長い夜が明けた後の話(運命更新後)
「シセル。ちょっと手を出してくれるか?」
「いいけど、どうしたの?」
とある麗らかな昼下がり。
ヨミエルが声をかけると、彼女は不思議そうに白い右手を差し出してきた。そっと自分の手を添えると、ヨミエルはポケットから指輪を取り出す。
指にはまるよう細工されたワイヤーに絡み付いていたのは、赤と白の小さなツバキの花だ。レジンで加工されたそれは、緑色の葉っぱが周りを飾るように作られている。光に当てると向こう側が透けて見えた。
「ネットでコレを見つけてね。キミに似合うんじゃないかと思ったのさ」
「透明で、とてもキレイね。可愛らしいわ」
興味深く眺める彼女に「そうだろう」と頷き、ヨミエルは人差し指にゆっくり差し入れた。緩めに作られていたワイヤーを壊さないよう力を入れていき、細く繊細な指にキツくない加減で止める。指を離してみると、小さな花と葉がまるで彼女から生えたように彩り、思わずヨミエルは顔を綻ばせた。
「やっぱり、よく似合うな」
指輪に目を輝かせている彼女へ笑みを深くすると、ヨミエルは彼女の手を引き寄せた。「え」という驚いた彼女の声がヨミエルの後ろ頭に落ちる。
優しい接触は数秒ほど。
ツバキの花を咲かした人差し指に口付けを落としたヨミエルが、赤くなった彼女に視線を合わせる。サングラスの奥で目を細め、愛しさと願いを声音に乗せた。
「いつまでも一緒にいてくれ、シセル」
10年間。
刑務所で暮らしていたヨミエルに、毎日面会に来てくれた彼女には、言葉では表しきれないほどの感謝がある。待つのには、とても長い時間だったにちがいない。
出所し、家の前で出迎えた彼女が涙を流したのを、昨日のことのように覚えている。「お帰りなさい」という言葉が胸に響き、彼女と抱き合ったヨミエルも涙を流したのだ。
だからこそ、この指輪を見つけた時これしかないと思った。
「ツバキの花言葉は『申し分のない魅力』、それに『変わらぬ愛』だ。もう…キミと離れたくない」
「わかったわ、ヨミエル。大切にするわね」
ツバキの花を包み込むように、白い手が重なる。それだけで彼女の優しさを感じ、ヨミエルの胸が満たされる。“前”に比べて、なんと幸せなのだろう。
不意にカタンという音が部屋に響いた。2人でそちらに目を向けると、小さな扉から黒猫がスルリと中に入ってくる。隣の部屋で昼寝をしていたはずだが、目を覚ましたらしい。
大きな伸びとあくびをし終えると、黒猫は「何があったのだろうか」と言いたげな視線を投げかける。2人は見つめ合うと、ふふと笑みをこぼした。
「おはよう、シセル。よく寝られたか?」
「今日も可愛いわね、猫ちゃん」
部屋に差し込む光が、彼女の指輪を照らす。大切な者と過ごす、穏やかで平和な日々が1番暮らしやすい。
しみじみとそう感じたヨミエルは、返事にシッポをくねらせた黒猫を抱えるために踏み出したのであった。
「いいけど、どうしたの?」
とある麗らかな昼下がり。
ヨミエルが声をかけると、彼女は不思議そうに白い右手を差し出してきた。そっと自分の手を添えると、ヨミエルはポケットから指輪を取り出す。
指にはまるよう細工されたワイヤーに絡み付いていたのは、赤と白の小さなツバキの花だ。レジンで加工されたそれは、緑色の葉っぱが周りを飾るように作られている。光に当てると向こう側が透けて見えた。
「ネットでコレを見つけてね。キミに似合うんじゃないかと思ったのさ」
「透明で、とてもキレイね。可愛らしいわ」
興味深く眺める彼女に「そうだろう」と頷き、ヨミエルは人差し指にゆっくり差し入れた。緩めに作られていたワイヤーを壊さないよう力を入れていき、細く繊細な指にキツくない加減で止める。指を離してみると、小さな花と葉がまるで彼女から生えたように彩り、思わずヨミエルは顔を綻ばせた。
「やっぱり、よく似合うな」
指輪に目を輝かせている彼女へ笑みを深くすると、ヨミエルは彼女の手を引き寄せた。「え」という驚いた彼女の声がヨミエルの後ろ頭に落ちる。
優しい接触は数秒ほど。
ツバキの花を咲かした人差し指に口付けを落としたヨミエルが、赤くなった彼女に視線を合わせる。サングラスの奥で目を細め、愛しさと願いを声音に乗せた。
「いつまでも一緒にいてくれ、シセル」
10年間。
刑務所で暮らしていたヨミエルに、毎日面会に来てくれた彼女には、言葉では表しきれないほどの感謝がある。待つのには、とても長い時間だったにちがいない。
出所し、家の前で出迎えた彼女が涙を流したのを、昨日のことのように覚えている。「お帰りなさい」という言葉が胸に響き、彼女と抱き合ったヨミエルも涙を流したのだ。
だからこそ、この指輪を見つけた時これしかないと思った。
「ツバキの花言葉は『申し分のない魅力』、それに『変わらぬ愛』だ。もう…キミと離れたくない」
「わかったわ、ヨミエル。大切にするわね」
ツバキの花を包み込むように、白い手が重なる。それだけで彼女の優しさを感じ、ヨミエルの胸が満たされる。“前”に比べて、なんと幸せなのだろう。
不意にカタンという音が部屋に響いた。2人でそちらに目を向けると、小さな扉から黒猫がスルリと中に入ってくる。隣の部屋で昼寝をしていたはずだが、目を覚ましたらしい。
大きな伸びとあくびをし終えると、黒猫は「何があったのだろうか」と言いたげな視線を投げかける。2人は見つめ合うと、ふふと笑みをこぼした。
「おはよう、シセル。よく寝られたか?」
「今日も可愛いわね、猫ちゃん」
部屋に差し込む光が、彼女の指輪を照らす。大切な者と過ごす、穏やかで平和な日々が1番暮らしやすい。
しみじみとそう感じたヨミエルは、返事にシッポをくねらせた黒猫を抱えるために踏み出したのであった。