政府が定めたルートを走行していたストラトスはいつもと何一つ変わらぬようにしながら走っていた。欠伸が出そうなほどゆっくりとした速度、時折見かける運転の下手な奴、整備のなっていない車の出す不快音に苛立ちを感じながらも、それを欠片も出さぬまま走行していた時だ。

　『（来たか）』

ミラー越しに見えた銀色。
　それに気づいたのと同時にストラトスはエンジンを吹かす。
　高速回転したタイヤがアスファルトに擦れて微かな白煙が上がる。
　トロトロと前を走っていた車を次々と追い越しながらストラトスは今までにはない速度で走行する。
　政府の下した命令とはかけ離れた行動。
　今まで人間の下した命令に大人しく従っていた存在が、突然その命令に背くというそれにあの狡猾な参謀が気づかぬ訳がない。

　『さぁ誘いにのってくれよ？』

楽しげな声でそう呟いたストラトスの声を聞く者はいない。
　人気の無い場所へと向かって走行を始めれば、背後に見えていた銀色が一定の間隔を保ったまま着いてくる。
　どれくらい走ったのかは解らない。
　人の気配のない廃墟へと入るのと同時にストラトスはトランスフォームをする。
　背後から聞こえてきた自分以外の音にストラトスが振り返ればティスランドとよく似た背丈をした銀色の機体が居た。
　真っ赤な色をしたカメラアイがストラトスを射貫く。

　『・・・・ストラトス』

　『スタースクリームの馬鹿以外に俺をそう呼ぶ奴が居るとはな。俺のことを知ったのはあの馬鹿からか？』

　『あぁそうだ。スタースクリームの馬鹿から聞いている。それ以外にも人間共の中に紛れ込ませていた者からの報告もある。アリスから当初はお前の話を聞いた時は信じられなかったが実際にこの目で見た以上、俺の目の前に居るのはストラトスなのだと認識しなければならない』

アリス、その名前をストラトスは自身のブレインで検索すると、サムを護衛する任務を与えられたときにディセプティコンが送り込んできたプリテンダーがそのような名前だったことを思い出す。
　彼女のマスターがサウンドウェーブだったという事に対し、ストラトスは舌打ちをしたくなった。
　可能な限りサウンドウェーブには情報を与えたくはなかった。
　この男は一つの情報で数え切れないほどの策を考えつくからだ。

　『流石は情報参謀様。大事なことは自分の目で確認しなきゃ納得しないか』

　『報告だけでは信憑性に欠けるだろう？今のお前にはかつての面影はない。何より、お前が何よりも誇っていた翼は喪われている』

　『・・・・触れて欲しくはない部分を容赦なく攻撃する陰湿な性格が変わりないようで安心したぜ。性根の悪いアンタのせいで何度俺の意見が退けられたことか解らねぇ』

　『全て過去の事だ。それに先程の発言には多少の修正が必要だ。俺が意見を退ける回数よりもお前の意見が採用された事の方が多かった』

淡々とした口調で返された言葉にストラトスはやはり目の前に居るのがディセプティコンが誇る情報参謀、サウンドウェーブである事を理解する。
　サウンドウェーブ相手に長話をして良い結果にはならない事くらい、過去に何度か話し合いをして嫌とい程解っている為、早急にこの会話を終わらせるのが得策であることくらい解ってはいるのだが、長い間しつこく付きまとわれたのだから何かしらの情報を手に入れて帰りたいとストラトスは思うが、サウンドウェーブ相手に果たしてどこまで自分が口で対抗できるのだろうか？と考える。。

　『今更懐かしい昔話をしようってわけじゃねぇよな？何が目的で俺に付きまとう？無駄を嫌う情報参謀様ならさぞかし解りやすい説明をしてくれるんだろう？』

ケラケラと嘲笑いながらストラトスはサウンドウェーブを挑発するが、その誘いにサウンドウェーブが乗ることはしない。
　ならばやり方を変えようか、そう思ったストラトスが問いかけるよりも早くサウンドウェーブが動いた。

　『ストラトス。俺の元に下れ』

そうする事が当然だ。
　至極当たり前のことのように語られた言葉にストラトスはなんともディセプティコンらしいなと思えた。