長い夜が明けた後の話(運命更新後)

「……以上が、アンタの死の4分前の出来事だ」

目の前で起きた光景で、小犬が「とても苦しそうでした…」と言った《毒》を飲んだオトコは、間違いなく私だ。
そう確信すると同時に、“タマシイ”という不確かなカタチは、“私”へと変化した。
…ラビリンスシティの《錬金術師》…。
色々なコトを諦め、憂いをおびたホホエミを浮かべるしかなくなった、私という“役者”をじっと眺め。
赤いスーツを着たオトコは、思いがけないことをクチにした。

「これから、アンタの《死》の運命をなくす」

絶対的な自信。絶対的な覚悟。決意。
《死者の世界》とやらだからこそ表裏のないキモチが伝わってくる。
しかし…それらは意味のないことだ。
私は、ハッキリと《物語》の乱入者に告げた。

「きみには悪いが、私は蘇らないよ」
「な、なぜだ……!」

サングラスのカタチが変わるほど動揺するオトコに、私は錬金術の“理”を解いた。
錬金術はこの世の理を追及する学問だ。ヒトが生き、死ぬのは“当たり前”のこと。その“理”をいたずらに乱すのはすべて《悪魔の道》だ。
消えた命は戻らない。そう説明したのだが……オトコのココロは変わらなかった。

「そうはさせない、というカオをしているね」

思わず聞いた私を真っ直ぐ見つめ、オトコはごく“当たり前”に答えた。

「ああ。目の前にアンタの《死》がある以上、見逃すコトはできない」

まるで、ヒトが息をするように。サカナが海を泳ぐように。
《死》があるのなら、《生》もあると。

「…錬金術は自然の理を追求する学問だ。それを乱すなら……きみは《悪魔》か?」

“《アクマ》と来たか…。このレンキンジュツ氏を説得するのはムズかしそうだな”

そう、呆れたコエが聞こえて来たが、アゴに手を当て考え込んだだけで、引く気配は全くない。
改めてこのトンでもないオトコを眺めると、金色のツノにサングラスという格好は、カタルーシアの《物語》でいう悪魔によく似ていた。
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