Anniversary【三井寿】
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『なんか、そわそわしてない?』
「べ、別に…」
『ふーん…』
友は、興味なさそうにすぐに手元のゲーム機に目を向けた。
時刻は夜の11時55分。
そわそわしていたのは、図星だ。
あと少しで0時になって日付が変わる。
友の誕生日でもあり、俺たちの10回目の結婚記念日でもある。
結婚記念日として特別なことをすることはないが、結婚10周年は、錫婚式(すずこんしき)と言われるらしい。
友は、そんなことを知っている…訳ないか…
誕生日にサプライズで、0時きっかりにプレゼントを渡そうと準備だってしている。
先週、『来週は何があるでしょう?』って聞かれた時も、「知らねぇ…」って言ってやったから、俺が誕生日も結婚記念日も忘れてるって思ってるだろう。
でも、俺はこういう時はしっかりお祝いしたい男だ。
俺ばっかりがこいつのことを好きなんじゃないかって不安になるくらい、そっけない態度を取られることも多いけれど、俺も照れ隠しでついつい喧嘩腰で話しちまうこともあるから、似たもの夫婦ってやつなんだろう。
今だって、ソファーに座っている俺の膝を枕代わりにして、のんびりゲームをしている。
顔を覗き込んでも、目が合うことはない。
友の髪の毛をいじりながら、つけっぱなしのテレビの時計を見れば、まだ11時56分。
待っている時ほど長く感じられるもんだけれど、それにしても一向に時が立たない。
1分前になったら、俺のバスケ用品が片づけてあるクローゼットに隠してあるプレゼントを持ってきて渡せば、完璧だ。
テレビで友がプレイしているゲームのCMが流れれば、ひょいっと起き上がって、テレビを嬉しそうに見ている。
ーー11時58分。
…よし、もうそろそろいいだろう。
「便所…」
トイレへ行くふりをして、クローゼットへ向かう。
そして、0時になったタイミングでラッピングされた大きな袋を持って、リビングへ入ろうとしたところで、
ーーピンポーン。
「うぉっ!」
こんな真夜中にチャイムが鳴るなんて思ってもおらず、飛び上がるほど驚いてしまった。
こんな時間に、しかも今日という日に家に来るのは…あいつしかいない。
『あっ、一郎だ…』
「こんな時間だしよ…出なくていいんじゃね…」
チャイムを押した憎たらしい俺の後輩を家に入れたくなくて、ぼそっと呟いた声は、すぐにかき消される。
『うっそ!一郎がヤドンのぬいぐるみ持ってる!!!』
バタバタと友は玄関を開けに行ってしまった。
…今、ヤドンのぬいぐるみって言ったか?
まさに俺の腕の中のラッピング袋の中に入っているのも、最近友がハマっているヤドンのぬいぐるみだ。
「友ねぇ、誕生日おめでとう!!これ、欲しがってたやつ!!!」
深夜だというのに克美のバカでかい声が聞こえてきて、はぁ…とため息をついた。
『一郎、ありがとう!!!』
さらにテンションが上がった友は、玄関を開けたまま克美に抱き着いている。
「近所迷惑…」
俺はため息をついて、二人に声をかけると、
「『はーい…』」
仲良く返事して、部屋の中へと入って来た。
「つーか、おまえ、また家に泊まるのかよ?」
「もちろんですよ?ほら、ケーキにシャンパンにワインやおつまみも買ってきましたからね!友ねぇの誕生日にお祝いしない訳ないじゃないですか?…ってか、三井先輩の手に持ってるのなんですか?」
「……これはだな」
『あれ?プレゼント準備してくれてたの?寿にしては気がきくじゃん!』
友は嬉しそうに、俺が抱えていた包みを奪い取るように取り上げると、早速リボンをほどいて、中身を取り出した。
「……」
「三井先輩…」
『ぷはっ!二人とも似たもの同士だと思ってたけど、私へのプレゼントまで同じだとはね!!』
「「似てねーよ!」」
俺と克美は声をそろえて抗議するけれど、そのそろった声にも友は、声をあげて笑い、涙まで浮かべている。
『大好きなヤドンが、誕生日にまさか二体ももらえるなんて…本当にありがとう!』
二つのぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめて嬉しそうにしている友を見て、まぁいいか…と思おうとしたけれど、
