鬼滅の刃
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「最も重要なのは体の中心…足腰である。強靭な足腰で体を安定させることは正確な攻撃と崩れぬ防御へと繋がる。」
丸太を下ろして、三人のそばに寄ってきた悲鳴嶼が説明を始める。
その圧倒的なデカさに三人はぽかりと口が開く。
「まず滝に打たれる修行をしてもらい……丸太三本を担ぐ修行…最後にこの岩を一町先まで押して運ぶ修行…私の修行はこの三つのみの簡単なもの…下から火であぶるのは危険な為……無しとする…」
合わせた手で数珠を擦り合わせながら、ぽつりぽつりと語る悲鳴嶼の修行内容を聞いて、青ざめた善逸から生気が抜ける。
無理もない。
『ぜ、善逸っ大丈夫かい?』
「すみません。善逸が気絶しました」
陸に上げられた魚のような顔で気絶する善逸を、○○と炭治郎が支えた。
青ざめた顔で、炭治郎が盲目の悲鳴嶼に事態を伝える。
しかし、
「川につけなさい」
『えっ』
悲鳴嶼に慈悲など無かった。
素直な炭治郎がそれを聞き入れて善逸の服を脱がせ、自分も脱ぎ始めた。
それに倣って○○も服を脱いだ。
瞬間、悲鳴嶼の大きな手が伸びてサラシを巻かれる。
「不死川から頼まれた…これで隠していなさい」
『???はいっありがとうございます!それでは行ってまいります!』
○○は訳が分からなかったが、不死川と悲鳴嶼の厚意を無下にできず素直に感謝した。
悲鳴嶼が頷いたのを見て、○○も炭治郎と合流する。
「ギャアアアッ!!!つべてぇええええ!!真冬の川よりも冷たいんですけど死ぬわ!!何この山の川の水異常だよ死ぬわ!!吐きそう!」
二人で川につけた瞬間、あまりの冷たさに善逸の意識が戻り絶叫しだす。
○○と炭治郎も寒さで顔が真っ青になる。
「善逸っ」
「陸っ…りっ…陸!!!うわー何か…!内臓がやばい!!悲鳴あげてる死ぬって言ってる!!」
炭治郎が呼び止めようとするが、善逸の絶叫にかき消され無駄になる。
善逸はすぐに陸に上がって川の脅威から逃れる。
しかし
「ヒェッ…ヒャーーーーッ!!だっ駄目だ上がっても…手遅れ!!凍死する!!!」
完全に体温が下がりきってしまい、上がっても温度は変わらない。
善逸は絶望した。
そんな善逸の目に映ったのは、大きな岩にべったりと張り付く隊士達の姿。
「岩に…くっつけ…あったかいぞ……」
その死にかけの声を聞いて、善逸は無我夢中で近くの岩に勢いよく張り付いた。
(あ…あったけぇ!!岩ってこんなにあったけぇんだ…!!お袋の腕の中に抱かれているようだ……)
「ウオオオ母ちゃーーん!」
めそめそと泣き始める善逸を後ろから見ていた炭治郎と○○は、お互い震える体を寄り添わせながら川を歩く。
「ぅぅぅ冷たい…過酷だなぁ」
『ぅん、早く上がろう…』
話しながら滝修行をしている伊之助のそばを通ると、彼の口から念仏が聞こえない事に気づく。
『伊之助?』
○○の不思議そうな声に、炭治郎の視線も伊之助へと向かう。
手を合わせたまま固まる伊之助に、二人の顔が徐々に青ざめる。
「あれっ伊之助!?いのっ…あっやばい!!やばい!! ○○いくぞ!」
『うん!!』
その後、慌てて伊之助を陸に上げ、蘇生をした後で炭治郎と○○は滝に打たれた。
どうやら念仏は集中するためと、意識がある事を伝える為に唱えているらしい。
さっきの伊之助がいい例だろう。
