木暮夕弥は音無春奈に問いかけると、吹雪も耳を傾ける。


「なあ、あの人誰だ？」

「神崎シンさんよ。神崎グループの社長さんで、瑞貴先輩がお世話になってる人なんだって」

「瑞貴ちゃんが……」

「そういえば、パパを通じてあたしも何度か会ったことがあるっけ」

「おいおい、総理大臣とも面識があるのかよ……」


塔子の呟きが聞こえた土門飛鳥は、シンの伝手の広さに苦笑した。



――シンと瑞貴は町外れの広場で車を止めていた。


「急に連れてきてどうしたの？」

「理由は君自身がよくわかってるでしょ？　今の状態で、あそこに居続けても、病院にいるみんなに会っても、心配かけるだけだよ」

「！」


どうやらシンには全てお見通しのようだ。瑞貴がこのことで相談できるのは、彼だけだろう。


「真・帝国学園の悲劇を、私は防ぎたかったんだけど……」


真・帝国学園の一件が、佐久間次郎や源田幸次郎の新たな成長に繋がることはわかっていた。

たけど、瑞貴はそれを防ごうと二人のお見舞いをして、鬼道や自分たちの弱さを恨まないように必死だったが、結局ダメだった。


「ときどき思うんだ。結局は原作通りになるから、私が何をやっても無駄なんじゃないかって。だから、世宇子中が神のアクアを使ってることも、修也の離脱も、何も言わなかったし何もしなかった」

「……確かに。例え瑞貴が行動しても、どこか別のところで何かが起こって結果が同じになるかもしれない」


シンの厳しい言葉に、瑞貴はギュッと拳を握る。


「だからといって、全て同じじゃない」

「えっ？」

「忘れたかい？　元々君がトリップしてきただけで、この世界は君が知っている『イナズマイレブン』じゃない。原作はほんの一部に過ぎないんだよ」


結果は同じでも、どこか原作と食い違っていることは、今まで何度もあった。


「真・帝国学園で佐久間くんは皇帝ペンギン１号を三回撃ったのに、瑞貴が行動を起こしたおかげで二回ですんだ。だから回復も早いんじゃないかな」

「ホントに!?」

「うん。それに瑞貴は原作を忘れることを望んでないでしょ？　だから……」


シンは瑞貴の頭にポンッと手を置く。


「後悔するくらいなら行動するんだ。防ぐことはできなくても、今回みたいに最小限に抑えることだってできる。それに――君が悲しむと円堂くんたちも悲しむ。もちろん僕もね」

「シン……」


瑞貴は瞳から涙が溢れるとシンに抱きつく。


「うっ……ふぇ……」


シンは何も言わず瑞貴を抱きしめ、落ち着くまで頭も撫でた。



☆☆☆☆☆


元気を取り戻した瑞貴はシンに病院まで送ってもらい、とある病室にやって来た。


「みんな、久しぶり！　元気してた？」

｢｢｢｢｢瑞貴/先輩！｣｣｣｣｣


半田真一、松野空介、影野仁、少林寺歩、宍戸佐吉。ジェミニストームとの戦いで負傷したメンバーだった。


「これお土産。私の手作りマフィンだよ」

「ありがとう……」

「半田のも～らい！」

「マックスー！」


影野たちが受け取っていくと、松野が半田のマフィンを取り上げたので、半田は怒りながら取り返そうとする。


「さっきキャプテンが来ましたよ。てっきり瑞貴先輩も一緒だと思ってました」

「ちょっと用事があってさ。でも、歩やみんなが元気そうでよかったよ」

「はい！　退院したら特訓して、先輩たちと一緒にエイリア学園を倒したいです！」

「期待してるよ、佐吉。だったらちゃんと療養しないとね」