Regret


特戦部隊が新生ガンマ団で持て余されるようになったのはそれからだった。

「ハーレムにも困ったことだね。」

総帥を退いたマジックが溜め息をつく。

「…気持ちは分からないでもないですよ。私と状況は大分違うけど、大事な存在を永遠に奪われたようなものですから…。」

サービスは取りなしながら、自分がハーレムを弁護している状況に新鮮な驚きを感じていた。

あれほど苦悩するハーレムなど見たことがない。双子故に全てを知っていると思っていたものがどれだけ浅はかな思い込みだったのか知らされた。

自分に真実を告げずにいた頃はむしろ繕っていたのだろう、表面的には何事も笑い飛ばす姿しか見た覚えがなかった。



「けどリキッドは生きているんだろ。なにもあんなに荒れなくてもよさそうなのに。とにかくこのままにしておくわけにはいかねーよ。」

シンタローは苦々しく吐き捨てた。

手元には特戦部隊の作戦報告書の束がある。
新総帥の指示を無視したようなやり方に、各方面からの非難と苦情が渦を巻いていた。

こうも派手にやらかされては親族とは言え、いやむしろ親族だからこそのけじめが必要だった。
このままでは新総帥の統率力への不信にも繋がりかねない。

「いっそ団から切り離して自由にさせてみたらどうだい。」

サービスがそう提案仕掛けた時にノックがされた。


入室したマジックの秘書からの耳打ちにマジックが更に溜め息をついてシンタローに向き直った。

「…少し遅かったよシンちゃん。特戦部隊は飛び立ったそうだ。」

「…あの馬鹿叔父貴!」

シンタロー新総帥の怒号が司令室に虚しく響き渡った。


**********

「よろしいのですか隊長、新総帥の方針に逆らうことになりますが。」

マーカーが静かに問いかける。

「構わねーよ。嫌なら降りていいんだぜ、マーカー。」

素っ気なくハーレムが答えた。

「ご冗談を。特戦部隊こそが私の居場所です。」

「そーそー、お行儀よくお仕置き集団なんて今更柄じゃないっすしね。」

「……(頷)」

三人三様に自分への帰順を述べる部下にハーレムは笑って応えた。

「はっ…物好きな奴らだな相変わらず。よっしゃ、ならとことんド派手にかましてやるぜ!!」

何のかの言おうとここまで残ったメンバーである。今更ガンマ団のヒエラルキーの中で窮屈に過ごす気などあろうはずもなかった。


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その頃リキッドはと言えば慣れぬ家事に悪戦苦闘中。

ハーレムに劣らないほど我が道を行くパワフルちみっ子パプワくんとマイペースナマモノに翻弄され、かなりクタクタだ。

しかし破壊がないということが何より嬉しく、また楽しかった。

「はあ~あ、なかなか上手くいかねーなあ…形だけはそれっぽくなってきたけど…。」

今はドーナツ作りに挑戦中だ。
形はドーナツらしくなってきたが、揚げ方が悪いのかふっくらと仕上がらず芯が生焼けという悲惨な状況だった。

「油の温度かな…それともこねすぎた?いやむしろこねたりないのか…?」

料理などろくにしたこともなかったが、何かを作るというのもやりだすと楽しかった。

「あ…っと、もうこんな時間かよ…。今日はここまでにしとくか。」

料理研究を切り上げると生地を濡れ布巾にくるんで片付ける。

使った器具を洗い、戸棚にしまってから伸びをするとかなり腰が疲れていた。

「あてて、根詰めすぎだぜ俺ってば。」

私物を積み重ねた片隅がリキッドのスペースだ。

「○ッキー、今日も1日お疲れ様!」

そこにちょーんと鎮座しているネズミのぬいぐるみを抱き締めて1日の締めくくりの挨拶をする。

貰って初めて抱いた時には少し沁みていた煙草の残り香もすっかり名残無く消えていたが、ふと渡された時の事が思い出されることがあった。

「元気かなあのオッサン…。」

側にいた時はセクハラやパワハラに泣かされまくったが、まるきり役立たず感の漂う今の状況にもめげずにいられるのはあのシゴキに耐えた経験によるところが大きいだろう。
周りが強過ぎていつも無力感に圧し拉がれていたが、笑われてもイジメられても見捨てられたことはなかったなと今なら分かる。
何事につけ悔しい思いに泣く時にはハーレムの目が必ず真っ直ぐに自分を見つめていた。

そのまま腐るか歯を食いしばってでも立ち上がるか、お前はどちらだと問い詰めるような目で。


惨めだと思っていたあれやこれやも時が経って思い出化してみると、当時の辛い感情は薄れて、言葉や眼差しなどの記憶だけがやたらと浮かんでくる。

しかし、離れてからこうも思うことが増えるとはどういうことなのだろう。

「あーやめやめ、明日も早いし寝よ寝よ!!おやすみ○ッキー。」

思い返しても甲斐のない過去だと振り切るように、リキッドは無自覚なまま赤らんだ顔を振って寝床に入ったのだった。




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