All I want for Christmas is you【三井寿】
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『はぁ~』
「何ため息ついてんだよ?」
私は肉を網に並べている三井くんの手元を見ながら、再度ため息をつく。
『何やってんだろ…私…』
「苗字…炎の男と呼ばれた俺が付いてるだろ!ほら、食えよ!」
程よく焼けた肉をお皿に取ってくれるけれど、私の気分は晴れない。
大卒で入社した会社で総合職として5年間、それなりに頑張って働いてきた。
そこそこ大きなプロジェクトにだって関わったりしてきたけれど、同期の男の子たちと同じ出世コースに乗ることが出来なかった。
ビールをちびりと舐めるように飲んで、三井くんの焼いてくれたお肉を口に運ぶ。
今日はクリスマスイブなのに、恋人でも何でもない高校から友人、三井寿と二人きり、いつも愚痴りあう小汚い焼肉屋にいる。
私自身は高1、2年とバスケ部のマネージャーで、高3は受験のためマネージャーはしっかり者の後輩に託したから、高3の春に不良になっていた三井くんがバスケ部に復帰して、しかもインターハイに出場すると聞いてめちゃくちゃ驚いた。
ちょっと自分タイミングの悪さに悔しさも感じつつも全国の舞台に挑戦するバスケ部を応援していた。
忙しくなったバスケ部のマネージャーの仕事を手伝っていたから、自然と三井くんとも関わりがあったけれど、同じクラスになったこともなければ特別仲が良いという訳でもなかったのに、大学、社会人となっても不思議と縁が切れず定期的に会う仲だ。
三井くんと二人きりでも変な気を使わなくていいし、三井くんは私が仕事で落ち込んでいるタイミングでいつも飲みに誘ってくれる貴重な友人だ。
もくもくと煙が立ち込める店内で、仕事のことばかり考えていても仕方ないことは分かってはいるけれど、ボーナスだって思ったように出なかったし、気分は落ち込むばかりだ。
「…ため息ばっかだな」
『三井くんは、悩み少なそうで羨ましい』
「バカヤロウ!俺だって、悩みの一つや二つくれぇ…」
『例えば?』
「上司が、赤木に似たやつでやりづれぇとか…」
『赤木くんみたいな上司、羨ましいねぇ~』
「後輩が宮城以上に生意気だとか…」
『宮城くんみたいってことはうるさいかもしれないけど、周りよく見てるし頼りになるね~』
「同期には結婚したやつがちらほら出始めたけど、俺は彼女もいねぇ…」
『それは私も一緒…クリスマスイブなのにね…はぁ…木暮くんの結婚式、素敵だったよね~』
「それから…」
『三井くんは、昔から仲間に恵まれるタイプだよ。羨ましくなっちゃうくらいに…』
「そんなことねぇって…」
『グレてた時だって、徳ちゃんがいたし、バスケ部に復帰した時には頼もしい仲間が増えてた。三井くんには人を惹きつける力があるんだよ…』
「いや…一番俺に惹かれて欲しいヤツには相手にもされてねぇよ…」
『そうなんだ!炎の男に惹かれない人って、誰?』
「……おめぇだよ…」
『は?私は三井寿のことめちゃくちゃイイ男だって思ってるって!グレてたけど…』
三井くんとの会話に少し元気が出てきた私はビールのジョッキをグイっとあおる。
そして、『もらいっ』とちょっと焦げ始めた肉を全部自分のお皿に取った。
文句を言われるかと思ったけれど、三井くんは真剣な顔して私を見つめている。
『どうしたの?』
三井くんは、真剣な表情のままグイっとビールを飲み干した。
そして、ふーっと息を吐くと、
「こんだけ一緒に居るのに、何で気付いてくんねぇんだよ…」
『どういうこと?』
「おまえのこと、好きだっつったつもりなんだけど…」
『はぁ?』
