夜明け前の話(運命更新前)

目を閉じて意識を集中する。
1拍置いて目を開くと、全て青色の止まった世界がヨミエルの前に広がっていた。

「さて、と……」

海の底のような冷たい空気の中、ヨミエルは深海魚が持つ光のように点々と浮かびがある“コア”を、ひとつずつ確かめていく。
テーブルの上に置いたラジオ、開きっぱなしのパソコン、床に散らばったふわふわの綿毛を付けたじゃらし。さらに電源の入っていないテレビに視線を移せば、その下に隠れるように光るひとつの“コア”を見つけた。

「そんなトコロにいたのか。シセル」

そうコエをかけ、ヨミエルはパチンとスイッチを入れ替えるように視界を元に戻した。それと同時に音も戻る。ヨミエルが先ほど“コア”を見つけたトコロをのぞき込むと、暗闇の中にふたつの光が見つめ返してきた。

「さっきは大きな音を出してすまなかった。ビックリしただろう」

ラジオから抑えめに流れる音楽は、相変わらず主張が激しいギターの音を響かせている。ヨミエルはラジオに視線をやり、再び青い世界に入りスイッチを《アヤツル》と、音を止めた。

「ほら、出てこいシセル。もう大丈夫だぜ」

動きが戻った世界で、そろりそろりと黒いカラダがはい出してくる。ヨミエルはシセルをそっと抱き上げソファーに座り、自らのヒザの上に乗せた。
静かな昼下がりは、やはり相棒と穏やかに過ごすのがいい。
ヨミエルはパソコンを閉じると、ビロードのようなシセルのカラダをゆっくりとなで始める。しばらくしてゴロゴロと響き始めたシセルの幸せそうな音を聴きながら、ゆったり目を閉じ優しい空気に身を任せた。
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