幼馴染【桑田登紀】
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『トキ!』
この声にはいつもびくっとしてしまう。
「な、なんだよ……」
『メロンミルク、お願いね!』
いつも命令に近い志保のお願いを断れた試しがない。
一言くらい言い返そうとするけれど、ニッコリと微笑まれてヒラヒラと手を振られれば、こっそりため息をついて鞄から財布を出し、教室を出た。
志保とは、いわゆる幼馴染みという関係で、昔からどちらかといえば気の弱いオレの方が守ってもらってきたというかなんというか…とにかくオレの姉かってくらいに世話を焼いて、時にパシらされている。
幼稚園から小学校、中学校、そして高校までずっと一緒で未だにこの力関係が変わる気配はない。
お互いの家も近いから、小学校の頃からほぼ毎日のように一緒に登校している。
オレは高校でもバスケ部に入り、奇跡的にインターハイ出場まで決めてしまったから、早くから厳しい朝練もあるのにそれでも当然のように同じ時間に家を出て、一緒に登校する。
志保は決して練習を見に来たりはしないし、帰りは自分の友だちと帰ることが多いから、どうして朝の登校にこだわるのかは謎だ。
『トキが心配だから!』って志保は言うけれど、オレは男だ。
高校に入りお化粧するようになってますます可愛くなった志保の方が変な男に言い寄られないかの方が心配だ。
たまにバスケ部に顔を出す青田先輩みたいな輩に狙われないとも限らない。
オレはバスケ部が襲撃された時だってその修羅場を乗り越えたし(ほとんど何もしてないけど)、陵南戦の死闘を(ベンチで応援して)勝ち進んだ自負もある。
もっとオレのこと、男だって認識してもらいてぇよなぁ…
そんなことを考えながら、自販機に着くと、
「おい!」
そう声をかけられて、ビクッとしてしまった瞬間にも思い浮かべるのは志保の顔……
「三っちゃん!桑田だぞ」
ドスのきいた声をだしたのは、三井先輩のお友達の堀田先輩。
「ちゅーっす…」
「お、桑田!ちょうどいい。あん時のお礼に買ってやるよ!」
三井先輩はオレの希望を聞かずに勝手に飲み物を購入してしまう。
お礼というのはおそらく試合の時のことで、同じものを返せばいいと思ったのだろう。
「ほらよ!」
ポカリの缶を投げて寄越されたオレは何とか落とさずキャッチして受け取ったものの、穏便にメロンミルクを買うにはどうしたらいいか頭を悩ませる。
「どうした?」
「あ、いや…友達から頼まれた飲み物を買っていこうと…」
「おまえ、パシられてんのか!?」
「俺の大事な三っちゃんの後輩にそんなこと押し付けるヤツはどこだ?俺がシメてやるから、教えろ!」
ものすごい形相の堀田先輩に気圧されてしまうけれど、さすがに一年生の教室に先輩達が乗り込むのはなんとしても避けたい。
「志保……あ、女友達なんで…」
「女?ふーん……」
三井先輩は、にやけた顔で良からぬことを考えているようだ。
「よし、この三井先輩が桑田の女の分も買ってやろうじゃないか!」
「さすが三っちゃん!」
堀田先輩も何だか嬉しそうな顔をしているけれど、これ以上絡まれるのは避けたい。
「じゃ、メロンミルクを…」
ポカリが売っている自販機の隣の自販機を指差せば、三井先輩はニヤニヤと嬉しそうに小銭を入れて、メロンミルクのボタンを押した。
オレは早くこの場を離れたい一心で、三井先輩が屈むより先に自販機の取り出し口からメロンミルクのパックを取り出した。
これで解放されるだろうとほっと胸を撫で下ろすと、
『トキ!』
廊下から慌てた声が聞こえて、志保が俺をかばうように立った。
『先輩達、後輩いびって何が楽しいんですか?』
「志保……」
俺は冷や汗びっしょりになって立ち上がると、志保を落ち着かせようと肩をたたく。
『トキは引っ込んでて!』
「いや、三井先輩はバスケ部の先輩で、堀田先輩はそのお友達なんだ」
『は?』
「ぷはっ!おもしれーな!桑田の女は」
「大丈夫だ!三っちゃんは、桑田とキミにジュースを奢ってあげる優しい男だ!」
『えぇ?』
混乱している志保にこれ以上何と説明しようか迷っていると、
「桑田、愛されてんだな」
三井先輩がぼそっと呟いた。
『当り前じゃないですか!私の大切な幼馴染なんですから!先輩たちがトキに何かしたら、私一生恨みますから!』
志保は、バスケ部が襲撃されてオレが怪我を負った時も大変だったことを思い出す。