「三井先輩、俺のぬいぐるみの方が先にギュってしてもらえましたからね?」
克美に言われて、また怒りがふつふつと込み上げる。
「うるせー!」
『二人とも、私の誕生日なんだからさー、ちょっとは仲良くね!じゃ、これ、片づけてくる』
「はーい。友ねぇの誕生日だから、美味しいって評判のケーキ屋さんにも寄ってきたんだぜ!パーティーしようぜ!」
すっかりご機嫌な友はぬいぐるみを寝室に片づけにいき、克美は嬉々と買ってきたケーキやつまみを並べて、勝手知ったる家といった様子でグラスや取り皿なんかも出し始めたのを手伝うのも癪で、洗面所に行って顔を洗う。
…ったく、いつもいつも良いところで克美に邪魔されるんだよな。
まぁ、目の上のたんこぶみたいな存在の克美だけれど、俺たちの…いや、友の好みを熟知していて助かることもあるにはあるが、何で日付変わった瞬間に来るんだよ。
友と克美は幼馴染で、本物の姉弟以上に仲が良い。
俺と友は、高校に入ってから知り合ったもののお互い素直じゃねぇ性格も災いして、付き合うのだって付き合ってからだって、克美を巻き込んで周りが結婚するのを驚くくらいに色々あった。
そんな俺たちの関係も結婚して、歳を経るごとに落ち着くもんだと思ったけれど、未だにあの頃と変わらずにイベントのあるなしに関わらずに克美が押しかけてきてワイワイと騒いでいる。
結婚して10年経ってもこんなだから、この関係は今後も変わる気配はない。
そんな物思いにふけりながら、鏡を見れば、少し増えたシワと共に顎の大分薄くなった傷が目に入る。
あん時、グレてなかったらもう少し落ち着いた関係だったのかもな…そんなありえないことを未だに考えちまうけれど、それも人生かもな…
さらに感傷的になっていると、
『寿!先飲んでるよ~』
「三井先輩、またトイレっすか?」
「今、行くって!」
友と克美の声に慌てて、リビングへと戻るとすでにシャンパンが注がれたグラスを渡された。
「「『かんぱーい!』」」
景気のいい音を鳴らして、深夜の誕生日会が始まる。
高校時代のこと、実家や仕事の近況、バスケ、ゲーム、テレビ番組…話題は尽きることなく、
『酔っぱらったから、寝る!』
そう宣言した友がフラフラと寝室へ行くまで誕生日会は続いた。
俺と克美とでざっと後片付けをして、寝室へ友の様子を見に行くと、先に様子を見ていた克美が、
「三井先輩、気付いてます?」
静かな声で俺に話しかけた。
「何がだよ?」
「友ねぇが、抱いて寝てる方のヤドンのぬいぐるみに三井先輩と同じ顎のとこに傷書いてあるんすよ…」
俺はそっと、友が抱いたまま寝たぬいぐるみをよく確認すると、確かに顎に傷らしき印がかかれている。
嬉しくなって、思わず頬が緩んしまうのを、克美に見られたくなくて、顎の傷をポリポリかいてごまかす。
「オレ、一生、三井先輩が友ねぇのこと幸せにしてるか見張ってますからね!」
「…心配すんなって。だから、おめえも良い人見つけろよ?」
「嫌だ!友ねぇ以上に良い女はいない…!」
今にも寝ている友に飛びつきそうになる克美を止めて、俺は伝える。
「友は、俺にもおまえにも愛されて…幸せもんだよな?」
「もちろんです!」
「俺らも寝るか?…って、ベッドに二体もあんなデカいぬいぐるみいたら、俺の寝る場所がねぇ…」
「オレ用の布団は貸しませんよ?」
「わーってるよ!」
克美は慣れた手つきでベッドの横に布団を準備し始める。
俺はソファーで寝るために、毛布を準備する。
おやすみを言おうとすると友は、
「ヤドン…可愛い…寿も…可愛い…」
むにゃむにゃと寝言を言っている友に目尻を下げる。
これからも、ずっと一緒に居てくれよな…
そう心の中で呟いて、顔をあげれば、克美と目が合う。
……こいつも、ずっと一緒か。
今日は大切な日だから、文句はほどほどにしておこう。
「じゃ、寝るぜ」
「友ねぇ、ヤドン…三井先輩もおやすみ」
「おう」
外が少し明るくなり始めた頃、俺達は眠りについた。
ヤドンと克美に押しつぶされ、友に大笑いされる夢を見てうなされたのは、俺だけの秘密だ。
***
2022.2.1.
Happy Birthday to 如月-sama!!