「滝に打たれるだけなのに本当にきついですね。高い位置から落ちてくる水があんなに重いなんて…体の力抜いたら首が折れそうだし」
『勢いが強くてあのまま水の中に落ちるかと思いました…』
ガチガチに冷えた体を岩に張り付く事でなんとか意識を保った二人は、そばの岩に張り付いている村田と話を始めた。
「いやいや…お前らもあの猪もすげぇよ。初日、滝修行できるようになるの夕方だったぜ。なかなか水に慣れなくて…とりあえず一刻滝に打たれ続けられるようになったから、俺はこれから丸太の訓練だ…」
「す、すごいですね村田さん……」
『さす、流石です…』
「と、十日いるからな…」
唇まで震えてガチガチと歯を鳴らし、まともに話せない彼らの顔は一様に真っ青だった。
なんとか復活した他の隊士達が魚を捕り、火をつけて昼餉の時間になった。
ちなみに魚捕りは伊之助が鷲掴みで無双した。
他の誰よりも小さく小柄な○○が体を震わせるのを見つけて、慌てた伊之助が迎えに来る。
「○○!!」
『いのすけ…』
か細く呟く○○の脇に手を差し入れ、ひょいと持ち上げると伊之助は火の方へと走りだす。
「おい○○!しっかりしろ!俺様が来たからもう大丈夫だぞ!!」
『いの、伊之助…ありがとう、ひさしぶり…』
「おう!!お前が来るの待ちくたびれたぞ!遅ぇんだよ馬鹿!」
『ご、ごめんよ』
「許す!!」
お決まりのやり取りをして○○を座らせる。
しばらくして。
火の近くで温めてやって復活した○○を隣に座らせ、伊之助は焼けた魚にかぶりついた。
○○の次になんとか復活した炭治郎と善逸も火を囲んでいる。
「アイツすげぇよ。玉ジャリジャリ親父」
『岩柱の悲鳴嶼行冥様だよ伊之助…』
「うん、変なアダ名をつけちゃだめだよ」
指摘しても聞いてないのか、伊之助はボリボリと残った骨を食べながら話しだす。
「初めて会った時からビビッと来たぜ、間違いねぇアイツ」
「骨も食べるのか伊之助」
『まあ、悪い事ではないから』
引いた顔をする隊士達が見えてないのか、伊之助は顔を顰める。
○○は骨にも栄養がある事を知ってるため、特に指摘しなかった。
「鬼殺隊最強だ」
『そうだね』
「あーーやっぱりそうか」
当然のように頷く○○と炭治郎に、周りの隊士達が困惑した顔で彼らを見つめる。
「悲鳴嶼さんだけ匂いが全然違うんだよな。痣がもう出てたりするのかな?」
『その可能性が高いよね』
「ああ、出ててもおかしくねぇ」
話についていけない隊士達は、諦めて魚を食べる事にしたようだ。
正常なのは隊士達の方である。
彼らが異常なのだ。
「俺は信じないぜ、あのオッサンはきっと自分もあんな岩一町も動かせねぇよ。若手をいびって楽しんでんだよ」
「いやいや、悲鳴嶼さんはあれよりもまだ大きい岩を押してるそうだから」
相変わらず後ろ向きな事ばかり言う善逸に、炭治郎は眉を下げてやんわり否定した。
それに善逸はスッと真顔になる。
「お前は何で言われたことをすぐ信じるの?騙されてんだよ」
「いやいや…善逸も耳がいいんだから嘘ついてるかついてないかくらいわかるだろ?」
炭治郎が言うと同時に、その後ろから十尺程ある大きな岩を押す悲鳴嶼が現れた。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
呟きながら離れ業を成す悲鳴嶼に、恐怖から善逸と隊士達の顔が青色に染まる。
「あ、ちょうど通ってるな」
『わぁ、凄い…』
