5章:遠出と取引と少しばかりの罪悪感
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「『お前最低だな』」
下らないと吐き捨てるかのような、それでいてどこか怒りを含んでいるかのような口調で言われた言葉。
セイの口から出たのはエフェクトがかった声をした男のものだった。
弾かれたようにジャズがセイを見ると、そこにいたのは先程までジャズの発言一つに対して動揺していたはずの情けないアジア人の少女の顔ではなかった。
ジャズへとヒタリと向けられた視線は鋭く、そして何よりもその目の色は違っていた。
鮮やかな青い目から血のような赤い目へといつの間にか変わっていて、ようやく現れた相手にジャズはブルリと身体を竦ませた。
”彼”の視線はジャズへと向けられている。
敵意を持った目がジャズを射貫く。
「・・・アンタは?」
「『ストラトスだ。初めまして将校殿?・・・・んで?コイツを虐めて、追い詰めて、意図的に傷つけて、そして拒絶してまで俺を引きずり出した目的はなんだ?下らねぇことだったら殺すぞ。将校殿もこのガキもな』」
ストラトスはニヤニヤと嫌みな笑みを浮かべながらダッシュボードを足でガツンッと蹴りつけてジャズの反応を窺っている。
この日、ストラトスが履いていた靴は少しだけヒールのあるものだ。
ヒールが当たった部分がへこんでいることに気づいたストラトスは一瞬だけ顔を引きつらせたが、すぐにまぁどうでも良いかと思うとソレを見なかったことにする。
『いってぇ!?何しやがる!!!あぁッ!?へこんでるじゃねぇかよ!!!』
自分の身体の中を突然蹴られたサイドスワイプが抗議の声を上げる。
理不尽な暴力により傷つけられた車内に気づくと謝れッ!と言うかのように抗議の声を上げるが、ソレを聞いてもストラトスは謝る気などない。
「『痛ぇわけねぇだろ。手加減してる。ってか傷ついたのはテメェの装甲が貧弱だったからだろ?俺が悪いわけじゃねぇ・・・ったくガキや女みてぇにピーピー騒ぐなよ。大人の話し合いしてるんだから空気読んでガキは引っ込んでろ』」
『二回もガキって言った!?ってか俺の方が年上だぞ!!』
「『あーもう黙ってろよ、クソガキ』」
うんざりとした顔をしながらヒラヒラと手を振ったストラトスはスッとジャズの方へと視線を流す。
サイドスワイプと話していたときとはまるで違う顔、声でストラトスはジャズに話しかけた。
「『んで?俺の質問には答えてくれねぇの?将校殿?このまま黙り続けるってなら俺にも考えがあるんだが?このクソガキを痛め続けても良いのか?』」
「コレは俺とお前の問題だろ?サイドスワイプを痛めつけてもお前が得られるメリットなんて僅かなもんだ。ディセプティコンらしく他人を虐げることが好きなのか?」
「『質問に質問で返すのはお行儀が悪いんじゃ無かったのか?』」
ニタリと笑った顔は悪意で満ちている。
それはジャズがセイへと言った言葉であった事から、恐らく記憶の共有を彼等がしていることにジャズは気づく。
下手な嘘はつけそうもない。
動揺することは負けを意味するだけだ。
静かな車内に場違いなほど明るいBGMが流れる中、ジャズは気を引き締めるかのようにハンドルを一度だけ強く握った時だ。
「『いい加減はぐらかすのは止めて俺の質問に答えろよ、将校殿?』」
嫌みなくらいに将校殿、と呼ぶストラトスのニュアンスは嫌でもティスランドを思い出させ、無意識の内にジャズのスパークを刺激した。
微かな痛みと不快感から気づけばジャズは唸るような声でストラトスの問いに答えた。
「アンタが将校殿って呼ぶのを止めたら答えてやるよ」
「『へぇ?俺に意見できる立場だと思ってんのか?』」
「あぁ。なんの策もなく俺がアンタと話すとでも思ったのか?」
ビリッとした車内の空気。
殺意と殺気が折り混ざり合った険悪な雰囲気にサイドスワイプは泣きたくなったのは彼だけの秘密だ。