久方ぶりの再会に喜んでいるバンブルビーに対し、サムは最初こそ素っ気ない対応をしていたのだが次第に少しずつその顔に笑みが浮かび始める。
　ソレを見たティスランドは自分がいては邪魔になるなと思い、少し離れた所に移動しようとした時だ。
　少し離れた所に佇んでいる女性の姿に気づく。
　何が起っているのか解らないという顔をしている女性の元へとティスランドがそっと近づけば、金属の擦れる音と大きな足音を聞いたらしい女性の視線が向けられる。

　『サム・ウィトウィッキーの知人か？』

　「知人と言うよりは恋人っていう表現の方が正しいわね。私はカーリー・スペンサー。貴方の名前を聞いても？」

　『失礼した。私はティスランド。サムと戯れている黄色い奴はバンブルビーだ』

淡々とした声で自己紹介をしたティスランドは少し腰を屈めるとジッとカーリーの顔を見つめる。
　穏やかで知的な雰囲気をしているカーリーは、サムが学生時代に恋人として交際をしていたミカエラとはタイプが違っていた。

　『一つ聞いても？』

　「えぇ。私に答えられることなら」

　『今のサムは俗に言う無職、またはＮＥＥＴという存在だ。貴方はそれに関して何かを思ったり、感じたりすることはないのか？衣食住は貴方が提供しているのならば、サムはヒモと呼ばれる存在だが構わないのか？』

ティスランドにとっては悪意のない純粋な疑問だったのだが、カーリーにとっては意外すぎる質問だったらしく少しの間、キョトンとした顔をして黙り込んでいたが次第に肩を震わせながら笑い始める。
　ある程度笑いの波が引いたらしいカーリーは目尻に浮かぶ涙を拭うと呟く。

　「・・・驚いたわ」

　『何に対してだろうか？』

　「貴方の質問によ。だってまさかそんな俗な話題を振ってくるなんて思いもしなかったもの。私はてっきりもっとこう・・・色々と難しい事を問われるのかと思っていたのよ」

クスクスと楽しげに笑いながらカーリーは答える。
　その返答にティスランドは自分はそんなに妙な質問をしたのだろうか？と思いながらカーリーを見つめることしか出来ない。

　「どうしてそんな事を聞こうと思ったの？」

その問いにティスランドは肝心の部分を伏せつつカーリーの問いに対して答える。

　『ある女性達と話す度に最終的には必ず、彼氏との惚気話だったり、旦那の愚痴を言ったりする展開になるのだ。感情のままに下される決断、矛盾した思考、けれど結果的に彼女達はそれに関して満足している。私には彼女達の話している内容が解らない』

ＮＥＳＴの女性隊員達の会話を思い出しながらティスランドは答える。
　人間の女性でもあったセイには彼女達の話に対してとても共感が出来たし、知らなかった事も色々と知られて楽しかったのだが、金属生命体であるティスランドには今一よく理解することが出来なかった。

　『以前、ある人にこの疑問を問いかけようと思ったのだが・・・ブレインが下した決断は拒否だった』

サムのかつての恋人であるミカエラに聞けなかったのは、聞けばきっと彼女は素敵な笑みを浮かべながらスパナか電動鋸を持って殴りかかってきそうな予感がしたからだ。
　ティスランドの中にいるストラトスが『俺はまだ破壊されたくはない』と必死に抵抗した為、聞けなかった理由の一つである。

　『色々と問題を抱えているサムの恋人である貴方ならば私の疑問に対する答えを持っているような気がした。我々は人間とは違って感情で決断を下すことはしない。全ての事を計算して合理的な判断を下す・・・故に、時々解らなくなる。人間と我々のどちらが一体正しいのかと』
　
ティスランドの言葉に困ったように微笑んだカーリーは未だにバンブルビーと話をしているサムの姿を見つめながら、とても優しい目をして答えた。

　「私達だって時には合理的な判断を下すわ。だけど、結局最後には自分の気持ちに、心に抗えなくなるの・・・それが愛するって事だから」

満ち足りた顔をしてカーリーから言われた言葉に、何故かスパークが軋むような音と共にい、誰かが同意するかのような声をティスランドは聞いた。