センチネル・プライムの蘇生が開始されるのをティスランドは壁際で黙って見守っていた。彼の事を知っているオートボット達が期待に満ちた眼差しをオプティマスへと向けている中、ティスランドはエネルギー切れを起こしているセンチネルを黙って見つめる事しかしない。

　『（オプティマスの師、か）』

きっと素晴らしい人なのだろうなとティスランドは思う。
　けれど何故か無性に嫌な予感がずっとしているのだ。
　それはティスランドのスパークの奥底に居るストラトスがまるで必ず悪い事が起こると確証を得ているかのように、絶えず何かを警戒するかのように刺々しい雰囲気をしていることから間違い無い。

　『私には何が出来るのだろうな』

何もかもが不足している事をティスランドは知っている。
　ストラトスはかつて航空参謀の直属の部下としての実力があり、戦闘に関しては彼の方が良く解っている。
　セイは人間としてどう動くべきか解っていて、ＮＥＳＴ隊員達との円滑なコミュニケーションを教えてくれる。
　けれどティスランドには何も無いのだ。
　経験も知識も何もかもが不足していて、それが時折どうしようもなく息苦しく感じられていたが、最近では特にそのような事を思う事が多い。

　『ティスランド？どうした？』

名前を呼ばれたティスランドが視線を向ければそこにはサイドスワイプが立っていた。
　彼は足下のタイヤを動かしながらティスランドへと近づいてくると、気遣うかのようにそっと肩に触れてくる。

　【何かあったのか？】

ここには人間もオートボットも多く居るため音声での会話は拙いと判断したらしいサイドスワイプは極秘回線での通信を選ぶ。
　
　【・・・何も問題はない】

　【嘘つけ。お前が不自然に黙り込んでいるときは良くない傾向だってジャズが言っていたぜ？俺にも話せないことか？】

まさかジャズとサイドスワイプがそうした話をしてるとはティスランドは想像すらしていなかった。
　二人が純粋に自分を気遣ってくれているのだということは解っている。ましてや一つの身体の中に三つの人格を有しており、その内の一つがディセプティコンという事もあってか必要以上に自分の事に関して色々と気に掛けるのは当たり前だとティスランドは認識している。
　けれど、それ受け入れるのと同時にある考えも抱いてしまう。
　自分は一体どれほど頼りない存在だと思われているのだろうか？
　彼等に守って貰わなければならない存在なのだろうか？
　そう思った瞬間、スパークの奥底から言いようのない感情が込み上げてくる。それは人で言う怒りにも似た感情で、ティスランドは何故自分がそんな感情を抱くのか解らない。

　【ティスランド。落ち着け】

　【私は冷静だ】

　【・・・冷静な奴の目に赤い色が混じるわけねぇだろ？】

その言葉にティスランドは信じられないと言うかのようにサイドスワイプを見る。
　彼の銀色のボディに映る自分の顔を見ると、確かに青い目の縁にジワリと浮かぶ赤い色があり、それに気づいたティスランドは信じられない気持ちになる。
　落ち着かなければ、そう思えば思うほど赤い光が青を飲み込んでいく。
　このままでは拙い事態になってしまう、早く元の色に戻らなければ、ジリジリと迫り来る焦燥感に支配されながらも必死に冷静さを取り戻そうとするティスランドへと誰かの声が届けられる。



　『だから言っただろうストラトス。お前がどれだけなにを語ろうとも、お前はお前だ。俺と同じディセプティコンだ。オートボットではない。忘れるな。お前はいずれ俺の元に下る』



嘲笑うかのようなその音声を聞いた瞬間、ティスランドは自分のブレインのどこかで回線がショートする音を聞いた。