Regret
「なんでてめぇがここにいンだよ。」
「だから俺番人クビになったからさ。おたくのとこのリキッド君がどーしても番人やるって言うから引き継ぎして来たんだよ~。」
ヘラッと明るく笑うジャンに告げられた事実にハーレムの目が見開かれる。
「リキッドだと…アイツが、番人…!?」
「そう、ずいぶんのびのびとしてたぜ。アンタ大分アイツ苛めてたろ。いけない上司だね~だから逃げられちゃうんだよ。」
「ふざけんじゃねぇ!!」
ハーレムの繰り出した鉄拳に不意を食らったジャンは吹っ飛ばされた。
「ハーレム…!」
「黙ってろサービス…おい糞野郎、てめぇがアイツに番人持ち掛けたんじゃねぇだろうなあ…サービスの側いたさによ!?」
胸倉を掴んで引き寄せるとジャンが切れた口の端を拭い睨んでくる。
「…ってぇな…いきなり殴るなよ。俺がそんなこと言う訳ないだろ、アイツが言い出したんだよ。番人は自分には出来ないのかって。」
「それで体よく押し付けて来たってのか?」
「俺の一存で決められる事じゃない。アイツの熱意はすごかった…そう秘石も判断したんだろ。」
「くそったれが、お前が熱意を失ってたんだろうが、この疫病神!!
アイツはこないだ二十歳になったばかりだぜ…永遠の時に捕らわれることの意味なんか分かってる訳がないだろうが!!」
眦を吊り上げて罵るハーレムの剣幕にさすがのジャンも些か気圧され気味だ。
「…っ、説明は何度もしたさ!!永遠に生きることも家族にも二度と会えないかもしれないことも…それでもと望んだのはアイツだぜ!?」
ハーレムは掴んでいた胸倉を突き放した。
「アイツが世間知らずのバカ坊ちゃんだと気付かなかったとは言わせねぇぞ。ガキの判断を鵜呑みにして糞重い荷物背負わせやがって!!
…こんなことと知ってりゃアイツを行かせやしなかった!!
なんでアイツが…アイツまでが、石っころのお遊びに巻き込まれなきゃならねーんだ…。」
「ハーレム…。」
初めて聞く双子の兄の苦しそうな声にサービスが労るように声を掛けた。
「あんたはガキだって言うけど、もう二十歳越えたんなら立派な大人だろ。あいつが大切だってんならあいつが自分で考えて出した答えを尊重してやれよ。」
殴られても罵られてもジャンは特にひるむことがない。
それはそうだ、この男は一見自分と同じ年齢だがその実その後ろには気の遠くなるような年月が横たわっているはずなのだ。分かっていはいたがそれはハーレムの腹立たしさを助長させるだけだった。
「あいつが俺に何も言えなかったってのがガキの証拠だろうが!!
特戦部隊を抜けることに関しちゃ責める気もなかったら何も言わずに行かせたがな、そりゃあいつにこれ以上部隊の仕事をさせるのは酷だと分かってたからだ。
それを……クソッ!!」
ハーレムは拳をまだ震わせていたが最後まで言わず踵を返した。
「…どこへ行くんだい。」
サービスがその背中に声を掛けた。
聞かなくても答えは分かっている気がしたが。
「…お前の知ったことじゃねーだろ。」
「言っとくがあの島は探せないぜ…万が一見つけたところでもう番人は引き継いじまった後だし、まさしく後の祭りだ。」
ジャンの言葉にぴたりと足が止まる。
「リストラされたテメエの出る幕じゃねえから黙っとけ。あと俺の前に二度とその気に食わねえツラ見せんじゃねぇぞ。今だってサービスがいなけりゃぶっ殺してやりてえのを我慢してやってンだからな。」
振り向かず唸るようにそれだけ答えるとハーレムは今度こそ二人の前から姿を消した。
「あのハーレムがあんなに思いつめるなんてね…。」
「なんだか予想してたのとえらい違う反応だったなあ…イテテ。」
ジャンの言葉にサービスが目をやると腫れた頬をさすっていた。
「大丈夫かい?」
「ああ。これくらいどうってことないさ。」
にこっと笑って答えたが、自分を見つめる目にもの問いた気な色が浮かんでいるのを見てジャンは苦笑した。
「リキッドの体を共有してた時に見たアイツの映像がまるで情け容赦ない鬼みたいだったからさ。あの坊やはどうやらアイツの気持ちには全然気付いてなかったみたいだな。」
「…気付かせるような可愛げのある男じゃないからね。」
「素直じゃないんだなァ。」
「そうだね…。」
相槌を打ちながら、自分もハーレムの思いを知らないままに長い時を過ごしてしまった一人なのだとサービスは自嘲を込めて微笑むしかなかった。