夜明け前の話(運命更新前)

水音に紛れて、カツンと戸の外に何かがぶつかる音がした。
ヨミエルはシャワーを捻り、流れ出る水を止める。
そして振り返ると、磨りガラス越しに微かにシセルの黒い肉球と鼻先が張り付いているのを認めた。

「もう少しで終わるからな。まだ待っていてくれよ、シセル」

ヨミエルを探してフンフンと鼻先を動かす様は、ひと言で言うならば、とても可愛い。今すぐになでてもいいトコロだが、流石にハダカではいただけない。こういう時にカメラを持っていないことを若干恨みつつ、ヨミエルはシャワーを再び捻り、残っていた泡を洗い流す。
戸の外のシセルはと言うと、飛び跳ねる水にターゲットを移したようだ。小さな手をパタパタと動かし、生き物のようなそれを捕まえようとする。

「………」

子猫であり、まだ何にでもキョーミを示す生き物というのはなぜこんなにもフシギで、こんなにも可愛いのか。アシタールに貫かれて、人間味を徐々に失っていくヨミエルの唯一の癒しであった。
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