第二部

 見習い兵を乗せた飛竜が、上空を大きく旋回した。槍を振りかぶった拍子に少し態勢を崩したが、難なく持ち直して一打をくり出してくる。セルジョはその槍をたやすくなぎ払ったが、一瞬、目をみひらいた。その突撃には熟練の騎士にも劣らぬ重さがあった。槍術の巧拙よりも、飛竜をうまく制御する技量がなければこのような攻撃は出せない。
 いったん離脱した少年は、ひるむことなくさらなる攻撃を仕掛けてくる。さっきの突撃は偶然ではなかった。少年は穂先を柄で受け止めたとき、セルジョの口元に笑みがうかんだ。昔、弟と槍を交えたときの記憶がよみがえってきた。

 地上に降り立つと、セルジョは感嘆まじりに少年をねぎらった。
「たった二日でこれほど飛竜を乗りこなせるとはな。おまえは筋がいい」
「ありがとうございます」
 農民と大差ない下級貴族の出であるためか、十五歳にしては背が低く、同年の見習い騎士とくらべて膂力も技量も劣る。しかし度胸があり勘もよい。
 竜騎士となれるか否かのすべては飛竜との相性にあると言ってもよい。幼いころから鍛錬を積んでいた貴族子弟であっても、訓練に入ったとたん脱落していく者は多い。
「ヴィル・ロット、だったな?」
「はい」
「あらためて言っておく。わが国はいま非常に厳しい状況にある。おまえのような若者にはじっくりと訓練を積ませてやるべきなのだろうが、早期に実戦に出てもらわねばならなくなるだろう」
「承知しております。早く祖国のためにわたしの力を役立てたいと思っています」
「そうか。懸命に励んでくれ」
「ではアゴスト隊長、もう一度お願いします」
 少年は目をかがやかせ、ふたたび手綱をとった。セルジョもまた愛竜にのって上空へと駆けあがる。
 先の見えぬ日々を過ごすなか、見習い騎士たちとの訓練は心が軽くなる数少ない瞬間だった。そしてヴィルのような明るく前向きな少年と接するとき、若くして戦死した弟のことを思い起こした。
 セルジョの異母弟は竜騎士だったが、ドルーアがマケドニアに侵攻したおり、前線で火竜と戦い、その鋭い爪で全身を引き裂かれた。一晩苦しみ、息絶えた。まだ十七だった。祖国に殉じた弟を誇りに思うものの、その後マケドニアがドルーアの傘下に入り、アカネイアとの戦争が始まった。命を賭して国を守ろうとした者たちの働きは水泡に帰してしまった。
 祖国がドルーアに与したこと、そのすべてが過ちであったとセルジョは思っていない。当時、アカネイアからの早期の援軍が望み薄であった以上、反攻の機をうかがうためには同盟も有用な手段のひとつであった。しかしその後のマケドニアがたどった大義なき侵略行為までも受け入れてはいない。
 なぜ、弟の命は失われなければならなかったのか。
 弟だけではない。自分たちの行いは同胞らに恥じぬものなのか。自問しつづけた結果、祖国に弓引く道を選んだ。
 同盟軍に加わってのち、セルジョはマケドニア軍に向けられる嫌悪のまなざしをひしひしと感じることとなった。直接恨み言をぶつけられることもしばしばだった。他国の民にとってのマケドニア騎士とは、他国を侵し、民に暴虐を働くならず者の集団にすぎないのだ。
 やむをえぬ、と王女は諦念をにじませたが、毅然とこう言った。
 われらが率先し武功を挙げつづけることが、ふたたび栄光を勝ちとる唯一の道である、と。
 約一年ののち、祖国の解放を成し遂げたが、夢にまで見た勝利の味は苦いものだった。あまりに失われた命が多い。
 かつて五部隊で編成されていた竜騎士団も半減した。見習い兵は百を超えるが、騎兵とは異なり竜騎士の育成には長い年月を要する。
 くわえて、軍用の飛竜の調教にも年数がかかる。戦死した騎士の飛竜を新兵に与えることができればよかったのだが、マケドニアでの決戦は熾烈をきわめ、降伏せずに無謀な突撃を行った者が多かった。結果、乗り手とともに飛竜も息絶え、生き残ったとしても騎竜としては役目を果たせぬ状態だった。
