夜明け前の話(運命更新前)

ドアを開けて、部屋の中に入ろうとして。

「……は?」

ヨミエルは腕を伸ばしたまま、ポカンと固まってしまった。
目に飛び込んで来たのは、倒れたラックと、倒れた植木鉢と、散らばった土。
そして、なぜか全てレールからハズレているカーテン。

「……シセル?」

いつもなら玄関口まで出迎えてくれる相棒の気配が全くしない。
不審に思いながらも開けっ放しのリビングまで進んで行くと、ソファーの影に、黒いシッポを見つけた。

「シセル、どうした?」

ヨミエルが声をかけると、シッポはスルリとソファーの影に引っ込んだ。

「おい、シセル??」

シッポを追いかけてソファーをのぞき込むと、黄色い目と視線が合い、そらされる。
ワザトらしく毛繕いを始めた黒猫に、ヨミエルはソファーに腰を下ろして苦笑した。

「なぁ、シセル。ずいぶん部屋があれているんだが、なぜだか知らないか?」
「…にゃっ」
「朝出掛けた時は、ラックは倒れてなかったんだけどな」
「にゃっ」
「植木鉢も倒れてなかったな」
「にゃっ」
「カーテンは……閉めたままだったか」
「うにゃあ」
「風でも吹いたのかな? シセル、キミは何か知らないか?」
「にゃーう」
「……そうか」

少し高めのか細い鳴き声に相づちを打つと、ヨミエルはソファーから立ち上がった。
ソロソロと顔を出しかけていたシセルが、その動きに驚いてまた隠れる。
キッチンへ移動したヨミエルは、戸棚から缶詰を取り出した。
プルタブに指をかけて力を加えると。
ーーカパッ

「にゃん!」
「ちゃっかりしてるなあ、相棒」

音につられて飛び出しノドを鳴らすシセルに、ヨミエルは頬を緩めるしかなかった。
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