思わず漏れた○○の声に、目を輝かせた炭治郎が○○へと振り返る。
その頬は興奮から紅い。
「だな!凄いなぁ悲鳴嶼さん!俺もあんなふうになれるかな!?」
『うん!炭治郎ならきっとなれるよ!!』
「なれてたまるか!!たまるものかァ!!!バカかお前らはコンニチハ頭大丈夫デスカ!!」
「イデデデ!」
能天気な二人に、ついにキレた善逸が炭治郎の頭をボコボコと殴り始める。
突然の事に○○の口がパカッと開く。
『ぜ、善逸駄目だよ何してるの!』
すぐに我に返った○○が仲介に入るが、善逸は止まらない。
善逸は倒れた炭治郎に馬乗りになり、口を塞ぎ押さえつける。
○○は善逸の腕を掴み離させようとするが、こういう時ばかり彼は力が強い。
びくともしない事に○○は驚いた。
彼は善逸が急成長したと思っているが、○○より力が強いのは今だけである。
「あのオッサンが異常なの!!オッサンそもそも熊みたいにデカいだろうが!!」
「いや…でも!!」
「黙れ!!巨人と小人じゃ生まれついての隔たりがあんのよわかるだろ!!」
いつも通り騒がしい善逸を、伊之助は無視して猪頭をかぶった。
もはやどうでもよすぎて聞こえてないのかもしれない。
『善逸落ちついて!わっ』
そして隣の慌てる○○の肩を組んで、引き寄せる。
「もう放っとけ。腹も膨れたし○○と丸太担いで岩押してくるわ。行くだろ○○?」
『あ、うんもちろん!頑張ろうね伊之助!』
顔を覗きこませる伊之助に、○○は笑顔で頷いて小さく拳を握る。
伊之助は返事の代わりに、その小さな拳を上から握った。
「うわーもう前向きな奴ばっか!!俺の居場所ないわ!!ていうかイチャついてんじゃねえぞコラ!!ふざけんな!!」
「まあまあ」
全力で嫌がる善逸を引っ張ってなんとか訓練に戻し、滝修行が再開した。
彼らは根性だけで、一日で滝修行と丸太担ぎを完了させたのだった。
ただ、その後の岩が彼らにとっての難題だった。
「おーい! ○○も丸太担ぎ終わったのか!」
『あ、炭治郎!うん終わったよ、今から岩を押すんだ』
「そっか!俺もなんだ!……なぁ○○、隣でやってもいいかな。ちょうどすぐそこにあるし…伊之助もいないみたいだし…」
もじもじと聞いてくる炭治郎に、○○は一度首を傾げてすぐに頷いた。
『うん、もちろんだよ!ふふ、伊之助は他よりも大きい岩を探しに行っちゃったから、一人で寂しかったんだ』
「っありがとう!そうだったのか、伊之助らしいな!」
『だね』
優しく笑う○○に、炭治郎は心臓が早くなる。
不思議に思って胸に手を当てるが、その感情は炭治郎にはまだわからない。
顔を上げて、準備運動をする○○をぼうっと見つめた。
(○○はいつも人に気を遣わせないように言ってくれるな…この子はどうしてこんなに心まで綺麗なんだろう…本当に天女様のようだ)
『炭治郎どうかした?やらないのかい?』
「…はっ!ごめんすぐ行く!!」
見惚れていた事に気づき、慌てて隣の少し離れた岩に向かう炭治郎に、○○はハテナを浮かべた。
「ぐおおおおお……!!」
『んぐぐっ…!』
あまりの重さに声を上げながら岩を押すが、押し負けて足の方が下がってしまう。
踏ん張って足に力が入る為、草履が嫌な音を立ててちぎれる。
結局この日、二人は岩を少しも動かす事ができなかった。
悲鳴嶼の訓練は過酷だが、何ひとつ強制ではなく、諦めた者はいつでも山を下りる事を許されている。
今日一緒に昼餉を食べた隊士達も、諦めて何人かは山を下りてしまった。
