瞳に映るさやけさ【三井寿】
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「バカヤロウ!」
ミッチーは私の服を引っ張って、安全な歩道側を歩くよう促す。
『もう…その言い方!』
「あぶなっかしーんだよ!」
『…ごめん』
「…今日はやけに素直じゃねーか?」
湘北高校前の道路は、歩道がないけれど抜け道になっているからか車が多く、危ない。
いつも帰りが一緒の時は、嬉しくてはしゃぐ私をミッチーは悪態をつきながらも歩道側に導いてくれる。
もうすぐミッチーは卒業するから、この通学路を一緒に歩くのも、もう数えるほどしかない。
そんなことを考えるとしんみりしてしまう。
ミッチーを初めて見た日のことは鮮明に覚えている。
ーそれは、梅雨の晴れ間の蒸し暑い日。
湘北高校に入学して出来た友達に誘われて、バスケ部の練習を見学に行き、遠くからリングに吸い込まれるようにシュートを決める彼に一目惚れした。
その日の練習が終わるのを待ち伏せして、まだ三井という苗字しか知らなかったけれど、
『先輩、一目惚れしました!好きです!』
って、勢いで告白した。
「嬉しいけどよ…おまえのことよく知らねーし、もっとふさわしい男がいるんじゃねーの?」
その場で呆れたようにミッチーに断られたけど、私はすぐに諦めるなんてことは出来ずに、
『三井先輩じゃなくちゃダメなんです!先輩に彼女がいたとしても、諦めるなんて出来そうにありません!』
「彼女はいねぇけど…俺は今、バスケが恋人っつーか…」
『バスケの次でも良いです!これから毎日、会いに来ますから!』
「…好きにしろ」
こうして、三井先輩のことを私は追っかけるようになった。
最初は「またかよ…!」ってそっけない態度をとられることもあったけれど、付きまとっているうちに隣にいても何も言われないようになった。
同じクラスの桜木くんがミッチーって呼んでるのをマネして、ミッチー呼んでもいつの間にか怒られなくなって…
少しずつ距離を縮めてきたけれど、いつも『好き』や『彼女にして欲しい』って伝えても、
「バカヤロウ。そういうこと軽々しく言うな!」
って怒られるだけで、ミッチーの気持ちは聞けないままだ。
ミッチーは、グレて、バスケ部を潰そうとした時のことめちゃくちゃ反省しているみたいだけど、そんなこと私にはこれっぽっちも関係ないし、恋愛をしちゃいけないなんて決まりはあるはずはない。
ミッチーは何だかんだ言いながらも、背も高いし口も悪い私のことを女の子扱いしてくれるし、ちょっと抜けてるとこがあるけど真面目だし、バスケをする姿はめちゃくちゃ格好いいし…
ミッチーのことを知れば知るほど、私ばっかりが大好きになっているけど、ミッチーにとって私はちょっと生意気な後輩という存在なのかもしれない。
このまま手のかかる妹みたいな存在のまま、ミッチーが卒業してお別れのがたまらなく寂しい。
いつもはあーでもない、こーでもないって喧嘩みたいな会話をポンポンと交わせるのに、もうすぐミッチーが卒業だって考えるだけで鼻の奥がツーンとする。
ミッチーの少し後ろをとぼとぼ歩いていると、
「何かあったのか?」
そう言って、頭をくしゃくしゃっと撫でられた。
「如月が元気ねーと、調子狂うだろ…」
顔を覗き込まれてやや強引に目を合わせられれば、またはぐらかされるのを分かっていても、好きって言葉を伝えずにはいられない。
『ミッチーのこと、大好き。好きすぎる自分が嫌になる…』
いつもみたいに、「バカヤロウ」って笑って返されると思っていたけれど、今日は違うみたいだ。
「あー、もう!何か調子狂うな!」
頭をガシガシと掻いて、ミッチーは私に背を向けた。
まだまだ寒い夕暮れ時の夕日に照らされて、ミッチーの背中と影がくっきりと浮かぶ。
もしかしたら、さようならって言われちゃうんじゃないかと身構えれば、さっきまでちゃんと目に映っていたミッチーの背中が涙で霞む。
『このまま…お別れなんて…やだよ…』
涙を見られたくなくて俯いて、何とか絞りだしたセリフは、ミッチーに届いたかな…
「…バカヤロウ」
冷たい風に乗ってぽつりと聞こえたその言葉の後に続いて、
「俺だって、如月と離れたくねえって思ってるっつーの…」
ミッチーは私の方に振り向いて、照れくさそうに笑ってくれた。
ゆっくりとミッチーが私の方に歩みよってくる。
「好きだ…」
初めて言われたその言葉に驚いて、私はいつも伝えているはずの好きの二文字が喉に突っかかって出てこない。
ミッチーの瞳には私の姿だけがくっきりと映し出されていて、心臓はバクバクとますます大きな音を立てる。
そして、夕日に照らさせた二人の影がゆっくりと重なった。
***
2021.10.23.
Thank you for 如月sama request!