突然の告白に私は訳が分からなくなって、残っていたビールを飲み干して、
『おばちゃん、生二つ!』
とりあえず、ビールを頼んだ。
三井くんは、顎の傷を落ち着きなくさわりながら視線を落とす。
私も何だか落ち着かなくて、いつもは三井くんにまかせっきりのお肉のトングに手を伸ばしてみたら、三井くんとタイミングが被って、意図せず手が触れ合ってしまう。
『あっ…』「うおっ…」
お互い手を引っ込めれば、また気まずい空気が流れる。
「はいよっ!」
そんな空気を打ち消すようにおばちゃんがビールを運んで来て、全てはお見通しとばかりにニヤリと笑った。
『ありがとー』
どう取り繕ってみても、わざとらしいという言葉がぴったりな表情をしていただろう。
何か言いたげなおばちゃんに、今は何か言うどころじゃなくて、
『さ、三井くん飲も飲も!』
と、ぐびぐびとビールを喉に流し込む。
キンキンに冷えたビールが心地よく身体を冷やしてくれればいいけれど、ドキドキとうるさく音を立てる心臓を落ち着かせてくれる効果は薄いようで、アルコールのせいかさらにかっと熱くなる。
目線をあげればその原因を作った三井寿本人が…
「悪かったな…」
『謝らないでよ…』
三井くんは、ジョッキを持ってゴクリと一口飲んで、ガンっとテーブルに置いた。
「でもよ、俺は諦めの悪い男だ!」
『あっ…でた!そのセリフ!!』
「苗字名前のこと、俺はぜってー諦めねぇ!」
『……っ…声大きいって…』
まばらにいるお客さんからもちらちらと視線を感じる。
まさか諦め悪い男が好きになる女性が私だなんて想像すらしたことの無かった私は、未だ混乱している。
もちろん、三井くんに好意を寄せられて、嫌だという気持ちは微塵もないけれど、嬉しいと素直に思う余裕は、ない…
今まで、友人というより仲間、同士という言葉がぴったり来ると思っていた間柄だったのに、そこからいきなり恋人という関係になるなんてのは青天の霹靂だ。
それにしても、私はどうして今まで男と女という間柄なのに恋人になるという考えに至らなかったのだろうか?
そういう想像をしていなかった自分にも腹が立ってくる。
「で、どうなんだよ?俺とその…つ、付き合う…気があるかどうか…?」
『ごめん!』
「……だよな。でも、諦めねえぜ?」
『そういう意味じゃなくって…その、三井くんと付き合うって考えたことなくて、混乱してる…』
正直な気持ちを吐露すれば、三井くんはニカッと笑った。
「それじゃあ、何事も練習が必要だ!今日は俺ん家、泊りな!!」
『はぁ?』
「安西先生も基礎が大事って言ってただろ?」
『意味わかんない…』
「分かんなくていいから決まりでいいか?」
強引に決めてくる三井くんに私は戸惑いを隠せないまま、ビールのジョッキを握りしめてコクリと頷いた。
その後のお店でのことは、正直どこか他人事のように流れていく。
三井くんがてきぱきと残りのお肉を焼いて、それを食べ終わったと思ったら、三井くんはさっさとお会計を済ませてて…
急かすようにコートを羽織らされ、店を出る時ようとしたところで、
「逃がすんじゃないよ!」
って、焼肉屋のおばちゃんに三井くんが声をかけたのを聞いて、猛烈に恥ずかしくなって急いで外に出た。
「うっす!」
三井くんは親指をたてて嬉しそうに返事をしている。
冬の夜風の冷たさにううっと身を縮こまらせるけれど、ドキドキしているからマフラーを巻かないくらいがちょうどいい。
「寒いから早く俺ん家行くぜ!」
三井くんは、嬉しそうにどかどかと歩き始めた。
街ののきらびやかなイルミネーションよりも、道行くカップルばかりが目につく。
皆、二人きりの世界にいるから私たちのことを気にかける人たちなんていないのだろうけれど、私たちもああいう風に見えているんだろうか?