夕餉前になり、食事の準備の為に彼らは悲鳴嶼邸へと向かった。
炭治郎が決めた夕餉は塩の握り飯。
食べ盛りには足りないだろうと、それに加えて○○は魚を捕る事を提案した。
心配して手伝おうとする炭治郎を何とか帰し、○○は川に入った。
役割分担は大事だ。
腹を空かした隊士達が待っているのだ。
分担して早く作る方がいいだろう。
「…おい権八郎、○○はどこ行った?」
「炭治郎だよ…○○は川で魚を捕ってくれてるよ。手伝おうとしたんだけど、先に帰って夕餉の準備をと頼まれたから仕方なく帰ってきたんだ…伊之助、手伝いに行ってくれるか?」
「はあ!?それを早く言えよ!!行ってくる!!!」
「ありがとう!頼んだぞーー!」
炭治郎の言葉に猪頭を脱ぎ捨てて、伊之助は邸を飛び出した。
『ふぅ…あと十五はいるかな、炭治郎も伊之助もよく食べるだろうし…よし、頑張ろう』
ようやく十五匹捕って魚の山ができあがるが、一人あたり二匹ずつだとして、握り飯の具としても使う。
全部で三十はいるだろう。
伊之助は昼に十匹以上食べていた事から修行後はもっと食べるだろうし。
炭治郎も五匹はぺろりと平らげそうだ。
○○が気合いを入れ直して川に向き合うと、大きな足音が聞こえてきて振り返った。
「○○ーーー!!!親分が手伝いに来てやったぞ!!子分の面倒を見るのが親分の役目だからな!!有難く思え!!」
『伊之助!』
目の前でふんと大きく鼻息を鳴らして、伊之助が仁王立ちになる。
○○は伊之助の登場に嬉しくなり、顔が綻んだ。
『ふふっ、親分ありがとう。助かるよ!伊之助十匹は食べるでしょう?』
「おう!!腹ぺこだからな!!十匹なんて軽く食えるぜ!!」
『そうだよね、じゃあ今から…十匹。捕るの手伝ってほしいな親分』
「まかせろ!!俺にかかれば十匹なんてすぐだぜ!」
珍しい○○のお願いに、伊之助はくしゃっと笑って川に飛び込む。
大きく水しぶきが上がる。
それにびっくりした魚が散るのが見え、○○は近くにあった小枝を集めて素早く投げた。
そして見事全ての魚に突き刺さり、川に三匹浮いてきたのを腕に収めていく。
『手で掴むよりこうした方が早かったな…無駄に時間を使ってしまった…』
「か、かっけェエエェ!!!俺もやる! ○○!枝くれ!!」
斬新な魚の捕え方に、伊之助は目を輝かせて手を伸ばしてくる。
無邪気な伊之助に、○○の顔に優しい笑顔が浮かぶ。
『ふふふ、はい。じゃあ後は伊之助頼んだね。あと七匹捕ってほしいな』
「おう!!」
「おら帰ったぞ!!開けろ!」
伊之助の声に気づいた善逸が戸を開ける。
「ハイハイ、随分早かったな、おかえっ」
目の前に風呂敷に乗せられた山盛りの魚が現れ、善逸の顔が一気に青ざめた。
「ヒギャアアァア!!!!?さ、魚のおばけ!?!?」
悲鳴を上げて尻もちを着いた善逸に視線が集まる。
そして魚の山を認識した隊士達の顔も青ざめた。
「ああ"!?誰がおばけだ!!伊之助様だわ!!」
『あはは…ただいま、皆』
伊之助の後ろから苦笑した○○が顔を出す。
全員の青ざめた顔がスッと戻った。
そして騒ぎを聞きつけた炭治郎がパタパタと近寄って来た。
「おかえり○○!伊之助!早かっ…随分大漁だなあ」
『うん、ただいま炭治郎。伊之助が楽しくなっちゃったみたいで…四十はあるんだけど、食べれるよね?』
「具にも使うんだろ?…うん、なら大丈夫だと思う!火はすぐそこに村田さん達が起こしてくれたから魚頼んでいいか?まだご飯炊けてないんだ」
