ティスランドの元にはこうして時々、政府からの任務が与えられている。
　他のオートボットにはない命令だ。
　ティスランドでなくとも良いはずの命令を何故か政府はティスランドにだけ行えと命令を下す。

　【またお前だけか？】

極秘回線でジャズが話しかけてくる。
　彼はこの事に関してあまり良い感情を抱いていない。レノックスを通して抗議をしているが、ティスランドに命令を下している者はかなり権力があるらしく、抗議の言葉全てが消されていた。

　【そのようです。またいつも通りの命令ですのでご安心を】

　【本当理解不能だよなぁ。交通ルールを守りつつ街中を１時間走り続けろなんてのは】

　【政府としてはオートボットが人間の車達に擬態し、そして街中を走行しても問題ないかの確認でしょう】

　【だとしてもティスランドだけに命令する？他のヤツにだって命じても良いはずだ】

もっともらしいジャズの言葉にティスランドは言葉を返せずに黙り込む。
　それに関してはティスランドとて考えた。
　怪しまれないか確認するのならば多種多様な車を走行させるべきなのだ。それなのに毎回命令が下されるのはティスランドだけ、というのがジャズにとっては気になった。

　「ティスランド。命令は読んだな？ならばすぐに命令を実行しろ」

　『了解した』

　【コイツも怪しいよな。ってかコイツは撃って良いだろ？毎回俺とお前が楽しくおしゃべりしているタイミングを見計らってやって来やがる】

苛立ちを隠さずにジャズが告げた言葉を聞きながらティスランドはビークルモードへと変形すると、一度だけエンジンを大きく吹かす。

　【将校殿が私と話せるということはそれだけ暇で平和だということです。だから命令が私に出るのでしょう】

　【・・・・なら、良いんだ。お前なら大丈夫だと思うが、悪い車には着いていくなよ？】

幼い子供の買い物に対して親が言うかのような発言に対しティスランドは反論したくなったものの、この任務をしているときに必ずと言って良いほど遭遇する一台の車の存在を思い出した為に言い返すことができずに沈黙をする。
　子供扱いしたのならばいつも何かしら言葉を返してくるはずのティスランドが黙ったことにより、ジャズはまさかと言うかのような顔をしてカメラアイを大きく開く。

　【ティスランド。怒らないから正直にジャズさんに知ってること全部言いなさい】

　【将校殿はそう言っても絶対に怒りますよね？すみません。そんな怖い顔をしないで下さい。私が悪かったです。・・・私の気のせいかとばかり思っていましたが、将校殿の言葉を聞いてもしかしてと思いまして】

　【お前なぁ】

　【申し訳ありません】

　【謝罪は良い。で？お前を狙っている悪い車は？】

　【メルセデス・ベンツSLS AMG】

　【良い車だな】

　【えぇ。ですが黙って私のケツばかり追いかけてくる奴は眼中には入りませんね】

　【ケツって言わない！！】

　【失礼しました。ですがエップス軍曹が良くケツ、ケツと言っていたので】

　【・・・・あの野郎ッ！！】

ここにはいないエップスへと向かいジャズが罵倒を呟いているのをティスランドがジッと見つめていると、いつまで経っても出て行かないティスランドに痺れを切らした男が運転席のガラスをトントンと叩く。

　「時間が惜しいんだから早く疑似人ホログラムを起動させ、速やかに命令を実行しろ！」

ご立腹らしい男の言葉にティスランドは口先だけの謝罪を告げると、男の言ったとおり擬人ホログラムを起動させた。