サイドスワイプの中からセイはジャズと両親の姿をジッと見ていた。
　時折、両親がサイドスワイプの方へと視線を向けてきたり、何かを頼むかのように深々と頭を下げているが、ジャズはそれら全てをいとも簡単に受け流す。
　朗らかな笑みを浮かべながら、ジャズは自分にとって”オートボット”の都合の良い展開へと運んでいく。
　少しずつ、父親の方が落胆を隠せない表情をしながら諦めを見せ始める。
　生みの親の直感がそうさせるのかは母だけは必死に尚もジャズに食い下がっていたが、痺れを切らしたかのようにサイドスワイプの方へと近づこうとするが、それを諫めるかのように父が母の肩を掴む。
　信じたくは無い、そう言いたげな母の顔を見たセイの目からついに涙が溢れる。
　言いたいことも、伝えたいこともたくさんあるのに、ソレは何一つとして叶わない。
　それを妨害しているのは最も自分が信頼していた人。
　それがセイを苦しめる。

　『セイ』

　「なんで？ジャズさん解ってるよね？私のお母さんとお父さんだって」

　『そ、そのな・・・・将校にも色々とあるんだよ』

　「色々ってなに？なんの説明もなしにこんな酷い事する理由って何？」

あの人達がセイの両親であると、生みの親であると解っているはずなのにジャズはそれらを容赦なく否定していくのだ。
　解らない。
　なんで？どうして？と泣き叫ぶ心を無視したままセイはジャズを見つめる事しか出来なかった。
　ボロボロと涙を流し続けるセイの姿を見たサイドスワイプは酷く困惑した声をラジオから響かせている。

　『な、泣くなよ』

インターネットに接続し、人間の泣き止ませ方、慰め方、を探すがそのどれもが今のサイドスワイプには難しすぎた。

　『（ジャズ。頼むから早く戻ってきてくれ・・・ってかコイツも早くティスランドに戻ってくれよ。俺じゃ無理だって。対処できねぇよ）』

泣き言をこっそりと自分の胸中で呟いたサイドスワイプは意識をジャズへと向ける。
　相手に不快感を与えないようにしつつやんわりと牽制し、そして的確に意見を否定している話し方を聞いていると、自分では決して出来ないやり方だとサイドスワイプは思う。
　自分ならば途中から面倒くさくなって、きっと乱暴な口調で言葉を返すだろうことは明らかだな、と考えたときだ。
　ジャスがくるりとサイドスワイプの方へと視線を向けたかと思えば、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。
　トントン、と軽く窓を叩かれたサイドスワイプがどうしたのだ？と思った時だ。

　「ロック解除してくれ」

　『・・・良いのか？』

　「あぁ。無事に解決しそうだ」

にっこりと笑ったジャズの顔には勝利を確証していた。
　それはつまりセイにとっては良くない結果となる。少しだけ、同情しながらもサイドスワイプはロックを解除するとドアを開ける。

　「セイ？泣いてたのか？おいおい・・・サイドスワイプ、可愛い妹分を虐めるなよ。全く、お前はいつまで経ってもガキだなぁ」

　『・・・いや。泣かせたのは俺じゃねぇし』

アンタだよ、アンタ！！
　そう言いたいのを必死に堪えながらサイドスワイプはジャズとセイへと視線を向ける。

　「セイ。降りてくれ。あのご夫妻がお前に話があるそうだ」

　「車に乗れって言ったり、降りろって言ったり矛盾してますね」

苛立った声でセイはジャズに答えると荒々しい仕草でサイドスワイプから降りると、思い切りドアを閉める。
　俺に八つ当たりするなよッ！！そう叫ぶサイドスワイプの声は二人には聞こえているのに、二人は反応すら示さず、少しだけサイドスワイプは悲しくなったのは彼だけの秘密だ。