こぼれ話→Anniversary【三井寿】
「べ、別に…」
『ふーん…』
友は、興味なさそうにすぐに手元のゲーム機に目を向けた。
時刻は夜の11時55分。
そわそわしていたのは、図星だ。
あと少しで0時になって日付が変わる。
友の誕生日でもあり、俺たちの10回目の結婚記念日でもある。
結婚記念日として特別なことをすることはないが、結婚10周年は、錫婚式(すずこんしき)と言われるらしい。
友は、そんなことを知っている…訳ないか…
誕生日にサプライズで、0時きっかりにプレゼントを渡そうと準備だってしている。
先週、『来週は何があるでしょう?』って聞かれた時も、「知らねぇ…」って言ってやったから、俺が誕生日も結婚記念日も忘れてるって思ってるだろう。
でも、俺はこういう時はしっかりお祝いしたい男だ。
俺ばっかりがこいつのことを好きなんじゃないかって不安になるくらい、そっけない態度を取られることも多いけれど、俺も照れ隠しでついつい喧嘩腰で話しちまうこともあるから、似たもの夫婦ってやつなんだろう。
今だって、ソファーに座っている俺の膝を枕代わりにして、のんびりゲームをしている。
顔を覗き込んでも、目が合うことはない。
友の髪の毛をいじりながら、つけっぱなしのテレビの時計を見れば、まだ11時56分。
待っている時ほど長く感じられるもんだけれど、それにしても一向に時が立たない。
1分前になったら、俺のバスケ用品が片づけてあるクローゼットに隠してあるプレゼントを持ってきて渡せば、完璧だ。
テレビで友がプレイしているゲームのCMが流れれば、ひょいっと起き上がって、テレビを嬉しそうに見ている。
ーー11時58分。
…よし、もうそろそろいいだろう。
「便所…」
トイレへ行くふりをして、クローゼットへ向かう。
そして、0時になったタイミングでラッピングされた大きな袋を持って、リビングへ入ろうとしたところで、
ーーピンポーン。
「うぉっ!」
こんな真夜中にチャイムが鳴るなんて思ってもおらず、飛び上がるほど驚いてしまった。
こんな時間に、しかも今日という日に家に来るのは…あいつしかいない。
『あっ、一郎だ…』
「こんな時間だしよ…出なくていいんじゃね…」
チャイムを押した憎たらしい俺の後輩を家に入れたくなくて、ぼそっと呟いた声は、すぐにかき消される。
『うっそ!一郎がヤドンのぬいぐるみ持ってる!!!』
バタバタと友は玄関を開けに行ってしまった。
…今、ヤドンのぬいぐるみって言ったか?
まさに俺の腕の中のラッピング袋の中に入っているのも、最近友がハマっているヤドンのぬいぐるみだ。
「友ねぇ、誕生日おめでとう!!これ、欲しがってたやつ!!!」
深夜だというのに克美のバカでかい声が聞こえてきて、はぁ…とため息をついた。
『一郎、ありがとう!!!』
さらにテンションが上がった友は、玄関を開けたまま克美に抱き着いている。
「近所迷惑…」
俺はため息をついて、二人に声をかけると、
「『はーい…』」
仲良く返事して、部屋の中へと入って来た。
「つーか、おまえ、また家に泊まるのかよ?」
「もちろんですよ?ほら、ケーキにシャンパンにワインやおつまみも買ってきましたからね!友ねぇの誕生日にお祝いしない訳ないじゃないですか?…ってか、三井先輩の手に持ってるのなんですか?」
「……これはだな」
『あれ?プレゼント準備してくれてたの?寿にしては気がきくじゃん!』
友は嬉しそうに、俺が抱えていた包みを奪い取るように取り上げると、早速リボンをほどいて、中身を取り出した。
「……」
「三井先輩…」
『ぷはっ!二人とも似たもの同士だと思ってたけど、私へのプレゼントまで同じだとはね!!』
「「似てねーよ!」」
俺と克美は声をそろえて抗議するけれど、そのそろった声にも友は、声をあげて笑い、涙まで浮かべている。
『大好きなヤドンが、誕生日にまさか二体ももらえるなんて…本当にありがとう!』
二つのぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめて嬉しそうにしている友を見て、まぁいいか…と思おうとしたけれど、
「三井先輩、俺のぬいぐるみの方が先にギュってしてもらえましたからね?」
