後悔する 素敵じゃない【藤真健司】
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朝、誰もいない教室で、降り続ける雨を見上げながら、俺は何度目か分からないため息をついた。
まだ少し肌寒さを感じるくらいの気候だというのに俺たちの夏は終わってしまった。
そう思うと、さらに空しい気持ちになって、また一つ大きなため息をついた。
早すぎる夏の終わり。
いや、俺にとってはまだ始まってすらいないのに…終わってしまった。
『藤真、おはよ…早いね』
そんな風に隣りに座ったコイツもまた浮かない顔をしている。
正直、誰かと話したくなかったから、こんなに早い時間に来て、クラスの奴らが来る頃には机に突っ伏して寝てしまおうと思っていたのに…
でも、今、名字に会えてほっとしているのも事実だ。
「はよ…そっちこそ、早いんだな」
『まぁ…ね……一人になりたくて早く来たのに、藤真に先越されたけどね』
「悪かったな」
『いいよ…男バスもインハイ逃したんでしょ』
「"も"っつうことは、名字の女バスも?」
『そう。予選敗退。今年は行けると思ったんだけどね…』
「俺たちは、初戦敗退で、決勝リーグすらいけなかった」
『そっか…』
そう言った後に、名字は俺よりでかいため息をつきながら、立ち上がって窓を開けた。
ザーザーと雨音が一際大きく聞こえる。
じっとりとした湿気も入り込んで、さらに気が滅入りそうになる。
梅雨のどんよりとした雰囲気が今の俺たちにはピッタリだ。
外を見たまま動かない名字の隣りに、俺も立ち上がって肩を並べた。
『ねぇ、健司…』
「ん?下の名前は学校では呼ばないんじゃなかったのかよ」
『健司の気分なの』
「そうか…」
俺は、窓枠に置かれた名字の手の甲に手を重ねた。
『そっちこそ、学校では手をつないだり恋人らしいことがしないんじゃなかったの?』
「そういう気分なんだよ」
『ふーん』
俺たちは付き合っていると言っても、学校ではそんなそぶりを微塵を見せたことがないから、恐らくはバスケ部の連中だって知らないと思う。
同じバスケ部のキャプテン同士接点がそれなりにあるのも不自然ではないだろうし、デートらしいことはいつもお互いの家に行くだけだ。
でも、今日ばかりはほんの少しだけ甘えたい気持ちなのはお互い様なのかもしれない。
「そっちはどうする?」
『そっちこそ』
バスケを冬まで続けるかなんて核心を突かなくても二人にだけは分かるの問いを投げかけあう。
正直、選手兼監督なんていう重責から逃れたい気持ちもないと言ったら嘘になる。
だからまだ、ハッキリと冬の選抜まで残るか決めきれていない。
「俺はさ、あの一試合、後悔ばっかでなんも褒めるとこがねぇ」
『私も予選ラストの試合は、後悔ばっかりだよ…』
「もっと早くに試合出てたらな…」
『もっと早く交代してたら…』
「なんで、後悔ばっかしちまうんだろうな」
『だね…キラキラした青春マンガみたいにもっと泣いた方がいいかな』
「俺はもう泣いた」
『私の前では?』
「泣かねぇ」
俺は、重ねた手をギュっと握る。
『素敵だね』
「素敵じゃない」
『それもそっか…』
雨脚が一層強くなったようで、ザーザーとうっとうしいくらいに音が響く。
後悔ばかりで、ちっとも素敵なんかじゃねぇ。
俺は、また一つため息をついた。
『健司は、冬まで続けてよ』
「名字は?」
『キャプテンは後輩に譲る。いっそのことバスケ部も引退して、健司の彼女として彼氏を応援する女子高生にでもなろうかな』
「は?」
『嘘。バスケ部には秋ごろまで残るけど、もともと大学ではバスケ続けるつもりないし、公式試合に出るのはもう終わり』
「そうかよ」
『だから、健司は私の分まで冬まで残って、活躍して…?』
「んー、それもアリかもな」
そんな動機でいいのかよって思われそうだけれど、こうやって応援してくれて、自分の夢まで託してくれる相手がいるのも悪くない。
『私は、健司が頑張ってる姿見て、受験勉強頑張るよ』
「名字…」
『そう……だから、"お疲れ様"のキス、して?』
向き合って、名字が目を閉じたのを合図にそっと唇を重ねた。
「…kakikukeko」
勇気を出して呼んだ下の名前に、はにかんで笑ってくれるkakikukekoがいた。
相変わらず雨は降り続いているけれど、kakikukekoと思い出が出来た日だと思うと悪くない。
後悔するのも素敵じゃない?って笑える日がいつか訪れるんだろうな。
そう思えるくらいに俺の気持ちはいくぶんか晴れやかになった。
***
2022.11.07.