「父の代の竜騎士団の規模へ戻すには、五年……いや十年は必要だろう」
 戦後すぐのころ、ミネルバ王女はセルジョの前で苦渋をにじませた。セルジョの見立てではそれ以上に時間を要すると感じている。なにぶん、この国は飢饉の影響で、ヴィルぐらいの年の若者がごっそりといないのだから。
 ただでさえ前途は暗いというのに、内部では不協和音が流れつづけている。

        ⁂

 新兵の訓練を終え、セルジョが騎士館へ戻ると、ユスタスと顔を合わせた。さっきまでリュッケと会っていたのだろう。少々不機嫌そうであったが、セルジョを見て笑顔になった。
「見習い騎士の様子はどうだ?」
「まず順調といってよいでしょう。なかなか骨のある若者が集まってくれましたから」
「そうか、殿下もよろこばれるだろう。最盛期とまではゆかずとも、南方の雄と評されるにふさわしい竜騎士団を一刻も早く復活させたいとお考えだからな」
「近々、春に入団した者を加えて西部海岸の巡回に向かいます。実戦に勝る鍛錬はありませんから」
「あのあたりは昔から海賊が幅をきかせているが、戦後はますます悪化しているようだな」
「殿下も西部国境の警備の手薄さを懸念されているのですが、新兵の多いこの状況では竜騎士団の巡回を増やすこともできず……なんとも歯がゆいことです」
「今後は多少改善するだろう。リカルドが熟練の騎士を調達してくれる予定だからな」
 ユスタスは冷笑をうかべた。
「わたしはあやつら全員を辺境警備部隊に放りこむのであればそれもよいと思っている。おまえはどうだ? やつらの復帰を望むか」
「人によるとしか申せません。殿下の下された処分は正当だったと考えておりますが、一部、再検討してもよい者がいるというのも理解しておりますので」
「ラディス・シェンケルもか」
 セルジョが言葉に詰まると、ユスタスは喉を鳴らして笑った。 
「すべての裁判記録に目をとおしたが、たしかにあの男を死刑か追放に処すのは難しいな。無理をとおせば、殿下の公正な裁きに泥を塗ることとなる。……まったく腹立たしいことだ」
 ユスタスは身をひるがえした。その背を見送るセルジョの顔は憮然としたものだった。
 セルジョにとって敵対したとはいえ、幼きころより竜騎士を志し、ともに研鑽してきた仲間である。自信家ゆえに不遜な面もあるため露骨に嫌う者も多いが、けっして人品卑しい男ではない。事実、シェンケルはルーメルたちとは違い、軍法にふれる行いはしなかった。王女が処分を謹慎にとどめたのも、その才を惜しむがゆえのものだと理解している。
 だが、セルジョはシェンケルにぬぐいきれぬ不信感があった。



「リュッケ将軍、少しよろしいか」
「セルジョか、いかがしたのだ」
 リュッケは手元の書類を脇にやり、椅子にもたれかかった。
「地方巡回の件なのだが」
「ああ、次は西部沿岸へ行くのだったな」 
「西部だけでなく北西部まで向かおうと考えている。近ごろは交易船が活発に行き来しているようだし、グルニア海峡の警戒を強めたほうがよいだろう。当初の予定より長く王都を空けることとなるが、支障はないだろうか」
「それはかまわぬ。むしろ願ってもないことだ。北西部は長らく国が見捨てたも同然の地だった」
「ユスタスどのいわく、熟練の騎士を辺境警備に回す算段があるとのことだが」
「ああ、その話か」
 リュッケが渋い顔になった。先ほどその件で二人が口論となっていたのがうかがえた。
 セルジョはつづける。
「ユスタスどのはずいぶん寛容になられたのだな。以前はあらためて厳罰に処すべきとまで主張されていたというのに」