『よかった…わかったよ。火ありがとうございます!伊之助おいで』
「おう」
にっこりと笑って礼を言った○○に、隊士達がデレデレと鼻を伸ばして笑う。
善逸はそれを恨めしそうに睨むと、○○達を手伝うために追いかけて出てった。
暇な隊士達も後を追う。
全員で魚を焼いて身をほぐし、握り飯担当の炭治郎と○○に回される。
「あっちっち! ○○、大丈夫か?」
『あちち…うん大丈夫だよ。我慢できないほどじゃないかな』
「そっか、ならよかった」
炭治郎のと比べ、○○は手が小さいため小さな握り飯ができていくのを、隊士達はほんわかとした笑顔で見つめていた。
ようやくできた夕餉に全員が嬉しそうに手を合わせた後、一斉に握り飯と焼き魚に手を伸ばす。
「うめぇ〜」
嬉しそうに頬張る隊士達に、○○も嬉しそうに笑った。
「俺、今回の訓練で気づいたわ。今の柱たちがほとんど継子いない理由」
「何ですか?」
急に虚無顔で話し出した村田に、炭治郎が不思議そうに訪ねた。
「俺も何となくわかったわ」
「しんどすぎてみんな逃げちゃうんだろ」
「ああ…」
「それとかあの金髪みたいにさ、柱との格の違いに打ちのめされて心折れたりさ」
訳が分かった隊士達も次々と話す。
善逸は過酷な訓練に疲れたのか、既に一人夢の中に入ってしまっている。
「こういうのを当然のようにこなしてきてんだから、柱ってやっぱすげぇわ」
「そうですね…」
『本当ですね…』
村田の言葉に改めて考えて、納得した炭治郎と○○が真剣な顔で頷いた。
そんな炭治郎の手はよく食べる伊之助と隊士達の為に、まだ握り飯を作り続けている。
「ていうかお前めっちゃ米炊くの上手くない?」
「魚焼くのも上手いしよ」
「俺、炭焼き小屋の息子なんで!料理は火加減!」
「なるほど!」
話は変わり、褒められて嬉しいのか炭治郎はドヤ顔で元気よく答える。
少し腹立たしいのは何故だろう。
「○○の握り飯はちっちゃくて可愛いなぁ…めっちゃ美味いし」
「嫁さんが作ってくれる握り飯ってこんなんだろうなぁ。嫁さんいないけど」
『お、お嫁さん…』
一方、○○はお嫁さんと言われて少し落ち込んだ。
彼に関しては慰めの言葉も見つからない。
六日経っても岩、動かず。
この日、炭治郎と○○は夕餉後にまた岩を動かそうとしていた。
しかし、前述した通り、まったく動かない。
力尽きた炭治郎が地面に横たわったのが見えて、○○も訓練を中断して炭治郎のそばに座った。
『炭治郎、大丈夫かい?』
「う、うんっ大、丈夫だっから、○○は訓練、戻って、いいぞ」
『…うん』
心配そうに炭治郎を見ながら、○○は隣の岩に戻っていく。
か弱く見える○○よりも体力がない事がわかり、炭治郎は落ち込んだ。
○○に失礼である。
「お前、額の痣濃くなってないか?」
「あっ玄弥!!大丈夫だったのか?あの後連絡とれなくなったから心配してた!」
「謹慎してたんだよ、悲鳴嶼さんに叱られてさ。兄貴と接触するなって言われてたのにあんなことになって…悪かったな巻き込んで……庇ってくれてありがとよ」
「いやそんな…」
炭治郎と誰かの話し声が聞こえるのに気づき、○○は踏ん張って押していた岩から手を離して、炭治郎をちらりと見る。
そして炭治郎のそばにしゃがむ玄弥の姿を見つけて、○○の目が輝いた。
『玄弥君!!』
「おわっ!!?あ、えっあの時の…!?」
