温子と話していると二階からドタドタと階段を降りてくる音が聞こえた。


「瑞貴！　一之瀬！　早く俺の部屋に来いよ！」

「円堂！」

「二人は先に行ってて。私は温子さんの手伝いをするから」

「瑞貴ちゃんも行ってきなさい。選手同士だからいろいろと聞きたいでしょ」

「えっ」


温子の言ったことは的を射ていた。アメリカのサッカーやプレーなどいろいろ聞きたいこと満載なのだ。


「いってらっしゃい」

「ありがとうございます」


瑞貴はもう一度温子にお辞儀をしてから一之瀬と円堂の部屋に向かった。

――それからサッカー部全員が一之瀬の話を聞くために集まり、円堂の部屋はさすがに狭くなってきた。

一之瀬の話を聞いて盛り上がり円堂も立ち上がって話し、いきなり飛び上がったと思いきや壁山の頭にぶつかった。円堂は「大丈夫」というように両手でピースしているが、目が回って頭にはタンコブができた。


「みんなー！　ご飯よー」

｢｢｢｢｢はーい！｣｣｣｣｣｣


全員リビングへ向かい、大人数ながら賑やかで楽しい夕食となった。



☆☆☆☆☆


次の日。結局シンは来なかったが、一之瀬は午後の飛行機でアメリカに帰るため、グラウンドでは今日こそトライペガサスを完成させようと盛り上がっていた。

昨日のように一之瀬がボールをセンターラインに置き、その両隣に土門と円堂が構える。一之瀬は二人を交互に見ると、二人は準備完了というように頷いた。


「ＧＯ！」


一之瀬の合図と共に走り出し、交差するとペガサスが現れた。三人はそのペガサスの元へ飛び上がるが、途中でペガサスが消えてしまった。昨日よりはまだマシだがあともう一歩足りない。


「もう少しなのに……」

「まだ時間はある！」

「もう一度だ！」


土門と一之瀬と円堂はあきらめずに何度も続けていくが、成功せずに時間は過ぎるばかり。その中で瑞貴は何もできないのが歯痒くなって原作の記憶を掘り返す。


（思い出せ……どうやったらトライペガサスが成功するのか……！）


息が上がっていた三人と、隣で祈るように両手を組む秋を見て瑞貴は目を見開く。


「そうか！」


瑞貴は声をあげて円堂と一之瀬と土門の元へ駆け寄った。それに気づいたのは円堂だ。


「瑞貴……？」

「私が目印になる。三人が一点で交差できるようにポイントに立つ」

「瑞貴さん！　そんなことしたら危ないっスよ！」

「そうよ。ペガサスが飛び立つには乙女の祈りが必要なんだわ！」

「乙女って……まあ私はそんなキャラじゃないけど。私は守も飛鳥も一哉も信じている」

「瑞貴……」


秋の言葉に苦笑するも瑞貴は迷いもなく三人にそう言う。一之瀬は目を見開いて呟き、円堂は力強く頷く。



「頼むぞ、瑞貴！」

「ＯＫ」

「キャプテン！　ポイントの前に立つってことは失敗したら瑞貴さんは……」

「だから成功させるんだ！　瑞貴は俺たちの成功を信じている！」

「大丈夫だよ鉄平。それに私タフだから」


不安そうに言う栗松に円堂は拳を作って笑い、瑞貴も微笑みながら栗松の頭を撫でる。円堂は一之瀬と土門を振り返って「だろ？」と同意を求める。


「信じる心には――」

「行動で答える、だね」

「えっ？」


まさに円堂が言おうとした続きの言葉を一之瀬が言うと、驚いて円堂はキョトンと声を上げる。