Title by 群青淡雪
こぼれ話→瞳に映るさやけさ【三井寿】
ミッチーは私の服を引っ張って、安全な歩道側を歩くよう促す。
『もう…その言い方!』
「あぶなっかしーんだよ!」
『…ごめん』
「…今日はやけに素直じゃねーか?」
湘北高校前の道路は、歩道がないけれど抜け道になっているからか車が多く、危ない。
いつも帰りが一緒の時は、嬉しくてはしゃぐ私をミッチーは悪態をつきながらも歩道側に導いてくれる。
もうすぐミッチーは卒業するから、この通学路を一緒に歩くのも、もう数えるほどしかない。
そんなことを考えるとしんみりしてしまう。
ミッチーを初めて見た日のことは鮮明に覚えている。
ーそれは、梅雨の晴れ間の蒸し暑い日。
湘北高校に入学して出来た友達に誘われて、バスケ部の練習を見学に行き、遠くからリングに吸い込まれるようにシュートを決める彼に一目惚れした。
その日の練習が終わるのを待ち伏せして、まだ三井という苗字しか知らなかったけれど、
『先輩、一目惚れしました!好きです!』
って、勢いで告白した。
「嬉しいけどよ…おまえのことよく知らねーし、もっとふさわしい男がいるんじゃねーの?」
その場で呆れたようにミッチーに断られたけど、私はすぐに諦めるなんてことは出来ずに、
『三井先輩じゃなくちゃダメなんです!先輩に彼女がいたとしても、諦めるなんて出来そうにありません!』
「彼女はいねぇけど…俺は今、バスケが恋人っつーか…」
『バスケの次でも良いです!これから毎日、会いに来ますから!』
「…好きにしろ」
こうして、三井先輩のことを私は追っかけるようになった。
最初は「またかよ…!」ってそっけない態度をとられることもあったけれど、付きまとっているうちに隣にいても何も言われないようになった。
同じクラスの桜木くんがミッチーって呼んでるのをマネして、ミッチー呼んでもいつの間にか怒られなくなって…
少しずつ距離を縮めてきたけれど、いつも『好き』や『彼女にして欲しい』って伝えても、
「バカヤロウ。そういうこと軽々しく言うな!」
って怒られるだけで、ミッチーの気持ちは聞けないままだ。
ミッチーは、グレて、バスケ部を潰そうとした時のことめちゃくちゃ反省しているみたいだけど、そんなこと私にはこれっぽっちも関係ないし、恋愛をしちゃいけないなんて決まりはあるはずはない。
ミッチーは何だかんだ言いながらも、背も高いし口も悪い私のことを女の子扱いしてくれるし、ちょっと抜けてるとこがあるけど真面目だし、バスケをする姿はめちゃくちゃ格好いいし…
ミッチーのことを知れば知るほど、私ばっかりが大好きになっているけど、ミッチーにとって私はちょっと生意気な後輩という存在なのかもしれない。
このまま手のかかる妹みたいな存在のまま、ミッチーが卒業してお別れのがたまらなく寂しい。
いつもはあーでもない、こーでもないって喧嘩みたいな会話をポンポンと交わせるのに、もうすぐミッチーが卒業だって考えるだけで鼻の奥がツーンとする。
ミッチーの少し後ろをとぼとぼ歩いていると、
「何かあったのか?」
そう言って、頭をくしゃくしゃっと撫でられた。
「如月が元気ねーと、調子狂うだろ…」
顔を覗き込まれてやや強引に目を合わせられれば、またはぐらかされるのを分かっていても、好きって言葉を伝えずにはいられない。
『ミッチーのこと、大好き。好きすぎる自分が嫌になる…』
いつもみたいに、「バカヤロウ」って笑って返されると思っていたけれど、今日は違うみたいだ。
「あー、もう!何か調子狂うな!」
頭をガシガシと掻いて、ミッチーは私に背を向けた。
まだまだ寒い夕暮れ時の夕日に照らされて、ミッチーの背中と影がくっきりと浮かぶ。
もしかしたら、さようならって言われちゃうんじゃないかと身構えれば、さっきまでちゃんと目に映っていたミッチーの背中が涙で霞む。
『このまま…お別れなんて…やだよ…』
涙を見られたくなくて俯いて、何とか絞りだしたセリフは、ミッチーに届いたかな…
「…バカヤロウ」
冷たい風に乗ってぽつりと聞こえたその言葉の後に続いて、
「俺だって、如月と離れたくねえって思ってるっつーの…」
ミッチーは私の方に振り向いて、照れくさそうに笑ってくれた。
ゆっくりとミッチーが私の方に歩みよってくる。
「好きだ…」
初めて言われたその言葉に驚いて、私はいつも伝えているはずの好きの二文字が喉に突っかかって出てこない。
ミッチーの瞳には私の姿だけがくっきりと映し出されていて、心臓はバクバクとますます大きな音を立てる。
そして、夕日に照らさせた二人の影がゆっくりと重なった。
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2021.10.23.
Thank you for 如月sama request!
Title by 群青淡雪
こぼれ話→瞳に映るさやけさ【三井寿】
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