仕返しに行くと三年生の教室に乗り込もうとするのを、桜木くんが十分やり返してくれたとしぶしぶ納得してもらった。
しかも、志保は妙なところで疎くて、三井先輩と堀田先輩がその襲撃の主犯格だということを知らないのだ。
もし、そんなことが知れたら、どうなるか…
「志保……二人ともすごくイイ先輩だから、大丈夫だって!ほら、メロンミルク奢ってもらったんだし、もう教室戻ろう?」
『ならいいけど…』
「三井先輩、ご馳走様です!」
オレはぺこりと頭を下げて、まだ何か言いたげな志保の背中を押して、教室へと戻るように促す。
「にしても、三井先輩も堀田先輩もオレと志保が付き合ってるって勘違いしてたみたいだよな…」
ポカリの缶を小脇に挟んで、メロンミルクのパックにストローをさして、志保に渡しながら話しかける。
本当に付き合えたら良いななんて思うけれど、今のオレはまだ告白する勇気なんてない。
『トキはさ、私のことただの幼馴染以上の感情は…全くない?』
ジュースを一口飲んだ志保は珍しく自信のなさげな声だ。
しかも、そんなこと聞かれたって、なんて答えるのが正解かなんて分からないけれど、正直に答える。
「オレはさ、志保が桑田の女って呼ばれる存在だったら良いなって思うことはあるけど…このままの関係でいた方がいいのかなとも思うし…」
話しながら恥ずかしくなって、ポカリのプルタブを開ける。
今までの一連の流れで喉がカラカラで、ゴクゴクとポカリを飲んだ。
『バカ……』
「え?何で…?」
『こういう時は、ハッキリ好きって言って!』
バチンと背中をたたかれて、俺は、飛び上がるほど驚く。
「痛い……」
『ね、言える?』
「は、はい…好きです!」
『うん、私も!』
腕にしがみつかれて、危うくポカリをこぼしそうになるけれど、なんだかうれしくて、えへへと笑う。
こうして、オレ達は幼馴染から晴れて恋人同士になった。
内緒で付き合うってのも良いかと思っていたけれど、志保はその日からバスケ部の応援にも来るようになって、あっという間に噂は広がってしまった。
『トキ!三っちゃんに負けるな!!!』
志保の怒号が体育館に響くようになった。
***
2022.5.21.
こぼれ話→幼馴染【桑田登紀】
この声にはいつもびくっとしてしまう。
「な、なんだよ……」
『メロンミルク、お願いね!』
いつも命令に近い志保のお願いを断れた試しがない。
一言くらい言い返そうとするけれど、ニッコリと微笑まれてヒラヒラと手を振られれば、こっそりため息をついて鞄から財布を出し、教室を出た。
志保とは、いわゆる幼馴染みという関係で、昔からどちらかといえば気の弱いオレの方が守ってもらってきたというかなんというか…とにかくオレの姉かってくらいに世話を焼いて、時にパシらされている。
幼稚園から小学校、中学校、そして高校までずっと一緒で未だにこの力関係が変わる気配はない。
お互いの家も近いから、小学校の頃からほぼ毎日のように一緒に登校している。
オレは高校でもバスケ部に入り、奇跡的にインターハイ出場まで決めてしまったから、早くから厳しい朝練もあるのにそれでも当然のように同じ時間に家を出て、一緒に登校する。
志保は決して練習を見に来たりはしないし、帰りは自分の友だちと帰ることが多いから、どうして朝の登校にこだわるのかは謎だ。
『トキが心配だから!』って志保は言うけれど、オレは男だ。
高校に入りお化粧するようになってますます可愛くなった志保の方が変な男に言い寄られないかの方が心配だ。
たまにバスケ部に顔を出す青田先輩みたいな輩に狙われないとも限らない。
オレはバスケ部が襲撃された時だってその修羅場を乗り越えたし(ほとんど何もしてないけど)、陵南戦の死闘を(ベンチで応援して)勝ち進んだ自負もある。
もっとオレのこと、男だって認識してもらいてぇよなぁ…
そんなことを考えながら、自販機に着くと、
「おい!」
そう声をかけられて、ビクッとしてしまった瞬間にも思い浮かべるのは志保の顔……
「三っちゃん!桑田だぞ」
ドスのきいた声をだしたのは、三井先輩のお友達の堀田先輩。
「ちゅーっす…」
「お、桑田!ちょうどいい。あん時のお礼に買ってやるよ!」
三井先輩はオレの希望を聞かずに勝手に飲み物を購入してしまう。
お礼というのはおそらく試合の時のことで、同じものを返せばいいと思ったのだろう。
「ほらよ!」