焼き肉の煙をまとって聖なる夜に街を歩くカップルなんていないから、やっぱり私達はただの友達だよね…って思いたいけれど、三井くんの気持ちを知ってしまった今、元通りの関係に戻ることは難しい。
正直、まだ付き合うかどうか決められない状況の私だけれど、三井くんは私の領域にどんどん入り込んできている。
もう、友達という関係には戻れない…かといって、恋人同士になるには私の覚悟がまだ足りない…
頭の中をぐるぐると考えてみても、すぐに結論は出なくて、いつもならほろ酔いの帰り道も三井くんに着いて歩いているうちにどんどん頭がクリアになってくる。
家についていったら、私の知らない三井くんの顔を見せられるのかな…
友達じゃなく男としての顔を…
そんなことまで考えてしまった自分の顔を誰かに見られるのが恥ずかしくて、慌ててマフラーを巻いて鼻までうずめた。
「泊まるんなら、色々いるだろ?酒とかつまむもんも買ってこーぜ」
三井くんが立ち止まったのは大きめのドラッグストアだった。
『…三井くん、女の子誘いなれてる?』
ちょっともやっとした気持ちの混じった気持ちで聞いてみれば、
「んなワケねぇだろ…」
『ふーん…』
深くは聞かないけれど、この年まで女の子と付き合ったことがない方が心配だし、それなりに経験もあるのだと思うことにする。
「言っとくけど、女を俺ん家あげんのは、始めてだかんな…」
ぼそっとつぶやく三井くんのセリフに、
『私が初めてってこと…?』
「おう…」
高校生じゃあるまいし、こんな初々しい展開を望んだわけでもないのに妙に緊張して、ドキドキしながらドラッグストアで旅行用のメイク落としなんかを吟味しようとすると、
「また来るんだから、家に置いといていいんだぜ…」
三井くんはまた一歩、私の心の中に踏み込んでくる。
今日だけじゃなくて2回目、3回目もあるんだ…
付き合うという決心は出来ないけれど、自分が三井くんの家にまた遊びにいくという想像は容易に出来たから、旅行用の割高のものをやめて、いつも使っている化粧落とし、化粧水、シャンプーやコンディショナーもかごに入れる。
ビールのある冷蔵ショーケースに向かう途中に、コンドームのコーナーが目に入ってドキッとするけれど、三井くんは何も言わないから、私もドキドキしながら素通りした。
ビールとチューハイ、それぞれに好きなお菓子も買ってレジまで行くと、また三井くんが払ってくれて、荷物持ちまでしてくれる。
ドラッグストアを出て、
『ありがとう』
お礼を言えば、三井くんは少し迷ったような照れくさそうな表情で、
「寒いだろ…手、繋いでいいか?」
かつて3Pシュートを綺麗に決めていた手を差し出した。
手を繋ぐくらいならいいかな…
私は返事をする代わりに三井くんの手にそっと手を重ねた。
私の手はすぐにぎゅっと握られて、三井くんにぐっと引っ張られる。
『ちょっと…』
「悪ぃ…嬉しくて、つい…」
三井くんの少し後ろを手をつないだまま歩く。
街のいたるところにあるイルミネーションが綺麗だとかそんな風に感じる余裕もなく、三井くんの手のひらから伝わる熱だけを感じているうちに、三井くんのマンションに着いた。
三井くんはガチャガチャと扉を開けて、「どーぞ」と中へ入るよう促してくれる。
その言葉に、私は覚悟した。
この扉をくぐって三井くんの領域へ進めば、もう後戻りは出来ない。
『…お邪魔します』
暗い部屋へと私は一歩を踏み出した。
「よかった…」
三井くんのほっとした声が聞こえる。
私たちの関係は、今日ここからまた新たに始まる。
クリスマスがさらに特別な日に変わるまでもう少し…
***
2021.12.24. Merry Christmas!
Thank you for Request from あおのり-sama!
