

綱海は悔しがって砂を強く踏む。


「ちっくしょー！　なかなか思い通りにいかねぇもんだな」

「タイミングを計れ。ボールは常に動いてるんだ」

「タイミングか……。よおし！」


鬼道からアドバイスをもらい、綱海は再チャレンジして鬼道と共に上がっていく。


「フレイムダンス！」


必殺技で鬼道からボールを奪った一之瀬は、そのまま上がっていく。


「クソッ！　今度はこっちか！」


フリー状態でいる綱海も一之瀬を追う。そして瑞貴が前に出てディフェンスに入るが、一之瀬はサイドに上がっているリカにパスした。


「いくでぇ！」


リカはボレーシュートを撃ち、ボールはそのままゴールに向かっていく。


「今だ！」


なんと綱海が飛び出して思いっきり足を伸ばすと、爪先にボールが当たって軌道を変えることに成功した。


「よし、届いたぜ！　おわっ!?」


だけど着地に失敗して、綱海は尻から落ちてしまった。まさか止められると思わなかったリカは驚いた。


「嘘や!?」

「あいつ……！」


このままやられっぱなしは性に合わないのか、塔子は零れたボールを拾ってシュートを撃つ。立向居もそれに反応して飛ぶが、ボールはスピンがかかってカーブした。



「何っ!?　逆か！」

「おおぉぉおおお！」


このままでは入れられる、そう思いきや綱海がまた飛び出して顔面で受けた。


「ぐおっ！」

「綱海……！」

「いいぞ！　綱海！」

「条介さん、ナイスファイトです！」


彼のプレーに塔子は目を見開き、円堂と瑞貴は綱海の根性に賞賛する。

それからも練習は続くが、なんと綱海はコツをつかんだのか、この短時間でリカや塔子のシュートを次々見事に止めていく。


「驚いたなぁ。もうできるようになってるよ」

「並の運動神経じゃないわね」


土門や秋や見学しているメンバーも、綱海の運動神経に驚かずにはいられない。