夜を歩く

しんと冷えた空気に、ゆうらりと立ち上る湯気。
せまい卓に着き、くつくつと踊るおでんの具をオジさんにどんどん盛ってもらい。
あたしの食いっぷりにホレたおトナリさんの分も、ギリギリのセトギワまで食べていたのに。

『なんでよりによって、トラックが突っ込んでくるのよ!』
『ギリギリでセトギワなキミの食べっぷりを応援したくなったのかもしれないな』
『トンだ熱烈アタックね。避けないでドンと受け止めればよかったかな』
『…刑事さんには荷が重そうだな』

そう。あたしはまたしても死んでしまって、またしてもシセルと一緒に自分の“死”の《4分前の世界》にいた。
最初の頃は、このまっ赤で吸い込まれそうな空間と、トガった髪型のユーレイにおどろいたケド。
頻繁すぎてむしろ居心地がよくなっちゃったから、ホント。慣れってコワイよね。

『それにしても。ここは一体なんなのだ?』

4分間の壮絶なドラマを観終わると(レストランにしてはミョーに寒々しい)っていうシセルの正直な感想が、直接あたしのココロに伝わってきた。
すぐに駆けつけてくれて頼りになるのに、ミョーなところで世間知らずなのがたまにキズね。
でも。提灯とか、のれんとか。
“あの一夜”より知っているコトが増えたみたい。

『“屋台”っていって、前向きなエネルギーに満ちた場所よ。他のお客さんと意気投合でカンパイ。大将とのやり取り。現代人が忘れかけてる情緒と人情が、ここにあるわ』
『まさにキミ向きの場所というワケか』
『そうね。事件の聞きこみもできるし、一兎を追うものは二兎を得るって言うじゃない?』

あたしの言葉に、シセルがふっと表情をゆるめた。それと一緒に、感心しているような、楽しんでいるような。
タイクツしないーーそんな明るい感情が伝わってくる。

『相変わらず。キミは前のめりにエモノを追いかけているようだな』
『なんたって刑事だからね。あたしは』

《死者の世界》には言葉が存在しない。思ったコトがそのまま伝わる。楽しいコトも。悲しいコトも。でもあたしは、エンリョなんてしない。

『ワルモノめえ。絶対ビシッと捕まえてやるんだから!』
『…では。まずはリンネ刑事のイノチをビシッと取り戻すとしようか』
『ええ。頼んだわよ、相棒!』
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