克美に言われて、また怒りがふつふつと込み上げる。
「うるせー!」
『二人とも、私の誕生日なんだからさー、ちょっとは仲良くね!じゃ、これ、片づけてくる』
「はーい。友ねぇの誕生日だから、美味しいって評判のケーキ屋さんにも寄ってきたんだぜ!パーティーしようぜ!」
すっかりご機嫌な友はぬいぐるみを寝室に片づけにいき、克美は嬉々と買ってきたケーキやつまみを並べて、勝手知ったる家といった様子でグラスや取り皿なんかも出し始めたのを手伝うのも癪で、洗面所に行って顔を洗う。
…ったく、いつもいつも良いところで克美に邪魔されるんだよな。
まぁ、目の上のたんこぶみたいな存在の克美だけれど、俺たちの…いや、友の好みを熟知していて助かることもあるにはあるが、何で日付変わった瞬間に来るんだよ。
友と克美は幼馴染で、本物の姉弟以上に仲が良い。
俺と友は、高校に入ってから知り合ったもののお互い素直じゃねぇ性格も災いして、付き合うのだって付き合ってからだって、克美を巻き込んで周りが結婚するのを驚くくらいに色々あった。
そんな俺たちの関係も結婚して、歳を経るごとに落ち着くもんだと思ったけれど、未だにあの頃と変わらずにイベントのあるなしに関わらずに克美が押しかけてきてワイワイと騒いでいる。
結婚して10年経ってもこんなだから、この関係は今後も変わる気配はない。
そんな物思いにふけりながら、鏡を見れば、少し増えたシワと共に顎の大分薄くなった傷が目に入る。
あん時、グレてなかったらもう少し落ち着いた関係だったのかもな…そんなありえないことを未だに考えちまうけれど、それも人生かもな…
さらに感傷的になっていると、
『寿!先飲んでるよ~』
「三井先輩、またトイレっすか?」
「今、行くって!」
友と克美の声に慌てて、リビングへと戻るとすでにシャンパンが注がれたグラスを渡された。
「「『かんぱーい!』」」
景気のいい音を鳴らして、深夜の誕生日会が始まる。
高校時代のこと、実家や仕事の近況、バスケ、ゲーム、テレビ番組…話題は尽きることなく、
『酔っぱらったから、寝る!』
そう宣言した友がフラフラと寝室へ行くまで誕生日会は続いた。
俺と克美とでざっと後片付けをして、寝室へ友の様子を見に行くと、先に様子を見ていた克美が、
「三井先輩、気付いてます?」
静かな声で俺に話しかけた。
「何がだよ?」
「友ねぇが、抱いて寝てる方のヤドンのぬいぐるみに三井先輩と同じ顎のとこに傷書いてあるんすよ…」
俺はそっと、友が抱いたまま寝たぬいぐるみをよく確認すると、確かに顎に傷らしき印がかかれている。
嬉しくなって、思わず頬が緩んしまうのを、克美に見られたくなくて、顎の傷をポリポリかいてごまかす。
「オレ、一生、三井先輩が友ねぇのこと幸せにしてるか見張ってますからね!」
「…心配すんなって。だから、おめえも良い人見つけろよ?」
「嫌だ!友ねぇ以上に良い女はいない…!」
今にも寝ている友に飛びつきそうになる克美を止めて、俺は伝える。
「友は、俺にもおまえにも愛されて…幸せもんだよな?」
「もちろんです!」
「俺らも寝るか?…って、ベッドに二体もあんなデカいぬいぐるみいたら、俺の寝る場所がねぇ…」
「オレ用の布団は貸しませんよ?」
「わーってるよ!」
克美は慣れた手つきでベッドの横に布団を準備し始める。
俺はソファーで寝るために、毛布を準備する。
おやすみを言おうとすると友は、
「ヤドン…可愛い…寿も…可愛い…」
むにゃむにゃと寝言を言っている友に目尻を下げる。
これからも、ずっと一緒に居てくれよな…
そう心の中で呟いて、顔をあげれば、克美と目が合う。
……こいつも、ずっと一緒か。
今日は大切な日だから、文句はほどほどにしておこう。
「じゃ、寝るぜ」
「友ねぇ、ヤドン…三井先輩もおやすみ」
「おう」
外が少し明るくなり始めた頃、俺達は眠りについた。
ヤドンと克美に押しつぶされ、友に大笑いされる夢を見てうなされたのは、俺だけの秘密だ。
***
2022.2.1.
Happy Birthday to 如月-sama!!
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