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こぼれ話→後悔する 素敵じゃない【藤真健司】
まだ少し肌寒さを感じるくらいの気候だというのに俺たちの夏は終わってしまった。
そう思うと、さらに空しい気持ちになって、また一つ大きなため息をついた。
早すぎる夏の終わり。
いや、俺にとってはまだ始まってすらいないのに…終わってしまった。
『藤真、おはよ…早いね』
そんな風に隣りに座ったコイツもまた浮かない顔をしている。
正直、誰かと話したくなかったから、こんなに早い時間に来て、クラスの奴らが来る頃には机に突っ伏して寝てしまおうと思っていたのに…
でも、今、名字に会えてほっとしているのも事実だ。
「はよ…そっちこそ、早いんだな」
『まぁ…ね……一人になりたくて早く来たのに、藤真に先越されたけどね』
「悪かったな」
『いいよ…男バスもインハイ逃したんでしょ』
「"も"っつうことは、名字の女バスも?」
『そう。予選敗退。今年は行けると思ったんだけどね…』
「俺たちは、初戦敗退で、決勝リーグすらいけなかった」
『そっか…』
そう言った後に、名字は俺よりでかいため息をつきながら、立ち上がって窓を開けた。
ザーザーと雨音が一際大きく聞こえる。
じっとりとした湿気も入り込んで、さらに気が滅入りそうになる。
梅雨のどんよりとした雰囲気が今の俺たちにはピッタリだ。
外を見たまま動かない名字の隣りに、俺も立ち上がって肩を並べた。
『ねぇ、健司…』
「ん?下の名前は学校では呼ばないんじゃなかったのかよ」
『健司の気分なの』
「そうか…」
俺は、窓枠に置かれた名字の手の甲に手を重ねた。
『そっちこそ、学校では手をつないだり恋人らしいことがしないんじゃなかったの?』
「そういう気分なんだよ」
『ふーん』
俺たちは付き合っていると言っても、学校ではそんなそぶりを微塵を見せたことがないから、恐らくはバスケ部の連中だって知らないと思う。
同じバスケ部のキャプテン同士接点がそれなりにあるのも不自然ではないだろうし、デートらしいことはいつもお互いの家に行くだけだ。
でも、今日ばかりはほんの少しだけ甘えたい気持ちなのはお互い様なのかもしれない。
「そっちはどうする?」
『そっちこそ』
バスケを冬まで続けるかなんて核心を突かなくても二人にだけは分かるの問いを投げかけあう。
正直、選手兼監督なんていう重責から逃れたい気持ちもないと言ったら嘘になる。
だからまだ、ハッキリと冬の選抜まで残るか決めきれていない。
「俺はさ、あの一試合、後悔ばっかでなんも褒めるとこがねぇ」
『私も予選ラストの試合は、後悔ばっかりだよ…』
「もっと早くに試合出てたらな…」
『もっと早く交代してたら…』
「なんで、後悔ばっかしちまうんだろうな」
『だね…キラキラした青春マンガみたいにもっと泣いた方がいいかな』
「俺はもう泣いた」
『私の前では?』
「泣かねぇ」
俺は、重ねた手をギュっと握る。
『素敵だね』
「素敵じゃない」
『それもそっか…』
雨脚が一層強くなったようで、ザーザーとうっとうしいくらいに音が響く。
後悔ばかりで、ちっとも素敵なんかじゃねぇ。
俺は、また一つため息をついた。
『健司は、冬まで続けてよ』
「名字は?」
『キャプテンは後輩に譲る。いっそのことバスケ部も引退して、健司の彼女として彼氏を応援する女子高生にでもなろうかな』
「は?」
『嘘。バスケ部には秋ごろまで残るけど、もともと大学ではバスケ続けるつもりないし、公式試合に出るのはもう終わり』
「そうかよ」
『だから、健司は私の分まで冬まで残って、活躍して…?』
「んー、それもアリかもな」
そんな動機でいいのかよって思われそうだけれど、こうやって応援してくれて、自分の夢まで託してくれる相手がいるのも悪くない。
『私は、健司が頑張ってる姿見て、受験勉強頑張るよ』
「名字…」
『そう……だから、"お疲れ様"のキス、して?』
向き合って、名字が目を閉じたのを合図にそっと唇を重ねた。
「…kakikukeko」
勇気を出して呼んだ下の名前に、はにかんで笑ってくれるkakikukekoがいた。
相変わらず雨は降り続いているけれど、kakikukekoと思い出が出来た日だと思うと悪くない。
後悔するのも素敵じゃない?って笑える日がいつか訪れるんだろうな。
そう思えるくらいに俺の気持ちはいくぶんか晴れやかになった。
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2022.11.07.
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