あみだせ必殺技!
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豪炎寺が何も言わないことに不思議に思ったのか、または様子を見ようとしたのか、少し顔を上げた円堂は、病室のプレートを見る。そこには『豪炎寺夕香』と書かれていた。
「入院してるのって……」
「妹だ」
「えっ、妹?」
頭を下げっぱなしの瑞貴は耳だけで二人の会話を聞いていた。
「まったく、お前らには呆れるよ。井上も、もういいから頭を上げろ」
豪炎寺にそう言われたので瑞貴はおそるおそる頭を上げる。豪炎寺は病室のドアを開き、そのまま立つ。
「入れよ」
「えっ? あ、ああ」
「お邪魔します」
病室の中に入った円堂と瑞貴が見たのは五、六歳くらいの小さな女の子がいた。ベッドのそばにはいくつものコードが繋がっている。
状況からしていわゆる植物状態というのだろう。息があるのに死んでいるように眠っている。
「夕香っていうんだ。もうずっと眠り続けている」
「えっ」
眠り続けている、という言葉に驚く円堂。瑞貴はただ悲しそうな表情で夕香を見ていた。
「話すよ。でなきゃお前ら、帰らないだろ」
「で、でも、豪炎寺くんが話したくないのでしたら私は……」
「構わない。井上も聞いてくれ」
豪炎寺にそう言われたので瑞貴は小さく頷いた。
「――夕香は去年のフットボールフロンティア決勝の日から、ずっとこうなんだ」
「木戸川清修と帝国の試合だったな」
「ああ……。こいつ、楽しみにしてたんだ、決勝見るの。必ず応援に行くって言ってな」
『お兄ちゃんがんばって! 絶対勝ってね! カッコいいシュートを撃ってこなきゃダメだよ!』
『ああ。約束だ』
『うん!』
豪炎寺は妹・豪炎寺夕香が楽しそうに笑ったあの笑顔が甦る。
「夕香の笑顔を見たのはそれが最後だ。スタジアムに急ぐ夕香は……」
その先は言わなかったが円堂も瑞貴も豪炎寺が言おうとしていたことを察した。特に円堂は事情が大きなものだったので驚いていた。
「事故のことを聞いたのは、試合の直前だった」
「だからお前は……」
「……病院に向かったよ」
豪炎寺は目を閉じてそう言った。――大切な妹が事故にあったのだ。仕方がないことだ。
「この病院には親父が勤めているんだ。俺が転校したのもその都合……」
豪炎寺は静かに椅子に座った。
「俺がサッカーをやってなきゃ、夕香はこんなことにはならなかった。夕香がこんなに苦しんでいるのに、俺だけのうのうとサッカーをやるわけにはいかない。だから俺は……!」
ギュッと豪炎寺は苦しそうにズボンを握る。その様子を円堂と瑞貴は見た。
「夕香が目覚めるまでやらないと誓ったんだ。なのに……!」
二人を見る豪炎寺は少し笑い、この間の帝国学園との練習試合を思い出した。
「あのとき……何故なんだろうな? 自分でもわからないんだ……。自然に、体が動いてた……」
そのときの豪炎寺の顔は切なげで、どこか不思議そうな表情をしていた。
「……辛い話、させちゃったな。俺、何にも知らないでしつこく誘って……ごめんな」
円堂が改めて謝るが、豪炎寺は答えなかった。
「このこと、誰にも言わないよ。じゃ……」
「私もです。では、失礼します」
円堂が足を踏み出すと瑞貴も一つ礼をして円堂のあとに続く。
「……サッカー部、あれからどうなった?」
「ああ。次の対戦校が決まったんだ」
「豪炎寺くんのシュートがキッカケで、みんな練習をがんばっています」
「「ありがとな/うございます」」
円堂と瑞貴はそのまま病室を出た。
――病院の帰り道、二人は先程のできごとを頭に思っていた。
「……豪炎寺がサッカーを辞めた理由って、妹のためだったんだな」
「そうだね。でも妹さんは豪炎寺くんがサッカーを辞めることを望んでないんじゃないかな」
「えっ?」
円堂は足を止めて瑞貴を見るとつられて瑞貴も足を止めた。
「だって夕香ちゃんは試合を見るのを楽しみにしていたでしょ? それって豪炎寺くんがサッカーをやっている姿を見るのを夕香ちゃんは好きなんだと思う。目が覚めたとき、豪炎寺くんが自分のせいでサッカーを辞めたって聞いたらむしろ傷つくんじゃないかな」
円堂は目を丸くすると「そうだな」と言った。だが瑞貴の表情は晴れないままだった。
「豪炎寺くんが気づかないといけない。私たちが言ったって彼の心には届かないと思うから」
「ああ……」
☆☆☆☆☆
次の日の放課後――。
「新聞部の音無春奈、今日からサッカー部マネージャーやります!」
部室に入った円堂たちが見たのは尾刈斗中の情報を教えてくれた春奈だった。突然のことなので円堂たちもポカンとした顔をしている。
「みなさんの練習を見てるだけじゃ物足りなくって。だったら、一緒の部活やったほうが早い、そう思ったんです! 新聞部の取材力を生かして皆さんのお役に立ちたいと思います。よろしくお願いします!」
「……ってわけ」
「あ、ああ……。よろしく!」
「『おとなし』って……」
「『やかまし』の間違いじゃないの?」
