誰も居なかった運転席に一人の女が座る。
　その女はセイを元として作り出された擬似的な存在だ。初めてこの命令を与えられた際、誰も運転席に乗せないまま街へと繰り出してしまいＳＮＳが騒然となったのだ。
　人間の常識に当てはめると少しばかり拙いと判断したラチェットにより、希望したオートボット達にのみこの擬人ホログラムがインストールされている。
　本来のボディから想定して作られた擬人ホログラムは誰もがイケメンであったことに気づいたティスランドは、少しばかり彼等に対して嫉妬したのは彼女だけの秘密だ。

　『将校殿。任務を遂行して参ります』

　『あぁ。無事の帰還を願っている』

任務に出る部下、その部下を労る上官としてジャズが言葉を交わしたときだ。
　一度だけ短くクラクションが鳴らされた為、なんだと思いジャズが運転席へと視線を向けた時だ。
　運転席に座ってハンドルを握っていたセイがニタリと嫌な笑いをする。乗っている人物の顔はセイだったが、その目が血のように真っ赤に染まっていることにジャズは気づくと嫌そうに顔を歪める。

　【よぅ！久しぶりだなぁ、むっつりスケベ将校。元気だったか？】

　【その目の色と口調からお前はストラトスだな？お前はスタースクリームの件と緊急時以外は出てこないはずだろう？だから俺とサイドスワイプはお前のことをオプティマスとラチェットに黙っているんだぞ？】

誰かにバレる前に早急に引っ込めと咎めるかのような視線をジャズが向ける中、ソレを嘲笑うかのように一台の日本車が格納庫から出て行く。
　
　【ちょっとばかり助言をしてやろうと思って出てきただけだ。ティスランドが言っていたベンツだが、アレはちーっとばかしヤバい奴だぜ？】

　【ディセプティコンか】

　【あぁ・・・それも一般兵じゃねぇ。戦う事が最優先のディセプティコンにとって人間の車なんて条件さえ合えばなんだって良いはずだ。それなのにあんな洒落て、目を剥くほどのお高い車をスキャンするような奴なんてのに思い当たるのは一人だけだ】

　【誰だ？】

　【サウンドウェーブ】

ストラトスから伝えられた名前にジャズは言葉を失う。
　情報参謀と呼ばれているサウンドウェーブの行方は未だに解らないままだが、メガトロンが地球に来ている以上、恐らく彼もまた地球のどこかに存在していることは明らかだ。
　以前、フォールンが地球に降りた際には人間が宇宙に上げていた衛星をハッキングし、全ての情報を掌握されたという苦い思い出が蘇ったジャズが顔を歪める中、ストラトスは淡々とした声で告げる。

　【あの情報参謀殿がティスランドをストーキングするのは俺に会いたいからだ。どっかのむっつりスケベ将校と同じく、俺が表に出てくるのを待っている】

　【俺をその名前で呼ぶのは止めろ】

　【嫌だね。俺は今後もあんたをこう呼び続ける・・・お前も薄々はこの命令に関して可笑しいって思っているんだろ？その通りだ。コレは明らかに俺と接触したいが為にサウンドウェーブが仕組んだことだ。ったく、あの野郎は昔っからやることは陰険なんだよ】

　【・・・ストラトス。なにするつもりだ？】

　【雁字搦めの規則に縛られて夜遊びすら出来ねぇ息苦しい生活の中で与えられた散歩に出る度、人のケツばっかり見られることに関していい加減こっちは我慢の限界なんだよ】

　【お前まさかサウンドウェーブと接触するつもりか！？】

　【ご名答ッ！！アンタ相手だと話が早いな】

　【ふざけるなッ！！！サウンドウェーブ相手に無事で済むわけがないだろうが！！その身体はお前のものじゃねぇ！！！】

　【知ってるさ。そう心配するなよ。俺の予想ではいつも通りに帰還できる。門限とやらは守るから安心しろ】

ケラケラと笑いながら言われた言葉を最後に極秘回線がブツリと切れる。
　ジャズは唖然とした顔していたが再度、極秘回線を繋ごうとしたがティスランド側から遮断されているらしく通信は繋がることはなかった。