「すでにアカネイアからの許可もおりていることだし、ユスタスとて、人手不足の解消のためにはやむをえぬと思っているのだろう。まあ、不穏分子を辺境に追いやり、馬車馬のようにこき使ってやろうという魂胆だろうがな」
「まあ、あの方らしい考えだが」
「貴公には不服であろうが、殿下も了承されていることだ」
「殿下が決められたことを否定するつもりはない。アカネイアが認めた以上は相応の理由あってのことであろう。だが……」
「シェンケルのことか」
 セルジョはしばし黙したが、意を決して口を切った。
「……あなたにはもっと早くに話しておくべきだったのやもしれぬが、シェンケルはオズモンド陛下の暗殺に直接関わっている」
 リュッケの肩がぴくりとはね上がった。
「それはまことか」
「確実な証拠があるわけではない。暗殺への関与が疑われる貴族は幾人もいるが、シェンケルはまちがいなく首謀者の一人だ。オズモンド陛下、メスト公、ヴェーリ伯、プラージ伯に手を下した者であろうと、わたしは確信している」
「……なにゆえそう思うのだ?」
「わたしはあのときミネルバ王女とともにドルーア前線の守備についていたが、そこへシェンケルがオズモンド陛下の凶報を伝えにやってきた。九の月十四日の夕刻だった」
 あの日は火竜との戦いで重傷を負った弟が一晩苦しんだすえに息絶えた日である。忘れるはずもない。
「殿下は、父君の訃報を受けて放心されていた。無理もないことだ。アカネイアの刺客による暗殺などといきなり伝えられても受けとめようがない。わたしも驚愕したが、それ以上に驚いたのは殿下を見つめるシェンケルの顔だ。あの男は……蒼白になり、いまにも倒れそうな姫を見て笑っていた。嘲弄しているようにさえ見えた。むろん、そんなものが証拠になりはしないが、いくつかあの男の動きには不審な点があった。殿下もあの男が首謀者の一人とわかっておられるはずだ」
「わかっておられるのなら、なぜ殿下はシェンケルを見逃しておられるのだ?」
「わたしもそれが不可解で仕方がなかった。あの男だけはまっさきに処分なさると思っていた。だが、いまならわかる」
 セルジョはうめくように言った。
「殿下は、あの一連の陰謀を……ミシェイル王子がオズモンド陛下を殺めたという事実を、葬り去ろうとしておられるのだ」
 戦後、軍人に対して行われた処分は、内政改革の一環でありつつ、もっぱらアカネイアを意識した外交政策でもあった。
 マケドニアは王暗殺をアカネイアに帰責し、ドルーアとともに戦争を引き起こした国である。ミネルバ王女が同盟軍に加わり、アカネイアに忠誠を誓おうとも、贖うことなどできぬ罪を王家は背負うこととなった。そんなマケドニアが戦後いかにして独立を保つことができるのか、王女がただその一点のみを見ていた。みずから兄ミシェイルを討ったのも、ドルーアに与した王を妹王女が誅することで、アカネイアの介入を退けるためだ。
 もし、ミシェイルが生きて虜囚となっていれば、同盟軍によって処刑されていた。そうなればふたたび国内は荒れ、混乱をおさめることはできず、強硬な占領政策が敷かれたに違いない。
「殿下はアカネイアの出方を警戒され、あらゆる不条理を呑みこまれたのだろう。それならば、かの件はもう蒸しかえすべきでないと思っている。だが、それでも王女に仇なす可能性のある者を、宮廷の中枢におかれるのは許容しかねる」
「……ユスタスも、あの男を中枢にすえようなどとは思ってはおらんさ」
「ならばよいが」
 長い沈黙があった。
 リュッケはつとめて動揺を隠しているようであった。
「そのこと、ユスタスには話したのか」
「いや。殿下が話しておられぬようだからな。将軍、あなたもこの件はご内密に。しかしあれがそういう男だということは心にとめておいていただきたい」



