長い夜が明けた後の話(運命更新後)

「おい、ちょっと退いてくれないか。…おいったら。なあ、シセル」

私の真上から、困ったような声が降ってくる。
控えめなその言葉は、私の眠りを覚ますのには少々頼りない優しさだ。ゆさゆさと私のカラダをゆする手も、普段なでてくれる強さと変わらない。もしかしたら、ヨミエルは私を本気で起こそうとは思ってないのだろうか。
パソコンに向かい、シゴトをしてるヨミエルのヒザの上。そこに私が居座ってからそれなりの時間が経った。冬の寒い空気から逃れるように丸まったカラダをさらにキュッと押し込むと、ふわふわの毛布が私を包み込む。同時にヨミエルの暖かい体温も感じ取り、私は満足げにヒゲを震わせる。ココはとても居心地がいい。

「用事があるんだがなぁ…。腹が減ってきたし、コーヒーも飲みたい。キミが降りてくれなきゃ、何にもできないんだ」

カオを覆うようにしていた私の前足をつかんだヨミエルが、軽く肉球をなでる。今はそのようなキブンではないので手から前足をするりと抜き取ると、元の位置に戻す。
残念そうに首を傾けたヨミエルは、代わりに私のアゴの下に指を差し入れた。

「仕方がない。あと5分…いや、10分したら退かせてもらうよ。どうも、トイレに行きたくなってきた」

それは大変だ。今すぐにでも退かなければならない。だがしかし、この温もりから離れがたくもある。
耳を反らしたその動きで私が葛藤していることに気づいたらしい。ヨミエルは小さく笑って「今すぐじゃないさ」と言うと、指を細かく動かし私をくすぐるのであった。
20/22ページ
スキ