こぼれ話→All I want for Christmas is you【三井寿】
「何ため息ついてんだよ?」
私は肉を網に並べている三井くんの手元を見ながら、再度ため息をつく。
『何やってんだろ…私…』
「苗字…炎の男と呼ばれた俺が付いてるだろ!ほら、食えよ!」
程よく焼けた肉をお皿に取ってくれるけれど、私の気分は晴れない。
大卒で入社した会社で総合職として5年間、それなりに頑張って働いてきた。
そこそこ大きなプロジェクトにだって関わったりしてきたけれど、同期の男の子たちと同じ出世コースに乗ることが出来なかった。
ビールをちびりと舐めるように飲んで、三井くんの焼いてくれたお肉を口に運ぶ。
今日はクリスマスイブなのに、恋人でも何でもない高校から友人、三井寿と二人きり、いつも愚痴りあう小汚い焼肉屋にいる。
私自身は高1、2年とバスケ部のマネージャーで、高3は受験のためマネージャーはしっかり者の後輩に託したから、高3の春に不良になっていた三井くんがバスケ部に復帰して、しかもインターハイに出場すると聞いてめちゃくちゃ驚いた。
ちょっと自分タイミングの悪さに悔しさも感じつつも全国の舞台に挑戦するバスケ部を応援していた。
忙しくなったバスケ部のマネージャーの仕事を手伝っていたから、自然と三井くんとも関わりがあったけれど、同じクラスになったこともなければ特別仲が良いという訳でもなかったのに、大学、社会人となっても不思議と縁が切れず定期的に会う仲だ。
三井くんと二人きりでも変な気を使わなくていいし、三井くんは私が仕事で落ち込んでいるタイミングでいつも飲みに誘ってくれる貴重な友人だ。
もくもくと煙が立ち込める店内で、仕事のことばかり考えていても仕方ないことは分かってはいるけれど、ボーナスだって思ったように出なかったし、気分は落ち込むばかりだ。
「…ため息ばっかだな」
『三井くんは、悩み少なそうで羨ましい』
「バカヤロウ!俺だって、悩みの一つや二つくれぇ…」
『例えば?』
「上司が、赤木に似たやつでやりづれぇとか…」
『赤木くんみたいな上司、羨ましいねぇ~』
「後輩が宮城以上に生意気だとか…」
『宮城くんみたいってことはうるさいかもしれないけど、周りよく見てるし頼りになるね~』
「同期には結婚したやつがちらほら出始めたけど、俺は彼女もいねぇ…」
『それは私も一緒…クリスマスイブなのにね…はぁ…木暮くんの結婚式、素敵だったよね~』
「それから…」
『三井くんは、昔から仲間に恵まれるタイプだよ。羨ましくなっちゃうくらいに…』
「そんなことねぇって…」
『グレてた時だって、徳ちゃんがいたし、バスケ部に復帰した時には頼もしい仲間が増えてた。三井くんには人を惹きつける力があるんだよ…』
「いや…一番俺に惹かれて欲しいヤツには相手にもされてねぇよ…」
『そうなんだ!炎の男に惹かれない人って、誰?』
「……おめぇだよ…」
『は?私は三井寿のことめちゃくちゃイイ男だって思ってるって!グレてたけど…』
三井くんとの会話に少し元気が出てきた私はビールのジョッキをグイっとあおる。
そして、『もらいっ』とちょっと焦げ始めた肉を全部自分のお皿に取った。
文句を言われるかと思ったけれど、三井くんは真剣な顔して私を見つめている。
『どうしたの?』
三井くんは、真剣な表情のままグイっとビールを飲み干した。
そして、ふーっと息を吐くと、
「こんだけ一緒に居るのに、何で気付いてくんねぇんだよ…」
『どういうこと?』
「おまえのこと、好きだっつったつもりなんだけど…」
『はぁ?』
突然の告白に私は訳が分からなくなって、残っていたビールを飲み干して、
『おばちゃん、生二つ!』