 騎士館を出たセルジョは、執務室に出向こうとしたが、従僕から王女は厩舎にいると知らされた。待っていてもよかったのだが、セルジョは厩舎へ足を向けた。
 主宮東翼の屋上にある厩舎では、王族の飛竜が飼われている。かつては三頭いたが、いまでは王女の愛竜イージスのみである。
 開かれた木戸に手をかけたとき、奥から声が聞こえた。
「――そう、さみしいわね。でもね、もうメティスには会えないのよ。遠くへ行ってしまったの」
 メティス。
 ミシェイル王の愛竜である。
 セルジョは木戸のすきまから奥の様子をうかがった。ミネルバ王女はイージスの首を抱き、やさしく頭をなでていた。
 その頼りなげな姿。
 以前にも似たような場に居合わせたことがある。あれは決戦前夜。軍議を終えたのち、王女はいまのように愛竜に語りかけていた。
 もうすぐメティスに会えるわ、と。
 決戦前夜の軍議においてミネルバ王女は、いかにすればもっとも労なく城を落とせるか、あらゆる手の内をさらしたうえで、兄王との一騎打ちを認めてくれるよう願い出た。マルス王子はとめた。そのようなことはさせられないと。しかしミネルバ王女はかたくなだった。それがもっとも早く戦を終わらせられる手段であると淡々と主張した。
 あの場に居合わせた者は非情な王女だと思ったことだろう。だが、王女はひとりになったとき、明日のために愛竜をいたわっているというより、非情な宿命にこらえきれずすがりついているようであった。それは臣下が見てはならぬ姿であった。
 いまもまた同様だろう。
 出直すべきだと一歩下がったとき、木戸を押し開いてしまった。
 あわててミネルバを見やると、静かな微笑が向けられていた、しかたなくセルジョは前へと踏み出す。
「こちらにおられるとうかがいましたので」
 セルジョが近づくと、ミネルバはイージスの首をなでながら言った。
「今日、バルコニーから新兵らの訓練を眺めていた。あれほど飛竜を制御できるなら先が楽しみだな」
「飛竜を乗りこなせたところで、同時に槍をふるえねば実戦では役に立たぬでしょう。しかし彼らは国のため、民のためにと強い信念をいだいております」
「国を想う心、それこそがいまこの国の騎士にもっとも必要な素養だろう。いかに技量がすぐれていようと、力の使い方を誤れば元も子もない」
「あの者たちはわが国の事情をよく理解しております。戦争が終わったからこそ、この国が強くならねばならぬのだと。彼らは西部国境の巡回にも非常に意欲を見せております」
「もし賊との戦闘となっても無理はさせるな。初陣とはとかく気がはやるもの。わたしもそうだった。十分に気をつけてやってほしい」
「心得ております」
「なにかと暗い話題ばかりだが、五年、十年先の未来は、たしかな道が拓かれていると希望はもてよう」
 ミネルバはほほえんでいたが、ふと、その目が険しくなった。
「竜騎士団再編の件だが……」
「はい」
「ユスタスやリュッケとも話し合った結果、二部隊とする。そして、夏に入団した新兵はその数に加えぬ」
「それは、どういった理由でございましょうか」
「端的に言えば、われらが急速に軍拡をもくろんでいるとアカネイアに思われたくないのだ。十数年前になるが、父が竜騎士団の規模を大幅に拡大したおり、数を減らせとアカネイアが迫ってきたという話は知っているな?」
「……よもやアカネイアからの要請が?」
「いまはまだない。だが、かつてのようにアカネイアの役人が軍の編成にまで容喙してくる可能性は充分に考えられる。当分は目立った動きはひかえたい」
 セルジョが答えあぐねていると、ミネルバは苦笑をうかべた。
「あくまで書類上の調整だ。若い騎士たちを軽んじているわけではない。彼らには期待している。だからこそ、守らねばならぬものもある」