ポカリの缶を投げて寄越されたオレは何とか落とさずキャッチして受け取ったものの、穏便にメロンミルクを買うにはどうしたらいいか頭を悩ませる。
「どうした?」
「あ、いや…友達から頼まれた飲み物を買っていこうと…」
「おまえ、パシられてんのか!?」
「俺の大事な三っちゃんの後輩にそんなこと押し付けるヤツはどこだ?俺がシメてやるから、教えろ!」
ものすごい形相の堀田先輩に気圧されてしまうけれど、さすがに一年生の教室に先輩達が乗り込むのはなんとしても避けたい。
「志保……あ、女友達なんで…」
「女?ふーん……」
三井先輩は、にやけた顔で良からぬことを考えているようだ。
「よし、この三井先輩が桑田の女の分も買ってやろうじゃないか!」
「さすが三っちゃん!」
堀田先輩も何だか嬉しそうな顔をしているけれど、これ以上絡まれるのは避けたい。
「じゃ、メロンミルクを…」
ポカリが売っている自販機の隣の自販機を指差せば、三井先輩はニヤニヤと嬉しそうに小銭を入れて、メロンミルクのボタンを押した。
オレは早くこの場を離れたい一心で、三井先輩が屈むより先に自販機の取り出し口からメロンミルクのパックを取り出した。
これで解放されるだろうとほっと胸を撫で下ろすと、
『トキ!』
廊下から慌てた声が聞こえて、志保が俺をかばうように立った。
『先輩達、後輩いびって何が楽しいんですか?』
「志保……」
俺は冷や汗びっしょりになって立ち上がると、志保を落ち着かせようと肩をたたく。
『トキは引っ込んでて!』
「いや、三井先輩はバスケ部の先輩で、堀田先輩はそのお友達なんだ」
『は?』
「ぷはっ!おもしれーな!桑田の女は」
「大丈夫だ!三っちゃんは、桑田とキミにジュースを奢ってあげる優しい男だ!」
『えぇ?』
混乱している志保にこれ以上何と説明しようか迷っていると、
「桑田、愛されてんだな」
三井先輩がぼそっと呟いた。
『当り前じゃないですか!私の大切な幼馴染なんですから!先輩たちがトキに何かしたら、私一生恨みますから!』
志保は、バスケ部が襲撃されてオレが怪我を負った時も大変だったことを思い出す。
仕返しに行くと三年生の教室に乗り込もうとするのを、桜木くんが十分やり返してくれたとしぶしぶ納得してもらった。
しかも、志保は妙なところで疎くて、三井先輩と堀田先輩がその襲撃の主犯格だということを知らないのだ。
もし、そんなことが知れたら、どうなるか…
「志保……二人ともすごくイイ先輩だから、大丈夫だって!ほら、メロンミルク奢ってもらったんだし、もう教室戻ろう?」
『ならいいけど…』
「三井先輩、ご馳走様です!」
オレはぺこりと頭を下げて、まだ何か言いたげな志保の背中を押して、教室へと戻るように促す。
「にしても、三井先輩も堀田先輩もオレと志保が付き合ってるって勘違いしてたみたいだよな…」
ポカリの缶を小脇に挟んで、メロンミルクのパックにストローをさして、志保に渡しながら話しかける。
本当に付き合えたら良いななんて思うけれど、今のオレはまだ告白する勇気なんてない。
『トキはさ、私のことただの幼馴染以上の感情は…全くない?』
ジュースを一口飲んだ志保は珍しく自信のなさげな声だ。
しかも、そんなこと聞かれたって、なんて答えるのが正解かなんて分からないけれど、正直に答える。
「オレはさ、志保が桑田の女って呼ばれる存在だったら良いなって思うことはあるけど…このままの関係でいた方がいいのかなとも思うし…」
話しながら恥ずかしくなって、ポカリのプルタブを開ける。
今までの一連の流れで喉がカラカラで、ゴクゴクとポカリを飲んだ。
『バカ……』
「え?何で…?」
『こういう時は、ハッキリ好きって言って!』
バチンと背中をたたかれて、俺は、飛び上がるほど驚く。
「痛い……」
『ね、言える?』
「は、はい…好きです!」
『うん、私も!』
腕にしがみつかれて、危うくポカリをこぼしそうになるけれど、なんだかうれしくて、えへへと笑う。
こうして、オレ達は幼馴染から晴れて恋人同士になった。
内緒で付き合うってのも良いかと思っていたけれど、志保はその日からバスケ部の応援にも来るようになって、あっという間に噂は広がってしまった。
『トキ!三っちゃんに負けるな!!!』
志保の怒号が体育館に響くようになった。
***
2022.5.21.
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