驚く玄弥の隣に、嬉しそうに近寄って座る○○。
玄弥の顔が真っ赤に染まり、炭治郎は微笑ましく思った。
『また会えて嬉しいよ!』
「あっぇ、う、ど、ども…」
「あははっ玄弥、普通に話してあげなよ。○○は玄弥と友達になりたいんだよ」
ジリジリと○○から少しずつ距離をとる玄弥に、炭治郎は笑って言う。
「友達……○○は男。男だもんな…よし、玄弥でいいよ。よろしくな」
『!!うん玄弥!よろしくね』
初めて真正面から顔を見て話してもらえたのが嬉しかったのか、○○の顔に本当に嬉しそうな満面の笑みが浮かぶ。
直視した玄弥は魂が抜けた。
国宝級美少女顔の笑顔は思春期男子には耐えられなかった。
「…玄弥?おい玄弥!しっかりしろ!気持ちはわかる!わかるぞ!!とても!!」
『エッ…え、玄弥?大丈夫かい?』
「男!男だから!!な、玄弥!!」
「…はっ!!男、男、男」
意識が戻って自分に言い聞かせ始める玄弥に、○○は悲しそうに笑った。
玄弥は○○の理想なのだ。
高い背に逞しい体つき。
キリッとしたツリ目
全てがシュッとしていて男らしい。
一目見た時からかっこいいと思っていたのだ。
玄弥はまさに、○○がなりたかった理想の男なのである。
そんな彼と仲良くなりたかった。
それなのに普通に話せないとなると、やはり寂しいものがあるのだろう。
「男…ぁ、ごめん○○っ!!俺も、友達になりたいから!だから普通に話せるようになるまで待ってくれねぇか!!」
悲しそうな○○に気づいた玄弥が、赤くなりながらもしっかりと○○の目を見て話す。
苦手なはずなのに。
玄弥は性格までいいのか。
ますます○○の憧れになる。
『うん、嬉しい。ずっと待つよ』
はにかむ○○に、見守っていた炭治郎は嬉しそうに頷いた。
「…じゃあ、話戻すけど、お前痣」
「あっ、痣濃くなってる?」
「ああ」
『えっ、全然気づかなかった』
「そりゃ毎日顔みてりゃ変化がわからんだろ」
玄弥の言葉に、○○は炭治郎の顔を覗きこんで痣を観察する。
まじまじと見られて炭治郎の顔が熱を持った。
「…お前ら鏡持ってねぇのか?」
「『うん』」
「後で貸してやるよ」
炭治郎と同じく優しい玄弥に、○○は微笑む。
「シネ」
「オマエガナ」
が、後ろで二人の鎹鴉が罵り合う声が聞こえてきて苦笑に変わった。
ちなみに○○の鎹鴉は悲鳴嶼邸で寝ている。
「岩の訓練してんだな、俺もやってるよ」
「いやあ、でも全然動かなくて。玄弥は動かせた?」
「動かせるよ」
「えーー!」
『凄いね玄弥!』
驚く炭治郎と褒める○○に、玄弥は照れながら少し笑った。
「お前ら"反復動作"はやってんの?」
聞きなれない言葉に、笑顔の炭治郎と○○の頭の上に大きなハテナが浮かぶ。
双方アホ面である。
察した玄弥は呆れた顔で二人を見つめた。
「やってねぇのか…悲鳴嶼さんも教えるの上手くねぇからな。よく見て盗まねぇと駄目だぞ」
しっかりと教えてくれる玄弥に、炭治郎と○○は感心したように頷く。
「集中を極限まで高めるために予め決めておいた動作をするんだ。俺の場合は念仏唱える」
「悲鳴嶼さんもやってる!」
「そうそう、南無南無言ってるだろ」
『なるほど。よく見てるんだね!』
楽しそうに会話を続ける三人を、木の影から悲鳴嶼が見守っていた。
心做しか、その表情は柔らかく見えた。
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