 イージスの首を愛おしげになでる。
「きっと彼らも空をおおう勇壮な大軍に憧れをいだいていたことだろう。そして、輝かしい未来を夢を見ていたことだろう。だが、ただひたすらに力を求める時代は、あの戦争ともに終わったのだろう」
「……殿下」
「若者に夢をあきらめさせるのは、非情なものだ。しかし、われらはドルーアには勝ったが、アカネイアには負けたのだ。辛酸をなめることも必要となろう」
 セルジョはぎごちなくうなづいた。
 けっして楽観視していたわけではなかったが、状況はセルジョが想定していたものよりはるかに厳しい。
 宗主権を行使すべく諸国へ大使を派遣したことも、国威発揚のための軍備拡張も、情勢はめまぐるしくゆれ動いている。アカネイアは宮廷の中枢にいた王侯の多くが虐殺され、二年以上もドルーアの支配下におかれていたというのに、急速に復興している。
 元より人口は十倍以上。産業も多岐にわたる。歴然たる国力の差があった。
 軍内にもいまだ状況を理解できていないものも多いが、マケドニアは敗北したのだ。オレルアンやアリティアのように、勝利を享受し、前へと向かっていける国とは違う。アカネイアから見ればグルニアやグラとおなじ枠組みにある。軍備を拡大すれば叛意を疑われ、縮小すれば付け入られる隙となる。戦前とおなじく、アカネイアの情勢を探りつつ、すべてにおいて慎重に事を進めねばならない。敗北した以上、戦前よりさらに状況は悪い。
「あれはなんのための戦いだったのだろうな」
 セルジョがはっと顔をあげると、せつなげな微笑がむけられていた。
「わたしについてきたこと、悔いてはおらぬか」
「なにをおっしゃるのです。それ以外の道を考えたことはございません」
「ならば、いましばらく耐えてくれ。祖国の復興は、生き残ったわれらが果たさねばならぬのだ」
 すぐに答えることができずにいると、ミネルバはセルジョが手にした書類を指さす。
「ところで、なにか用があったのではなかったか」
「近衛の件にございます」
「タマーラに言われたのか」
「それもございますが、わたしも以前より懸念しておりました。謹慎処分中の騎士を復帰させ、辺境警備を増員するのであれば、そのぶんの人員は殿下のために配備すべきと考えます」
 書類を差しだす。
「こちらは、白騎士団の者を中心に近衛隊の立案したものにございます。どうぞ、お目をとおしていただければと」
 ミネルバ王女はくり抜き窓から射す明かりのもと、セルジョが書きつづった編成案に目をはせた。
「先日、パオラどのともこの一件については相談したところです。白騎士団はもともと生え抜きの天馬騎士から編成され、あなたさまが鍛え上げられた部隊です。殿下への忠誠心あつき者だからこそ、もっともふさわしい場におくべきとわたしは考えます」
「彼女たちは手練れであるからこそ、新兵の育成に力をそそいでほしいと思っているのだが」
「あなたさまあってこそのマケドニアの未来です」
 ミネルバは口元だけで笑った。
「いらぬ心配をかけたな」
「必要な心配です」
「まったくそなたは……」
 あきれ笑いになり、肩をゆらした。
「ではこのとおりに進めてほしい」
 ミネルバは書類をセルジョに渡そうとした。しかしセルジョが手を差しだすより前に書類が宙を舞った。ミネルバは書類を受けとめようとしたものの、手がぴたりとまった。それは不自然な動きだった。
 セルジョは敷き藁の上に落ちた書類を拾いあげた。様子をうかがうと、ミネルバは顏をしかめ、右手をかばうようにもう片方の手でつつみこんでいた。
「……よろしく頼む」
 そう言い残し、ミネルバは厩舎を出ていった。
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