とりあえず、ビールを頼んだ。
三井くんは、顎の傷を落ち着きなくさわりながら視線を落とす。
私も何だか落ち着かなくて、いつもは三井くんにまかせっきりのお肉のトングに手を伸ばしてみたら、三井くんとタイミングが被って、意図せず手が触れ合ってしまう。
『あっ…』「うおっ…」
お互い手を引っ込めれば、また気まずい空気が流れる。
「はいよっ!」
そんな空気を打ち消すようにおばちゃんがビールを運んで来て、全てはお見通しとばかりにニヤリと笑った。
『ありがとー』
どう取り繕ってみても、わざとらしいという言葉がぴったりな表情をしていただろう。
何か言いたげなおばちゃんに、今は何か言うどころじゃなくて、
『さ、三井くん飲も飲も!』
と、ぐびぐびとビールを喉に流し込む。
キンキンに冷えたビールが心地よく身体を冷やしてくれればいいけれど、ドキドキとうるさく音を立てる心臓を落ち着かせてくれる効果は薄いようで、アルコールのせいかさらにかっと熱くなる。
目線をあげればその原因を作った三井寿本人が…
「悪かったな…」
『謝らないでよ…』
三井くんは、ジョッキを持ってゴクリと一口飲んで、ガンっとテーブルに置いた。
「でもよ、俺は諦めの悪い男だ!」
『あっ…でた!そのセリフ!!』
「苗字名前のこと、俺はぜってー諦めねぇ!」
『……っ…声大きいって…』
まばらにいるお客さんからもちらちらと視線を感じる。
まさか諦め悪い男が好きになる女性が私だなんて想像すらしたことの無かった私は、未だ混乱している。
もちろん、三井くんに好意を寄せられて、嫌だという気持ちは微塵もないけれど、嬉しいと素直に思う余裕は、ない…
今まで、友人というより仲間、同士という言葉がぴったり来ると思っていた間柄だったのに、そこからいきなり恋人という関係になるなんてのは青天の霹靂だ。
それにしても、私はどうして今まで男と女という間柄なのに恋人になるという考えに至らなかったのだろうか?
そういう想像をしていなかった自分にも腹が立ってくる。
「で、どうなんだよ?俺とその…つ、付き合う…気があるかどうか…?」
『ごめん!』
「……だよな。でも、諦めねえぜ?」
『そういう意味じゃなくって…その、三井くんと付き合うって考えたことなくて、混乱してる…』
正直な気持ちを吐露すれば、三井くんはニカッと笑った。
「それじゃあ、何事も練習が必要だ!今日は俺ん家、泊りな!!」
『はぁ?』
「安西先生も基礎が大事って言ってただろ?」
『意味わかんない…』
「分かんなくていいから決まりでいいか?」
強引に決めてくる三井くんに私は戸惑いを隠せないまま、ビールのジョッキを握りしめてコクリと頷いた。
その後のお店でのことは、正直どこか他人事のように流れていく。
三井くんがてきぱきと残りのお肉を焼いて、それを食べ終わったと思ったら、三井くんはさっさとお会計を済ませてて…
急かすようにコートを羽織らされ、店を出る時ようとしたところで、
「逃がすんじゃないよ!」
って、焼肉屋のおばちゃんに三井くんが声をかけたのを聞いて、猛烈に恥ずかしくなって急いで外に出た。
「うっす!」
三井くんは親指をたてて嬉しそうに返事をしている。
冬の夜風の冷たさにううっと身を縮こまらせるけれど、ドキドキしているからマフラーを巻かないくらいがちょうどいい。
「寒いから早く俺ん家行くぜ!」
三井くんは、嬉しそうにどかどかと歩き始めた。
街ののきらびやかなイルミネーションよりも、道行くカップルばかりが目につく。
皆、二人きりの世界にいるから私たちのことを気にかける人たちなんていないのだろうけれど、私たちもああいう風に見えているんだろうか?
