東京【土屋淳】
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六畳半、東京の一人暮らしではありきたりな広さの部屋やけど、セミダブルのベッドが置かれた部屋は狭い。
昨日は、僕の家で呑もうと彼女と簡単に料理を作って、お互いに足がおぼつかなくなるまで気持ちのええ酒を呑んで…
お互い自然に唇を重ねて、ベッドにそっと押し倒したとこで彼女がそのまま寝てしもうて、俺も彼女のぬくもりを感じたまま、目を閉じた。
心地よい夢を見れるはずが…
身体が嫌な汗でじっとりと汗ばむほどの悪夢を見て目が覚めた。
夜中にぼんやりと開いた目に映るのは、ローテーブルの上に放置した呑みかけのチューハイの缶。
隣で静かな寝息を立てて眠る彼女がいるのに、世界で俺一人っきりのような気持ちになる…
――こんな気持ちになるんは、さっき見た悪夢のせいや。
その夢は、物心ついた頃から走馬灯のように駆け足で始まった。
大阪では、小学生の頃からスポーツだって勉強だってクラスで一番出来て、女の子にはカッコいいって言われて育ってきた。
「あっくん、かっこええなぁ!」
こんな言葉をかけられるのは、特別でも何でもなくて、俺はいつもかっこええ土屋淳やった。
中・高とバスケ部で活躍して、順風満帆、東京の有名大学に推薦で入学を決め、意気揚々と上京したはずやった。
やけど、東京の大学では、
「僕、バスケ部主将としてインターハイまで出たんやで!」
って自慢しても、
「そうなんだ。すごいね~」
なんて、冷めた目で表面的な言葉が返ってくるだけで、大阪のノリも通用せんくて空回りばかりやった。
バスケ部の練習、大学の授業、一人暮らしの家事…思ってたんの何倍も大変で四苦八苦した。
勉強も運動もできるかっこええ土屋淳なんていう存在を知る人は東京にはおらんし、かっこええ土屋淳をお披露目する場所もないんか…とスタメンになれないことを恨めしく思うようにもなった。
東京には、何でもあると思ってたんやけど、思ってたんと違って何か寂しくて…
そんな中で出会ったんが、隣に眠る文美。
出会っていきなり、
『その目が好き…』
なんて訳の分からんこと言うて、俺の部屋へ上がりこんだ。
『一人暮らし始めたばっか?』
戸惑う僕に嬉しそうに声をかけて、部屋を物色しながら、おかんみたいにてきぱきと片付けると、
『…寂しかった?』
僕の心を見透かしたように微笑みかけてきた。
「はぁ?」
完全にペースを乱されて、初めて会った女に寂しかった?なんて聞かれて素直に甘えられるほど僕は弱いわけあらへん。
「用事済んだなら…」
出てってやと言おうとした僕の口を女の唇によってふさがれた。
目を見開いて、女の表情を確認しようにも、誘うように何度も角度を変えて唇が重ねられる。
そのふにゃっと温かい唇、ふわりと髪から香る優しい匂いがだんだんと心地よくなってきて、僕も彼女に答えるように深く唇を重ね返した。
どんだけキスをし続けていたかなんて分からへんけれど、頭ん中がふわふわしてなんも考えれんようになってきたところで、ぴちゃりと音を立てて唇が離れた。
「文美……」
「…?」
『名前だよ…あっくんだよね?』
「文美…」
僕が名前を呼べば、キスで艶めかしく濡れた唇がにこりと綺麗に笑った。
何で名前を知っているのか確認する間もなく、文美は僕を押し倒すようにベッドへと倒れこんだ。
そこから先は、記憶が吹っ飛んでしまうくらいに夢中で、東京に出てきてからの寂しい気持ちをぶつけるように夢中で文美の身体を求めた。
これで満たされる…
もう、寂しいなんて気持ちにならんでもええ…
そう思った次の日の朝、起きたら文美は跡形もなく消えさっていた。
部屋のどこを探しても、服やかばんはもちろん、靴だって見つからへん。
電球が切れて明かりのつかない薄暗い部屋に一人、いてもたってもいられんくて、部屋を飛び出した。
どこを探しても、誰に聞いても、文美の存在を知る人はおらん。
「文美…!」
彼女の名前を呼ぶと、周りにいたはずの人間が、ぽつりまたぽつりと消えていく…
大きな声で、声の限りに叫べば叫ぶほど、周りにあった建物まで消え始めて…
最後は、僕の足元まで崩れ去った…
――そんな現実が入り混じった悪夢。
起き上がって、カーテンを閉め忘れた窓の外を見れば、きらびやかな東京の街のネオンとぼんやりとした俺の姿が映し出される。
小さい時は、明日世界が終わってまうんやないかって寝れない日もあったんやっけ…なんてことまで思い出してしもうて、ぶるっと小さく身震いをした。
文美にすがりつきたいのをこらえて、頬を撫でてそのぬくもりに心底安心する。
文美がいるから大丈夫や…
窓から漏れる明かりを頼りにキッチンに行って、蛇口から直接水を飲んだ。
いくらかスッキリした頭で、文美の元に戻って、今度は唇をなぞるように撫でた。
「俺のこと、置いていかんでな…」
『あっくん…』
ふふっと嬉しそうに笑った文美にこの情けない言葉を聞かれたんやないかとドキッとする。
けれど、すーすーと寝息を立てて起きる気配はないことにほっとする。
その幸せそうな寝顔に、こいつは幸せな夢、見とるんやなと笑みが漏れた。
東京に何にもなくてもええ、文美さえおれば…
僕のそんな気持ちを見透かしたように、文美はまたふふっと笑って寝返りを打った。
***
2021.9.15. 土屋祭り
Inspired by yam/a「春を告/げる」