名字と違って元気よく喋る春奈に円堂は一瞬呆気に取られながらも挨拶し、そのうしろで半田と松野が小声で話していた。それでも春奈はニコニコとしていた。が――。
「入院してるのって……」
「妹だ」
「えっ、妹?」
頭を下げっぱなしの瑞貴は耳だけで二人の会話を聞いていた。
「まったく、お前らには呆れるよ。井上も、もういいから頭を上げろ」
豪炎寺にそう言われたので瑞貴はおそるおそる頭を上げる。豪炎寺は病室のドアを開き、そのまま立つ。
「入れよ」
「えっ? あ、ああ」
「お邪魔します」
病室の中に入った円堂と瑞貴が見たのは五、六歳くらいの小さな女の子がいた。ベッドのそばにはいくつものコードが繋がっている。
状況からしていわゆる植物状態というのだろう。息があるのに死んでいるように眠っている。
「夕香っていうんだ。もうずっと眠り続けている」
「えっ」
眠り続けている、という言葉に驚く円堂。瑞貴はただ悲しそうな表情で夕香を見ていた。
「話すよ。でなきゃお前ら、帰らないだろ」
「で、でも、豪炎寺くんが話したくないのでしたら私は……」
「構わない。井上も聞いてくれ」
豪炎寺にそう言われたので瑞貴は小さく頷いた。
「――夕香は去年のフットボールフロンティア決勝の日から、ずっとこうなんだ」
「木戸川清修と帝国の試合だったな」
「ああ……。こいつ、楽しみにしてたんだ、決勝見るの。必ず応援に行くって言ってな」
『お兄ちゃんがんばって! 絶対勝ってね! カッコいいシュートを撃ってこなきゃダメだよ!』
『ああ。約束だ』
『うん!』
豪炎寺は妹・豪炎寺夕香が楽しそうに笑ったあの笑顔が甦る。
「夕香の笑顔を見たのはそれが最後だ。スタジアムに急ぐ夕香は……」
その先は言わなかったが円堂も瑞貴も豪炎寺が言おうとしていたことを察した。特に円堂は事情が大きなものだったので驚いていた。
「事故のことを聞いたのは、試合の直前だった」
「だからお前は……」
「……病院に向かったよ」
豪炎寺は目を閉じてそう言った。――大切な妹が事故にあったのだ。仕方がないことだ。
「この病院には親父が勤めているんだ。俺が転校したのもその都合……」
豪炎寺は静かに椅子に座った。
「俺がサッカーをやってなきゃ、夕香はこんなことにはならなかった。夕香がこんなに苦しんでいるのに、俺だけのうのうとサッカーをやるわけにはいかない。だから俺は……!」
ギュッと豪炎寺は苦しそうにズボンを握る。その様子を円堂と瑞貴は見た。
「夕香が目覚めるまでやらないと誓ったんだ。なのに……!」
二人を見る豪炎寺は少し笑い、この間の帝国学園との練習試合を思い出した。
「あのとき……何故なんだろうな? 自分でもわからないんだ……。自然に、体が動いてた……」
そのときの豪炎寺の顔は切なげで、どこか不思議そうな表情をしていた。
「……辛い話、させちゃったな。俺、何にも知らないでしつこく誘って……ごめんな」
円堂が改めて謝るが、豪炎寺は答えなかった。
「このこと、誰にも言わないよ。じゃ……」
「私もです。では、失礼します」
円堂が足を踏み出すと瑞貴も一つ礼をして円堂のあとに続く。
「……サッカー部、あれからどうなった?」
「ああ。次の対戦校が決まったんだ」
「豪炎寺くんのシュートがキッカケで、みんな練習をがんばっています」
「「ありがとな/うございます」」
円堂と瑞貴はそのまま病室を出た。
――病院の帰り道、二人は先程のできごとを頭に思っていた。
「……豪炎寺がサッカーを辞めた理由って、妹のためだったんだな」
「そうだね。でも妹さんは豪炎寺くんがサッカーを辞めることを望んでないんじゃないかな」
「えっ?」
円堂は足を止めて瑞貴を見るとつられて瑞貴も足を止めた。
「だって夕香ちゃんは試合を見るのを楽しみにしていたでしょ? それって豪炎寺くんがサッカーをやっている姿を見るのを夕香ちゃんは好きなんだと思う。目が覚めたとき、豪炎寺くんが自分のせいでサッカーを辞めたって聞いたらむしろ傷つくんじゃないかな」
円堂は目を丸くすると「そうだな」と言った。だが瑞貴の表情は晴れないままだった。
「豪炎寺くんが気づかないといけない。私たちが言ったって彼の心には届かないと思うから」
「ああ……」
☆☆☆☆☆
次の日の放課後――。
「新聞部の音無春奈、今日からサッカー部マネージャーやります!」
部室に入った円堂たちが見たのは尾刈斗中の情報を教えてくれた春奈だった。突然のことなので円堂たちもポカンとした顔をしている。
「みなさんの練習を見てるだけじゃ物足りなくって。だったら、一緒の部活やったほうが早い、そう思ったんです! 新聞部の取材力を生かして皆さんのお役に立ちたいと思います。よろしくお願いします!」
「……ってわけ」
「あ、ああ……。よろしく!」
「『おとなし』って……」
「『やかまし』の間違いじゃないの?」
名字と違って元気よく喋る春奈に円堂は一瞬呆気に取られながらも挨拶し、そのうしろで半田と松野が小声で話していた。それでも春奈はニコニコとしていた。が――。