焼き肉の煙をまとって聖なる夜に街を歩くカップルなんていないから、やっぱり私達はただの友達だよね…って思いたいけれど、三井くんの気持ちを知ってしまった今、元通りの関係に戻ることは難しい。
正直、まだ付き合うかどうか決められない状況の私だけれど、三井くんは私の領域にどんどん入り込んできている。
もう、友達という関係には戻れない…かといって、恋人同士になるには私の覚悟がまだ足りない…
頭の中をぐるぐると考えてみても、すぐに結論は出なくて、いつもならほろ酔いの帰り道も三井くんに着いて歩いているうちにどんどん頭がクリアになってくる。
家についていったら、私の知らない三井くんの顔を見せられるのかな…
友達じゃなく男としての顔を…
そんなことまで考えてしまった自分の顔を誰かに見られるのが恥ずかしくて、慌ててマフラーを巻いて鼻までうずめた。
「泊まるんなら、色々いるだろ?酒とかつまむもんも買ってこーぜ」
三井くんが立ち止まったのは大きめのドラッグストアだった。
『…三井くん、女の子誘いなれてる?』
ちょっともやっとした気持ちの混じった気持ちで聞いてみれば、
「んなワケねぇだろ…」
『ふーん…』
深くは聞かないけれど、この年まで女の子と付き合ったことがない方が心配だし、それなりに経験もあるのだと思うことにする。
「言っとくけど、女を俺ん家あげんのは、始めてだかんな…」
ぼそっとつぶやく三井くんのセリフに、
『私が初めてってこと…?』
「おう…」
高校生じゃあるまいし、こんな初々しい展開を望んだわけでもないのに妙に緊張して、ドキドキしながらドラッグストアで旅行用のメイク落としなんかを吟味しようとすると、
「また来るんだから、家に置いといていいんだぜ…」
三井くんはまた一歩、私の心の中に踏み込んでくる。
今日だけじゃなくて2回目、3回目もあるんだ…
付き合うという決心は出来ないけれど、自分が三井くんの家にまた遊びにいくという想像は容易に出来たから、旅行用の割高のものをやめて、いつも使っている化粧落とし、化粧水、シャンプーやコンディショナーもかごに入れる。
ビールのある冷蔵ショーケースに向かう途中に、コンドームのコーナーが目に入ってドキッとするけれど、三井くんは何も言わないから、私もドキドキしながら素通りした。
ビールとチューハイ、それぞれに好きなお菓子も買ってレジまで行くと、また三井くんが払ってくれて、荷物持ちまでしてくれる。
ドラッグストアを出て、
『ありがとう』
お礼を言えば、三井くんは少し迷ったような照れくさそうな表情で、
「寒いだろ…手、繋いでいいか?」
かつて3Pシュートを綺麗に決めていた手を差し出した。
手を繋ぐくらいならいいかな…
私は返事をする代わりに三井くんの手にそっと手を重ねた。
私の手はすぐにぎゅっと握られて、三井くんにぐっと引っ張られる。
『ちょっと…』
「悪ぃ…嬉しくて、つい…」
三井くんの少し後ろを手をつないだまま歩く。
街のいたるところにあるイルミネーションが綺麗だとかそんな風に感じる余裕もなく、三井くんの手のひらから伝わる熱だけを感じているうちに、三井くんのマンションに着いた。
三井くんはガチャガチャと扉を開けて、「どーぞ」と中へ入るよう促してくれる。
その言葉に、私は覚悟した。
この扉をくぐって三井くんの領域へ進めば、もう後戻りは出来ない。
『…お邪魔します』
暗い部屋へと私は一歩を踏み出した。
「よかった…」
三井くんのほっとした声が聞こえる。
私たちの関係は、今日ここからまた新たに始まる。
クリスマスがさらに特別な日に変わるまでもう少し…
***
2021.12.24. Merry Christmas!
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こぼれ話→All I want for Christmas is you【三井寿】
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