こぼれ話→東京【土屋淳】
昨日は、僕の家で呑もうと彼女と簡単に料理を作って、お互いに足がおぼつかなくなるまで気持ちのええ酒を呑んで…
お互い自然に唇を重ねて、ベッドにそっと押し倒したとこで彼女がそのまま寝てしもうて、俺も彼女のぬくもりを感じたまま、目を閉じた。
心地よい夢を見れるはずが…
身体が嫌な汗でじっとりと汗ばむほどの悪夢を見て目が覚めた。
夜中にぼんやりと開いた目に映るのは、ローテーブルの上に放置した呑みかけのチューハイの缶。
隣で静かな寝息を立てて眠る彼女がいるのに、世界で俺一人っきりのような気持ちになる…
――こんな気持ちになるんは、さっき見た悪夢のせいや。
その夢は、物心ついた頃から走馬灯のように駆け足で始まった。
大阪では、小学生の頃からスポーツだって勉強だってクラスで一番出来て、女の子にはカッコいいって言われて育ってきた。
「あっくん、かっこええなぁ!」
こんな言葉をかけられるのは、特別でも何でもなくて、俺はいつもかっこええ土屋淳やった。
中・高とバスケ部で活躍して、順風満帆、東京の有名大学に推薦で入学を決め、意気揚々と上京したはずやった。
やけど、東京の大学では、
「僕、バスケ部主将としてインターハイまで出たんやで!」
って自慢しても、
「そうなんだ。すごいね~」
なんて、冷めた目で表面的な言葉が返ってくるだけで、大阪のノリも通用せんくて空回りばかりやった。
バスケ部の練習、大学の授業、一人暮らしの家事…思ってたんの何倍も大変で四苦八苦した。
勉強も運動もできるかっこええ土屋淳なんていう存在を知る人は東京にはおらんし、かっこええ土屋淳をお披露目する場所もないんか…とスタメンになれないことを恨めしく思うようにもなった。
東京には、何でもあると思ってたんやけど、思ってたんと違って何か寂しくて…
そんな中で出会ったんが、隣に眠る文美。
出会っていきなり、
『その目が好き…』
なんて訳の分からんこと言うて、俺の部屋へ上がりこんだ。
『一人暮らし始めたばっか?』
戸惑う僕に嬉しそうに声をかけて、部屋を物色しながら、おかんみたいにてきぱきと片付けると、
『…寂しかった?』
僕の心を見透かしたように微笑みかけてきた。
「はぁ?」
完全にペースを乱されて、初めて会った女に寂しかった?なんて聞かれて素直に甘えられるほど僕は弱いわけあらへん。
「用事済んだなら…」
出てってやと言おうとした僕の口を女の唇によってふさがれた。
目を見開いて、女の表情を確認しようにも、誘うように何度も角度を変えて唇が重ねられる。
そのふにゃっと温かい唇、ふわりと髪から香る優しい匂いがだんだんと心地よくなってきて、僕も彼女に答えるように深く唇を重ね返した。
どんだけキスをし続けていたかなんて分からへんけれど、頭ん中がふわふわしてなんも考えれんようになってきたところで、ぴちゃりと音を立てて唇が離れた。
「文美……」
「…?」
『名前だよ…あっくんだよね?』
「文美…」
僕が名前を呼べば、キスで艶めかしく濡れた唇がにこりと綺麗に笑った。
何で名前を知っているのか確認する間もなく、文美は僕を押し倒すようにベッドへと倒れこんだ。
そこから先は、記憶が吹っ飛んでしまうくらいに夢中で、東京に出てきてからの寂しい気持ちをぶつけるように夢中で文美の身体を求めた。
これで満たされる…
もう、寂しいなんて気持ちにならんでもええ…
そう思った次の日の朝、起きたら文美は跡形もなく消えさっていた。
部屋のどこを探しても、服やかばんはもちろん、靴だって見つからへん。
電球が切れて明かりのつかない薄暗い部屋に一人、いてもたってもいられんくて、部屋を飛び出した。
どこを探しても、誰に聞いても、文美の存在を知る人はおらん。
「文美…!」
彼女の名前を呼ぶと、周りにいたはずの人間が、ぽつりまたぽつりと消えていく…
大きな声で、声の限りに叫べば叫ぶほど、周りにあった建物まで消え始めて…
最後は、僕の足元まで崩れ去った…
――そんな現実が入り混じった悪夢。
起き上がって、カーテンを閉め忘れた窓の外を見れば、きらびやかな東京の街のネオンとぼんやりとした俺の姿が映し出される。
小さい時は、明日世界が終わってまうんやないかって寝れない日もあったんやっけ…なんてことまで思い出してしもうて、ぶるっと小さく身震いをした。
文美にすがりつきたいのをこらえて、頬を撫でてそのぬくもりに心底安心する。
文美がいるから大丈夫や…
窓から漏れる明かりを頼りにキッチンに行って、蛇口から直接水を飲んだ。
いくらかスッキリした頭で、文美の元に戻って、今度は唇をなぞるように撫でた。
「俺のこと、置いていかんでな…」
『あっくん…』
ふふっと嬉しそうに笑った文美にこの情けない言葉を聞かれたんやないかとドキッとする。
けれど、すーすーと寝息を立てて起きる気配はないことにほっとする。
その幸せそうな寝顔に、こいつは幸せな夢、見とるんやなと笑みが漏れた。
東京に何にもなくてもええ、文美さえおれば…
僕のそんな気持ちを見透かしたように、文美はまたふふっと笑って寝返りを打った。
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2021.9.15. 土屋祭り
Inspired by yam/a「春を告/げる」
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